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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
7章 江月建国

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3話 謝罪

 司の言う通り、まず龍族の長であるイゼルの元へ行くべきであった。そうでなければ、宴での騒ぎは起きなかっただろう。

 現代での江月――龍の里で迫害される事がなかった為、過去であるこの時代の人間に対する思いを軽視していた結果だ。


 江の川で司の暗示により宴が再開さいている頃、マナと緋媛は一足先に里に戻っているイゼルの元に向かった。



 ***



 イゼルは屋敷にはおらず、薬華の診療所にいる。妹のゼネリアの様子を見る為に。

 ベッドでぐっすり寝ているゼネリアはまだ人型にはなれない。包帯を巻かれている。

 彼女の足元では緋倉が大の字になってすやすやと寝ていた。


 一部人型を解いて頭から角を生やしている薬華が、イゼルに症状を伝える。


「人間は残酷な事をする……。これはひどい。アタシたちのような普通の龍族なら鱗程度なら明日には再生するけど、この子は違う。人間よりは再生力が多少あるけど、あたしたちの非じゃない。イゼル様の血である程度の回復はしているけど、あと最低でも一ヵ月は安静にした方がいい」


「一ヵ月か。この子が大人しくしていればいいが……」


 人間を恨み、龍族に迫害されている事で反発を繰り返すゼネリアに不安がある。

 息子のゼンには懐いたものの、里に戻ってきて再び緋紙にも牙を剥けるようになってしまった。鱗を無理やり剥がされた事で、暫くは恐怖が付きまとうだろう。


 イゼルが考え込んでいると、そこへ果物を持ってきたフォルトアがやってきた。

 彼もまた、角を生やしている。ゼネリアを怯えさせないようにする為だろう。


「ああイゼル様、お戻りで。宴はもう終わったのですか?」


「……色々あってな、司に任せてきた。それよりお前に聞きたい。お前の時代のゼネリアは今と違うか?」


 果物を病室にある小さなテーブルの上に置いたフォルトアは、答えていいものか悩む。

 未来の情報を教えてもいいものか、と。


「違う、かどうかは僕は答えられません。ただ一つ言えます。僕とルティスという同族は、緋倉様とゼネリア様に救われたんです」


「救われた? この子達に?」


 信じられないという視線を幼い緋倉とゼネリアに向けるイゼルと薬華。

 将来が心配であっただけに、救われた、という言葉が意外である。


「あの日、緋倉様とゼネリア様が救いの手を差し伸べてくださなかったら、僕は今頃生きてすらいなかったかもしれない。……僕が言えるのはそれだけです」


 と、フォルトアはにこっと笑う。

 だが、イゼルはフォルトアに対し、初対面の時から思っていたことがある。この雄の瞳の奥には、何か暗いものがある――と。


「……そうか。未来のお前がそう言うんだ、どうやらこの子達は俺が心配するような、人間を殺めて回るような子には育たないようだな」


 安堵したイゼルに、フォルトアはとてもその後の事実を伝える事など出来なかった。

 元々未来の情報を過去の民に与える事はしてはならないと理解しているフォルトア。

 もし、今のイゼルにゼネリアの最後を教えたら、どのような反応をするのだろう。怒り、悲しみ、苦しみ――。とても想像出来ない。


(うっかり失言すると、里を滅ぼしかねないな。イゼル様はゼネリア様の兄上に当たるお方。本来争いごとを好まぬ性格とはいえ、逆鱗に触れた際の怒り方は恐らく似ているはずだ)


 するとそこへ、緋媛のコートを纏っているマナと、抉れた左腕を隠している緋媛がやってきた。

 マナはまず先にイゼルに謝罪をした。


「申し訳ございません、イゼル様。 私の軽率な行動で大切な宴を台無しにしてしまい、ゼネリアを危険な目に遭わせてしまいました。何なりと罰をお与え下さい!」


 突然の謝罪に一瞬戸惑ったイゼルだが、すぐに落ち着きを取り戻す。


「謝る事はない。確かに最初に俺か司の所に来るべきだったが、そんな事はどうでもいい。謝るのは俺の方だ。怒りに任せてダリスの船を沈めた。その余波で最悪の事を考えていたが、よく生きていてくれた。子供達の事を任せたのも俺だ。我ら異種族とダリス帝国との問題に巻き込んでしまって申し訳ない。すまなかった」


 と、丁寧に頭を下げるイゼルに、マナと緋媛が驚いた。「頭を上げてください!」とマナが訴えるが、それでも下げ続ける。

 彼が頭を上げたのは、薬華のある一言が発せられてからであった。


「んー? あんたもしかして、その緋媛とかいうガキに抱かれたかい?」


 マナは顔を赤く染め、緋媛はびくりと体を震わせる。

 発言元の薬華の顔を見やったイゼルとフォルトアは、すぐさまマナの方を向くと、さっと目を逸らした。


「な、何てことを仰るのです! それより私、薬華にも服を奪われた事の謝罪を――」


 真っ赤になって別の話題にしようとしたマナだが、息を荒くして興奮した薬華にがしっと肩を掴まれて言葉を遮られる。


「そんな事はどうでもいいんだよ。答えな、抱かれたんだろ? あんたの中からその雄の匂いがぷんぷんするんだよ。人間が龍族に抱かれるなんて話、そうそう聞かないからねえ。さあ教えな! 抱かれた時そんな気持ちだったか、何をされたか、そして体を隅々まで調べさせな! もしかするとあんたの腹の中に――」


 興奮した変態と書いた薬華から引き剥がすようにマナを救出した緋媛は「逃げるぞ」と言い、彼女を連れて診療所から出て行った。


「あーっ! あたしの大切な研究対象が! 次捕まえたら全て吐かせてやらないとねぇ……!」


 静かに燃える薬華に、フォルトアは落ち着くよう促す。


「薬華さん、そういうデリケートな事は、人間の姫様に言ってはいけませんよ。とても恥じらう方なんです。それに緋媛だって初めての発情で思うところもあるでしょうし……」


「ああん? だったらあんたが答えてくれるってのかい、発情した時の事」


 と、じろりと睨む薬華に足を竦ませるフォルトア。

 薬華は過去から変わらず、研究に対しては並々ならぬ興味を抱いているようだ。


「い、いえ、僕はまだ発情した事なくて……」


「ねー、はつじょーってなーに?」


 フォルトアが弁解しようとすると、起きてしまった緋倉が目を擦りながら問う。

 ここで初めて薬華は、子供の前でする話ではなったと反省したのだった。


 うやむやに誤魔化したイゼルは子供を寝かしつけ、フォルトアと共に屋敷へと戻る。


 ***


 その頃、緋刃は薬華の住む家の屋根の上で寝転んで考え事をしていた。


(この時代の父さん、やっぱり里の平和の事を考えてるみたいだ。だったら現代の父さんがダリス側の、ケリンに付いてるのだって理由があるはず。イゼル様や倉兄に聞けば手っ取り早いけど、倉兄に掛けられた暗示のせいでそれが出来ない)


 現代の司の思考を探ろうと、誰かに問うか考えるだけで吐き気を催す程の頭痛がする。

 だがこの暗示には抜け道があるのだった。緋倉は『司がやっている事の一切を問わない』という暗示をかけたのだから。


(だったら、探ればいいんだ。聞いちゃいけないなら、父さんが何でダリス側に付いているのか、俺なりに調べて考えればいいんだ……!)


 と決意する緋刃であった。





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