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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
6.5章 緋媛の百年
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番外編2 レイトーマ師団長のある一日

最近伝番が少ないと訴えるキャラ達のご希望による番外編です(´・ω・`)

 マナと緋媛がレイトーマから離れてから、彼らの出番が無くなった。それはレイトーマ師団。


 彼らは常日頃、こう訴えていた。

 緋媛の百年と言いながらツヅガしか出てこない! 我々も出せクソ作者!


 クソと言われては腹が立つので、こんなところに番外編としてぶっこむ事にした。ただし、師団長だけ。


「ふざけんなー!」


「俺達も出せー!」


「カレン隊長いっぱい出せー!」


 モブ達の訴える事は無視して、私の書きたいようにある日の彼らを教えます。

 はい、まずはアックスから。


 ***


 アックス・レックス 三十二歳。

 実行部隊であるレイトーマ師団第一師団長に任命されたのは、五年前である。


 彼は常に修行、筋肉を付ける、筋肉を付ける、ぬいぐるみを縫う、筋肉を付ける、修行、ぬいぐるみを縫う……この繰り返しの日々を過ごしている。

 おかげでレイトーマ師団一の強靭な肉体を得、同時に汗臭いと言われるようになった。


 そんなアックスに貴族の女性との結婚話が持ち上がり、実施にお見合いをした時の事を紹介しよう。


 場所は王都一のレストランの個室。

 アックスはそこで大きな体を小さくしながら、かっちこちに固まって見合い相手を待っている。


 その五分後、「お待たせして申し訳ございません」とやってきたのは、ふわりとした長い髪が特徴の美しい女性。

 目があった途端、アックスは顔を赤く染め、女性はにこっとほほ笑む。


 付き添いである両者の両親と、司会者を交えてお見合いが始まった。


「えー、では、まずはレックス様ー。ご挨拶をー」


「アックス・レックスなのネ! レイトーマ師団で第一師団長を務めてるのネ! 常に鍛えるがレイトーマ師団! ぼっくんのこの肉体美は国内一なのネ!」


 と、初対面の名も知らぬ女性の前だというのに急に脱ぎだしたアックスは、胸板を強調するように、上腕二頭筋を強調するようなポーズをし始めた。

「止めなさい!」と母親が止めるもやめないアックス。


 女性は母親と目を合わせると「少々お手洗いに」と席を立ち、そのまま戻ってこなかったという。


 ***


 カレン・コリータ 十八歳。

 情報部隊である第三師団長に抜擢されたのは、一年前。

 レイトーマ師団に入団した十歳の頃よりメキメキと腕を上げて昇進していった、情報の天才である。


 朝はパンと紅茶を飲みながら数々の資料を読み漁り、城下の情報を手に入れ、怪しい動きはツヅガに報告し、実行部隊に依頼をする。他、全兵士の個人情報管理や他国の情報収集等、とにかく情報に特化した部隊の隊長なのだ。


 そのカレン、レイトーマ師団のほぼ全員に好意を寄せられており、この日もある兵士に食事に誘われていた。


「あの、カレン隊長、よろしければ今週末ランチでもいかがでしょう。実は城下で最近できたパンケーキ屋、非常に評判がいいんですよ」


 照れ臭そうに言う兵士に、カレンはにーっこりと笑う。


「んー、第一師団のグリー・モリー隊士だよね。私がパンケーキ好きっていうのは有名だし、知ってて当然、偉い偉い♪」


 手ごたえがあるかもしれないと明るい表情になるグリー・モリーだが――


「でもね、城下の最新のお店はもう行ってるんだよねー。当然でしょ? だって姫様がそのお店のパンケーキの味を知りたいって仰ったら、すぐに答えられるようにしないと。カボチャは良かったけど、イチゴはイマイチだったなー。……って事で、あたしは忙しいの! また今度誘ってねー♪」


 ばいばい、と手を振って走って消えるカレン。

 そう、カレンはこのように次々と男を振っていくのだ。

 グリー・モリーを含め、振られた隊士達はこのように語る。


 ――難攻不落の隊長だと。


 何? カレンの情報がもっと欲しいだと? 仕方がない、もう一つだけ。


「誰となら付き合ってもいいかって? んー……、アックスは汗臭いし、ユウは面倒くさがり屋だし、そうだなー、緋媛とだったらいいかな♪ 強くて長身でイケメンで、仕事が出来る! それにあたしでも分からない謎の人物……、そこがいいよねー♪」


 男はまず顔だと言っていた……って、おーい! 倒れるな隊士達!!



 ***



 ユウ・レンダラー 二十五歳。

 実行部隊である第四師団が出来たのは三年前。その際に隊長に抜擢されたのが彼である。


 師団の中でも何故怠け者のユウが、という声が常に囁かれており、彼の努力と実力を知る者は数少ない。

 また、ユウの勘の鋭さは緋媛も認めている程であり、ほんの些細な変化でさえも見破る。その人を見る目こそ、師団長に抜擢された理由の一つであるのだ。


 これは気まぐれなユウが面白い事はないかと、非番の日に城下を回った時の事――。


 城下の街中に薄紫色の髪をした男が歩いている。レイトーマ人には、いや、人間にはない髪の色だ。それにどこか知っている男に似ている。


(嘘だろ……。あんなに目立つ髪の色してんのに、何で周りの連中は気付いてねえって面してんだよ)


 右の頬に大きな刀傷のある怪しい男。もしやダリス人か、それか滅びたという龍族の最後の生き残りか……。

 緋媛と会った時以来の大きな胸の高鳴りがしたユウは、その男の動向を見張る事にした。


 その男、ふらりと酒場に入っては数杯酒を飲んで女性数名を口説いて去り、再び別の酒場に入っては同じ事をし、更に別の酒場に入っては――以下略――


(なんだこの男……、がっかりだぜ~)


 ユウの率直な感想がそれだ。確かにどこか強者の匂いがし、緋媛に似た何かを感じたのだが勘違いらしい。


 男が酒場を出た所で、城に戻ろうと踵を返して街の路地に入った時――

「よう」と声を掛けられた。


 たった今まで付けていた男が目の前にいる。

 ユウが見張っていた場所は家三つ分は離れており、一瞬で路地に回れる距離ではない。

 反射的に腰にある剣に手を掛けたのだが――


「止めておけ。お前に俺は倒せねえ」


 手首を掴まれて剣を抜くのを憚れた。抜きたくても抜けず、ピクリとも腕が動かない。

 この男が一体何者なのかと疑問に思う瞬間にみたその顔は、ある男によく似ていた。


「……緋媛?」


「何だお前、緋媛を知ってんのか。それより何で俺の顔がはっきり分かる。俺の術にかかってねえのか? 珍しい人間だな」


「術? 何を言って――」


 その瞬間、ユウは男に頭を掴まれた。

 動けない。この男は危険だと直感で分かる。


「お前、人間にしてはなかなか勘が鋭そうだな。そうさ、俺は緋媛の父親だ。といっても、あいつは俺を憎んでるらしいから、父だなんて言いたくねえだろうな……。まあいい。俺の幻術に掛からなかった人間はお前が初めてだ。レイトーマにいたのは単なる気まぐれだが、面白いもんを見つけた。さて……」


 掴まれた頭に電気が走るような感覚が襲う。それと同時にやって来る眠気。

 徐々に落ちていく中、ユウはその男の声に耳を傾けていた。


「俺がいると緋媛の耳に入るのはまずい。あいつは母親に似て苛立ちやすいから、捜しに城下に降りてきても不思議ではない。だから、お前には悪いが俺の記憶を消させてもらう。その上で勝手な頼みをしよう。もし里に……江月に何かあったらその時は――」



 その翌朝、ユウは自室で目を覚ました。

 前日非番だったはずだが、何をしたか全く覚えがない。ただ、この言葉だけだは憶えている。


「力を貸してやってくれ」


 それが何に対してなのかも分からない。

 ぽりぽりと頭を掻くユウは、気だるそうに体を起こすと、この日もつまらなさそうに第四師団長の任を務めるのであった。



 ***



 とまあ、レイトーマ師団長達のある日の出来事は、こんな感じです。

 ユウに関しては緋媛がまだマナに龍族だと知られる前の事。まさか司に会っていたとは知らなんだ。もちろん、緋媛もこの事は知らない。


 え? 何で司がダリス側に付いているかって?


 それはこの先の物語で判明します。だが、それはまだまだ先の事。

 引き続き、この物語をお楽しみくださいませ!






6.5章終了です!

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