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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国
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9話 エルフの里②~長老モリー・モギー~

 ぐるりと囲われた柵でも、やはり入り口は存在する。木の板で作られた入り口は両開きの扉となっており、その扉の左右にも見張りがいる。見張りが扉を開けると、エルフの里の中に入ることが出来た。

 左右を見渡すマナがポツリと呟く。


「里と言っても、やはり龍族とエルフでは全く違うのですね」


 龍の里はどこまでも平地で、その中に畑や家々が点々としていた。エルフの里は所々に大木があり、小さな畑が点々とし、地面に建てられている家もあれば大木の太い枝に建てられている家もある。

 種族の違いが語る生活感が視界で分かるのだ。


 フォルトアもじっと周りを見ている事で、イゼルはふっとほほ笑む。


「お前達、彼らを初めて見るのか?」


「ええ、存在だけは話に聞いていただけです」


「僕はこの時代に来る前に初めて見ました。ただ、里を見るのは初めてです」


 これにイゼルは「そうか」とだけ返事をした。

 マナとフォルトアの目に映るエルフは、尖った耳に緑系の髪、女性の頭にはハンカチーフを捩じったようなものが巻かれている。男性は鍬を持っている者や背中に矢筒を下げて弓を持っている者がいた。

 皆、服装は派手な物を好まぬようで、大人しい白や茶系の服が目立っている。


「こちらです」


 と一人のエルフが手で方向を示し、案内をし始めた。

 道中、やはりマナを見てひそひそと話す声がする。


「見て、人間よ」


「でもレイトーマ人だ。だったらまだ安心出来るな……」


 龍の里では人間というだけで拒絶反応が起きていたというのに、エルフの里は違う。人間の中でも国別に警戒すべき相手を選んでいるようだ。

 これにマナは少なからず胸を撫で下ろす。


 暫く奥へ奥へと歩いていると、一際大きな家に着いた。家、というより屋敷のようだ。といってもイゼルの屋敷よりは小さい。

 門を潜り、ほんの少し先にある玄関に入ると、案内人がエルフから使用人に変わった。

 そこから更に奥の部屋へと案内されると――


「おお、イゼル殿、ようやってきたな」


 耳の垂れた皺の多い、杖で体を支えている老婆が待っていた。暫く若い姿しか見ていないマナにとって、久しく見た老人の姿である。

 龍族の寿命は千年と聞くが、他の異種族の寿命は知らないマナ。故に、この老婆の年齢も不明なのだ。


「モリー・モギー殿、ご体調は如何ですかな」


「まーだまだピンピンしとるわい。ふぇっふぇっふぇ……ぶしっ!」


 鼻がむず痒くなったのか、盛大にくしゃみをするとモリーの口の中から何かが飛んできた。

 それをすかさず手で掴むイゼル。彼が掴んだ物、それは入れ歯である。

 驚きで目を真ん丸くするマナとフォルトアは、その入れ歯の行方をただただじっと見た。


「ふふぁんふぉう」


 すまんのう、と言っている老婆はよろよろとイゼルに近寄ると、入れ歯をがっしりと掴み口の中へ入れる。


「どうも最近、口の中が緩くなっちまってのう」


 と、歯をカチカチと鳴らして入れ歯を定着させているようだ。

 使用人がイゼルに手を洗うよう促し、彼はこくりと頷き、部屋から出て行ってしまった。

 どのように接すればよいか、残ったマナが悩んでいると――


「そこに座れ。龍族の若者と人間の娘」


 三枚の座布団がすーっと宙を飛んで部屋の中に入って来ると、横並びに置かれた。

 マナとフォルトアがその座布団に座ると、今度は使用人が急須入った茶がモリーの前に出され、湯呑が一つずつマナ達の膝元に用意される。


「ふぇっふぇっふぇっ、このモリー、まだまだ現役でのう。どれ、一つ茶で占いをしてやろう。急須を持てい」


 と言いながら茶がふわりと中に浮き、フォルトア、マナの順に急須を持つとその順に入れられた。厚めの湯呑の為か、さほど熱は伝わらないが湯気は立っている。


「ささ、冷めぬうちに飲めい」


 一体占いとは何なのだろうか。

 マナとフォルトアは一度視線を合わせると茶を覗き込み、口にした。適度な苦みが下の上一杯に広がり、香ばしい香りが鼻腔を通過する。

 あまりの美味さに全て飲み干しては勿体ないと思うマナ。

 急須から口を離した所で、イゼルが戻ってきた。


「おーおーおー、龍族の小僧。お前もさっさと座れ」


「小僧とは……。俺も六百は超えていますがね」と座りながら苦笑いするイゼル。


「小僧は小僧じゃ。わしのように千二百年生きたら認めてやるわい。ふぇっふぇっふぇっ」


 機嫌よく高笑いするモリーを前に、イゼルはマナ達に「千歳は超えていないんだ」とこっそり耳打ちをする。

 少々ボケているのかとも思うが、何も言わずに座っていればよいと考えるマナ。それはフォルトアも同じである。一族の長同士の話に、他人は突っ込むものではないからだ。


「時にモリー殿、ナン大陸の里の件だが……」


「それには心配及ばん。既に畑の準備は済んでおるわい。いつ引っ越してもいいぞい」


 用事というのは、江月建国の話らしい。

 話から推測するに、異種族と協力して新たな龍の里を作ろうとしているようだ。


「それは助かる」と安堵の表情を浮かべるイゼルに、モリーの表情は険しくなる。


「――じゃが、以前話した通り、例え新たな里を興したとしても、それは無駄になる」


 これに二百年後の世界で生きているマナとフォルトアは目を見開いた。

 モリーは静かに続ける。


「一時の平和の為にミッテ大陸を捨て、人の世界で生きようとする。わしには理解出来ぬ。我々エルフも千年の寿命と誇りを持つ異種族……。お前たちはその誇りさえも捨てようとしているのだぞ。何故自然の摂理の中で生きようとせぬ」


「……自然の摂理、か。それで次の族長を決めかねているのですか? 流れに沿って、滅びの道も止むを得ないという貴女のその考え、果たして他のエルフの方々が賛同しているのでしょうか。俺には理解できない」


 イゼルとモリーの間で、火花が散るような緊張感が走る。それぞれの種族の存続について、意見が対立してしまっているが為に……。

 そしてモリーは、イゼルにある事実を告げるのであった。



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