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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
6章 危険な時代
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20話 三日目の手掛かり

 三日間、緋媛達は海の上を龍の姿で飛んで彷徨っていた。いや、マナ達を探していたのだ。船に乗ってダリス帝国へ向かっているだろうと予測を立てて。


 ダリス帝国のあるホク大陸で待っているのも一つの手ではあったが、その間にマナに何かあっては、国どころか大陸一つ滅ぼす程度の怒りでは済まないと言う緋媛がイゼルに訴え、広大な海からマナ達がいるであろう船を探すことになったのだ。


「くそっ! 見つからねえ! 外れ船ばかりかよ!」


 緋媛とイゼルは手分けして見かける船に乗り込み、国籍を聞き人を探していると事情を説明し、船の中を隅々まで見させて貰っていた。

 無論、これまで当たった船はレイトーマ王国とカトレア帝国の商船しかない。後ろめたい事もないその二国は、何の疑いもなく緋媛達龍族を船の中に招き入れ、夜は食事と寝床を提供してくれていたのだった。


 緋倉はイゼルにくっついていたのだが、連日の捜索に疲れてしまいイゼルの鬣にしっかりと掴まりながら寝てしまう事が多くなった。

 この時も雲一つない快晴。

 緋倉は何故か緋媛に掴まり、呑気に日向ぼっこをしている。


「おいクソ兄貴……じゃねえ、緋倉! てめえも探したらどうだ!」


「落ち着け緋媛。緋倉はまだ子供だ。この風の気持ちい気候で眠くなるのも無理はない。少し背中で寝させてやってくれ」


 三日前に怒りと荒んだ心でミッテ大陸に嵐を起こしていたとは思えないほど、イゼルは落ち着きを取り戻していた。

 そこはやはり一族の長なのだろう。緋媛のようにいつまでも苛立つ程子供ではない。それに彼が怒れば海が荒れ、罪のない人々に迷惑をかけてしまうと判っているのだ。


 するとそこへ、一隻の船が通りかかった。

 どうやらカトレアに戻る船のようだが、念のため確認して来るとイゼルはすっ飛んで行ってしまった。


「……ったく、二百年前のイゼル様はこんな自由に動く方なのかよ。自分は里から出られないとか散々抜かしといて。朝まで戻るとか言いながら結局一度も里に戻らず仕舞いじゃねえか。今頃親父も怒ってんだろ。……ん?」


 その瞬間、背中が急に重くなった。が、ずしんとくる重みではない。小さい何かがパラパラと乗った感覚だ。

 何かと思い、首を起こして緋倉が掴まっている鬣を覗くと――


「あっ、緋倉だ!」


「ここどこー? お母さんは?」


「うわっ、落ちるー! 掴まれ掴まれ!」


「あれれ? 海の上なのです?」


 甲高い声をした子供達が約四名いる。同族の龍族だけではない。羽を生やした掌ぐらいの大きさの妖精もいる。

 一体何があったのかと一瞬戸惑う緋媛だったが、緋倉達の会話でそれは解消した。


「……ゼネリアちゃんの血の匂いがする。一緒じゃないの?」


「し、知らないよあんな子……」


 明らかに知っている様子の龍の子は、次々と緋倉から視線を外した。関わりたくない、関わってはいけないような様子で、目が泳いでいる。

 正直に答えたのは妖精たちだった。


「一緒にダリス人に捕らえられていたのです。ずっと泣いていたのですけど、急に怒ってダリス人に掴みかかろうとしてナイフで刺されたのです」


「怪我してるの? どこなの!?」


「この海のどの辺りか知らないのですけど、聞くのです。刺された後、人間はどっか行ったですけど、ゼネリアは僕達を閉じ込めていた木箱の檻を氷で突き破って、外に出してくれたのです。そしたら男が戻ってきて……。僕達怖くてみんなで丸くなっていたら――ここにいたのです、急に風景が変わったのです」


 光景が変わった――ゼネリアが緋倉を連れて時々レイトーマに足を運んだ時に使った『空間転移』に違いない。

 子供の頃からそれが出来ていたのかと、驚きを隠せない緋媛。出来るから捕らわれていた子供達がいるのだろうが、果たして本当に狙って術を使ったのだろうか。


「じゃあ、ゼネリアちゃんは……!」


 妖精が頷いた。つまり、まだその船の中に残っているという事。

 もしかすると人間に殺されたかもしれないと思った緋倉は、小さな人型の体を人間の大人ぐらいの大きさである龍の姿に戻し、北の空へ飛び立った。

 ――が、あっさりと緋媛に捕まってしまう。


「待てよ、ガキのくせしてあちこち勝手に行くんじゃねえ」


「俺だってゼネリアちゃん捜す為に付いてきたんだ! 邪魔すんなよおっさん!」


 おっさん――。まだたったの百歳の未来の弟に向かっておっさんとは。

 無性に腹が立った緋媛はイゼルが降り立った船の上に背中の子供を下ろし、自らも人型となって降り立った。

 甲板にいる人間数名が騒めいている。それもそのはず、イゼルの他に龍族が降りてきただけではなく、人型の緋媛が龍の姿の緋倉の尻尾を掴んで逆さ吊りにしているのだから。


「誰がおっさんだあ? てめえだって六十年後には俺に似たおっさんになんだよ。それに俺はまだ百歳だ。一族の中じゃ若者なんだよ、そこんとこ覚えとけクソ兄貴!」


 ぶんぶんと緋倉の尻尾を振り回していると、「何をしている緋媛」とイゼルがきょとんとした表情でやってきた。

 緋媛がピタリと動きを止めると、緋倉は目を回してくたりとなってしまった。


「イゼル様、ここはどうでした?」


「やはり無駄足だった。ところでその子供たちは? ああ、妖精の子もいるな。……手がかりを見つけたのか!」


 これが手掛かりになるとは思えないが、少なくとも一歩近づいたはず。

 緋媛は妖精から聞いた話を伝え、恐らく近くにダリスの船があるのではないかという予測を立てた。

 ゼネリアの能力も緋媛の予測も半信半疑のイゼルだが、すぐに動くけない。

 また日が落ちようとしている上に想定外の龍の子がいるのだから。

 しかし、妹の身に危険が迫っている。のんびりしている余裕はない。


 悩んでいると、そこへ黄色の龍が船に向かって飛んできた。――薬華だ。


「ああ、やっと見つけた。イゼル様、早く里に戻ってきてください。私ではもう抑えられなくて……」


「薬華、丁度良かった! 緋倉とこの子供達を連れて里に戻ってくれ。緋媛と俺はもう少し掛かると司に伝えておくんだ。行くぞ、緋媛!」


 まるで逃げるように龍の姿になって空を飛び始めたイゼル。その後を緋媛が追いかけていく。

 残された薬華と船の船員は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、それは一瞬の事。はっと我に返った薬華は、遠くへ飛んで小さくなっていくイゼル達に向かってこう叫んだ。


「司の馬鹿に緋紙がキレてんだよー! アタシにどうしろってのさー!」


「お母さん、怒ってるの? 何で?」


 緋倉の純粋な問いに、薬華は冷や汗をたらたらと流す。

 集まってきた子供達と妖精も「なぜ?」と首を傾げるので、適当な嘘をついて誤魔化した。


「緋紙の大切なおやつを食べちゃったからさ。食べ物の恨みは怖いからねー。さ、帰ろうか。アタシの背中に乗りな」


 とても言えない。

 司がイゼルがいない事をいい事に幻術で自身をイゼルに見せ、里の雌に手を出そうとしていた所を緋紙に見つかり、怒りの鉄槌が下されているなどと。




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