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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国
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8話 エルフの里①~手荒い歓迎~

 翌朝、緋媛が目覚めた頃にはマナは屋敷の中にはいなかった。借りている一室の布団は綺麗に畳まれており、部屋の中もすっきりとしているように見える。

 敷布団を引きずっていたり、レイトーマ城に居た頃はメイドが身の回りの世話をしていただけに、随分と一人で出来るようになったものだと関心する緋媛。

 だが、感心している場合ではない。王女であり緋媛にとって愛しい存在のマナが消えてしまったのだ。急いで探さなくては――。

 と考えていたその時、屋敷に上がり込んで来た司に声を掛けられた。


「あの小娘なら、二、三日は戻って来ねーぞ」


 目を見開て驚く緋媛。

 司は肩眉を上げて補足する。


「イゼルがレイトーマに行くんでな、気分転換に連れて行くってんだよ。フォルトアを護衛にな」


「フォルトアさんを……」


 この時、緋媛の脳裏には、何故自分ではないのかという言葉が浮かんだ。護衛ならばマナの幼少期より二十年を共にした自分だろう、とも。

 確かにフォルトアは一度婚約した仲とはいえ、緋媛にとって、護衛は自分だという認識しかない。

 この事を知らぬ司だが、小さく息をつく。


「お前、小娘に結構な事言ったらしいな」


「何で知ってんだよ」と反抗的に睨む緋媛に、司は即答する。


「フォルトアから聞いた。あの人間も気まずいんだろ、護衛にフォルトアを選んだらしいしな。互いにちったあ距離取って頭冷やせばいいだろ。ま、その間里を護って貰うけどよ」


 マナが自らフォルトアを選んだ事に、少々焦りを覚える緋媛。もしかすると彼女を奪われるかもしれない、という独占欲もあるのだ。

 それはそうと、と司は廊下を見ながら呟く。


「緋刃のガキ、まだ起きて来ねえのか」


 その頃緋刃は、大きな鼾を立てて布団に斜めになるという、寝相の悪い状態で寝ていた。



 ***



 そのような会話が繰り広げられている頃、マナは龍の姿に戻ったフォルトアの背中に乗って空を飛んでいる。

 現代では雲の上を泳ぐように飛んでいたのだが、過去の時代ではそのような事はない。雲の下――人間に見えてもいいような位置で飛んでいるのだ。


 マナとフォルトアがイゼルと共に向かっているのは、東のトウ大陸。レイトーマへ行く前の用事というのは、そこであるらしい。


「トウ大陸はカトレア王国がありましたね。国王陛下を迎えに行かれるのですか?」


 マナの問いに、イゼルは「いや」と答える。


「カトレアの王は船でレイトーマに向かっている。用があるのはカトレアではない。トウ大陸の南西に位置する――」


 言いかけながら、イゼルはトウ大陸南西に位置する上空で止まった。

 続いてフォルトアも止まり、マナと共に地上を覗き込むと――


「エルフの里だ」


 ふと、マナから「エルフ……」と復唱の言葉が漏れる。

 彼女の目から見える地上はまるで森。いや、森しかない。

 一体里はどこにあるのかとマナが疑問に思うと、「降りるぞ」という掛け声と共に高度を下げていくイゼル。

 続いてフォルトアも降りていき、やがて樹木の天辺までたどり着いた。


 その樹木何本分あるのかという程体の大きい龍族。このまま降りることは出来ないので、となると方法は一つ。

 イゼルはマナの予想通りこの樹木の天辺で人型になり、すとんと地上へ降り立ったのだ。


 マナの脳裏には、人型になったフォルトアと離れ、地面に叩きつけられる様子が浮かぶ。

 青ざめて硬直する彼女にフォルトアが優しく声を掛けた。


「姫様、怖いのはほんの一瞬です。ご安心ください、決して手放しませんから」


「は、はい」と返事はするももの、声も彼の水色の鬣を掴む手も震えている。


「では」という声を合図に、フォルトアは木の天辺で見慣れた人型になった。


 一瞬で足場を無くしたマナは、落ちる恐怖に襲われ瞬間的に目を閉じる。

 ところが、その時既にフォルトアの腕の中におり、樹木の枝を降りているのだ。軽い足取りで枝から枝へ伝って、マナの恐怖心を減らしている。

 地面に降り立ったフォルトアは、彼女をそっと手放した。


「姫様、大丈夫ですか?」


「ええ、平気です。怖いのはほんの一瞬というお言葉、本当でしたね」


 くすくす笑うマナに、フォルトアはほっと胸を撫で下ろした。

 そこへイゼルがやってくる。


「エルフの里はすぐそこだ。行こう」



 ***



 エルフの里は徒歩五分程度の位置にあり、木々で作られた柵で覆われている。

 異種族交流が開始されるより前からその柵は存在し、今では人間の侵入を防いでいるという。


「フォルトア、姫、あれを見てみろ」


 イゼルがその柵の上に視線をやり、彼女らはそれを追う。

 そこには見張り台があり、約二名の耳の尖ったエルフの男性が立っていた。


「ああやって侵入者がいないか高台から監視している。普段は一人だが、お前たちが来る数か月前にダリス人に襲われてな、人が増えたんだ」


 異種族狩り云々より、マナにとって初めて見るエルフの存在が眼に焼き付く。

 どのような格好をしているのか、もっとよく見ようとした時、ぱたっとマナと見張りの一人の目が合う。

 その瞬間――!


「侵入者だー!!」


 背中の矢筒から矢を二本抜き、マナを目掛けて連続して二本とも撃つエルフ。

 マナは声を上げる間もなく息を飲みこみ、目を瞑って顔を逸らす。

 と、瞬時にフォルトアは彼女の前に立ち、その矢を彼の得意とする水の術で封じ込める。

 見張りのエルフ達は動揺した。


「あ、あれは龍族?」


「よく見ろ、茶色の髪……、レイトーマ人だ!」


「人間と見るなり攻撃を仕掛けるとは……。俺も同じ事をした事があるが、敵か味方か区別できるようにならねばな」


 木の枝を踏み、音を立てるようにマナとフォルトアの前に立ったイゼルを見、見張り達はびくりと体を震わせた。


「龍族の長、イゼル・メガルタ殿!」


「も、申し訳ございません! おーい! イゼル殿がいらしたと族長にお知らせしろー!」


 見張り台の下にいるであろうエルフに知らせた様子を見たマナは、改めてイゼル・メガルタという龍族長の大きな存在に気付かされたのであった。



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