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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国
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7話 動物達との戯れ

 ユキネ・ココットが龍の里にやってきた翌朝、マナはイゼルに呼び出されて屋敷の一室にいた。テーブルを挟んで対面するように座っている。

 里を侵略しようとするダリス人を撃退する為森へ出ているので、その場に緋媛はいない。


 イゼルは茶を一口飲むと、ふぅと落ち着いて口を開く。


「現代と比べて、この時代はどうだ?」


 一瞬、はっと目を見開くマナだが、すぐに視線をやや下へと向ける。


「……平和とはとても遠い、悲しい時代です。以前は人も異種族も共存していたと伺っております。それがどのような時代かは存じませんが、この時代には……、いえ、現代もそれがありません。現代の人の世では、龍の里は過去の存在であり、人の国として認識され、閉鎖されておりました。人も異種族も共存すべきなのに、どうしてそれが出来ないのか……、私には理解できません」


 心を痛めるマナは、遠回しにイゼルに「人と異種族の共存」を訴えた。

 だがそれに気づいていながらか、気づかぬのか、彼は一呼吸置いて別の話題を振る。それもマナの関心が最も大きいであろう話題を。


「現代ではどう伝わっているかは分らんが、このミッテ大陸にある里を南のナン大陸に移そうと考えている。既に里の建設はカトレアとレイトーマの協力のもと、ダリス人に気付かれずにドワーフの手で行って貰っているが、その事で明後日レイトーマで会合を行う」


「レイトーマでですか!?」


 身を乗り出すように、ぱっと明るくなって食らいつくマナ。

 イゼルはにっこりとほほ笑んだ。


「貴方は書物がお好きなようだ。きっと自国について学んできたのだろう。実際にその目で見るといい。この時代に着いてから、あまりに多くの恐ろしい体験をしたんだ。せめてそれぐらいはさせて欲しい」


「それでは、私も連れて行って下さるのですか?」


 キラキラと目を輝かせるマナに、イゼルはこくりと頷く。立ち上がった彼は、部屋を出ながら出発について言った。


「寄りたい所があるのでな、明日の朝早くに旅立つ。準備をするように。ああ、そうだ。姫一人では心許無いだろう。緋媛も共にしたほうがいいか」


 イゼルの気遣いに、マナは「い、いえ……」と視線を逸らして気まずそうな表情を見せる。


「ああ、口論をしたと聞いた。詳しい内容までは知らないが。ならばフォルトアか緋刃にしよう。どちらがいい?」


 マナにとって、どちらも悩ましい存在である。

 フォルトアは一度婚約をした事のある相手。マナにとっては今でも彼が傷ついているのではないかと不安になっているのだ。

 緋刃は緋媛の弟とはいえ、関わりの少ないので何を話せばいいのかも不明だ。

 うん、と少し悩んだマナは、「フォルトアでお願いします」と答えを出す。


「分かった。彼には今夜話をしておく。……司にも伝えておかなくては」


 そう言うと、イゼルは部屋を出て行った。

 テーブルの上にある茶には、どこか不安な表情を浮かべるマナの顔が映っている――。



 ***



 丁度その頃、ちびっ子達は薬華の診療所の外――診療所から少し離れた里と森の境目辺りにいた。

 ゼネリアはまだ安静にするようにと主治医の薬華に言われていたのだが、彼女の目を盗んでこっそりと緋倉、ユキネと共に抜け出している。というのも、目を覚ました後のユキネの元気がないので、緋倉とゼネリアが連れ出したのだ。


「おにい……」


 しょんぼりとして口をすぼめているユキネ。

 彼女は、異父の兄ゼンが司に頼み、龍の里に預けられている形になっている。この事をイゼルは司から聞いており、龍族と人間の混血の子供が、異端の存在を忌み嫌っている里に馴染めるか心配だという。

 が、そんな事はどうでもいいと考える緋倉や、龍族と異界の魔族との混血のゼネリアもいるので問題はないと踏んでいるのだ。

 その緋倉はゼネリアをおぶりながらユキネに話しかける。


「おにいって誰?」


「ユキネのおにい。かっこよくって、優しくって、とーっても強いの! でもおにい、ユキネにここで暮らしなさいって言って、どっか行っちゃった……」


 ゼンの自慢を、大きな身振り手振りで伝えたと思いきや、急に凹むユキネ。

 更に問う緋倉。


「ユキネちゃんのお父さんとお母さんは?」


「おとうとおかあ……。おとう、おかあ、は……」


 と、ユキネはぼーっとしてしまった。まるで何かに操られているかのように、目の焦点が一瞬合わなくなる。

 そして口に出した言葉は――。


「別の所にいるって、ユキネは里に居たほうが安全だって、おにいが言ってた……。おにいが言ってた!」


 言わされているかのようなモノだったが、最後、ユキネ自身の言葉ではっきりと言ったのだ。

 異論は認めないような断言の仕方に緋倉は「ふーん」としか反応出来ない。


 これを緋倉の後ろでじっと見ているだけだったゼネリア。

 彼女は森の方へ視線をやると、ゴロゴロと喉を鳴らす。決して音は大きくないが、森の中にじわりじわりと響くような振動が伝わる。


「何をしたの?」とユキネが問うと、森の中からライオンや熊、豹等の獣を始め、猪の親子や兎等が

 続々とやってくる。更には異種族である妖精も――


「ひえっ、食べられちゃうよ!」


 即座に緋倉の後ろに隠れて怯えるユキネに、緋倉は「大丈夫だよ」と宥める。すいっと彼らのもとに飛んできた妖精も「遊ぶですー」とユキネの髪を引っ張った。

 緋倉の背中からぴょんと飛び降りたゼネリアは、ゆっくりと地面に腰を下ろしたライオンの背中を枕にすると、すやすやと眠る。


「こここ、怖くないの?」


「みんなゼネリアちゃんのお友達なんだよ。ほら、触れても平気なんだ」


 ウリボウの所へ歩み寄った緋倉は、三匹いる内の一匹をなでるとじゃれ始めた。

 こうも慣れている動物達を見ると、自分も大丈夫だろうかと半分は安堵するユキネだが、やはり怖い。

 柔らかな腰を揺らし、豹が近寄ってくる。

 動けぬユキネは涙目になり、その場に突っ立ってしまった。

 すると豹はその場に座り込む。


 動いたら食べられてしまうと思っているユキネの肩に妖精が乗った。


「一緒に寝ようって誘ってるですー」


「言ってること分かるの?」


「はいですー。僕達は動物と仲が良いのですー」


 と、妖精はユキネの髪をくいくいと引っ張り、豹の元へ誘導する。

 そーっと、そーっと近づくユキネ。刺激しないようにゆっくり近づくと、豹の体の側面にちょこんと座る。

 ユキネの傍にいる妖精は、見本を見せるように豹の体に身を沈めた。


(あんな事しても平気なのかな。……よし、ユキネもやってみよっ)


 ぐっと覚悟を決めたユキネは、豹をつんつんと突いて暴れないことを確認。豹の顔を伺い、そっと体を沈めてみた。


「うわぁ、ふっかふかだぁ! 気持ちいー……」


 丁度暖かな日差しが差し込む。昼寝には適切な暖かさはユキネ達をうとうととさせ、気付いた頃には眠りにつかせてしまった。


 そんな動物達と戯れる緋倉、ゼネリア、ユキネを発見したのは、これより一時間後である。

 薬華に頼まれて子供達を探していたマナは、この光景を見て微笑ましい表情を浮かべたのだった。






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