スキルについて知った時のお話
ギルドマスターに呼び出された翌日の朝、俺と椿は街の外の平原を歩いていた。
「うーん…」
「どうしたんですか?そんな難しそうな顔をして」
唸る俺を不思議そうな表情で椿が見つめる。
しかし考え事をしていた俺はそれに言葉を反す事なく考えに没頭していた。
「あ、もしかしてその胸当てですか?確かに明継さんの服装とは似合って無いですもんね」
「いや、確かにこの胸当てについて…というか俺の服装についても考えなきゃいけないんだが」
俺は現在学生服にチェストプレートという何とも間抜けな恰好をしていた。
何故俺がこんな格好をしているかと言えば、それはあのギルドマスターにこのチェストプレートを押し付けられたからだ。
ギルドマスターから過去の勇者に関する話を聞いた俺達だったが、そんな話をするだけに呼び出された訳ではない。
ギルドマスターは召喚されたばかりの勇者にこの世界の生き方について教える為に勇者が街を出ようとする前に必ず呼びつけるのだそうだ。
というのもこの世界にステータスという概念が存在しているせいか、ゲーム感覚で魔王討伐に出かけては死んでいく勇者が数多く存在したかららしい。
ゲームのような世界ではあるがここは決してゲームの世界ではない。
人も魔物も、勇者も魔王も生きている。
ゲーム感覚で飛び出した勇者と生きるために全力で抗う魔物、どちらが勝つかなど言うまでもない。
ロクに装備も着けぬまま、しかも昼過ぎから狩りに出かけようとしていた俺みたいな奴はギルドマスターからしたらそんな勇者達と同類に見えた事だろう。
せめてこれだけでも着けて行けとこのチェストプレートをくれたのだ。
「とりあえず服装については置いといてな。俺が気にしてんのはスキルの方だよ」
俺は椿にそう言いながら、昨日のギルドマスターとの会話を思い出す。
「スキルの注意点ですか?」
「あぁ、スキルって言うのは色々と複雑でな、色々な種類があるしそれぞれによってレベルの上げ方も変わってくるんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、例えばそうだな、ファイアボールなんかの攻撃系スキルだがどうやったらスキルレベルが上がると思う?」
「んースキルを使って行けばその内上がるんじゃないんですか?」
「違う、スキルのレベルを上げるにはどれだけそのスキルの本質を、より効果的に引き出せるかにかかってるんだ」
「スキルの本質を効果的に引き出す?」
言葉の意味が分からずオウム返しで俺が尋ねるとギルドマスターは俺にも分かるように説明をしてくれた。
「ファイアボールなんかは攻撃系のスキル、つまり相手にダメージを与える事が本質だ。いくらスキルを唱えたってダメージを与えられなきゃ経験値は貰えない。本質を効果的に引き出すっていうのはつまり相手のHPを多く削るって事さ。敵に与えたダメージが大きければ大きい程より多くの経験値を得られる」
それからギルドマスターは色々と事細かに説明してくれたが、それをザックリ纏めるとこうだ。
まずスキルは使うだけでは経験値は入らない。
攻撃系スキルなら相手にダメージを与え、防御系スキルなら相手の攻撃を受け、回復系スキルならHPを回復させねばならない。
注意しなければならないのはこれらを効果的に使用しなければならないという点だ。
例えばファイアボールを撃ったとして、ダメージが1しか入らなければダメージ1分の経験値しか貰えない。
例え1万ダメージを叩き出せる威力を持っていようと、100ダメージしか出せない貧弱な威力であろうと、発揮された効果が同じであれば同等の経験値しか得られない。
別のパターンで、HPが100しかない相手に1万ダメージを出そうと、100ダメージでキッチリ倒そうとも貰える経験値は先程と同じく同等、100ダメージ分しか貰えない。
どれだけ多大なダメージを叩き出そうと、実際に削った敵のHPは100でしかない。
攻撃スキルの本質が敵を倒す事であるのなら、敵を倒す事以上の経験値など貰えるはずもない。
これは攻撃系スキルに限った話ではなく、スキルそれぞれに似たような条件が存在する。
防御系スキルなら実際に防いだダメージ分だけ、回復系スキルなら実際に回復したHP分だけ経験値となる。
「今はスキルの話をしてたが、職業も同じだ。戦士は剣なんかの近接武器で敵を倒さないとレベルは上がらねぇし、魔術師は魔法で敵を倒さないとレベルが上がらない。勇者のレベルも、チートスキルもその例に漏れず経験値を得るためには何かしらの条件があるはずだ。一刻も早くそれを理解してレベルを上げて行くこったな」
「なるほど、ありがとうございました。今日は勉強になりました」
「おいおい、何話は終わったみたいな雰囲気出してんだ。まだまだ教える事はあるんだからよ」
「え、まだあるんですか?」
既に話始めてから一時間は経過している。
俺の高校は90分授業ではなく50分授業なんだ、これ以上の長話はそろそろ限界だ。
「当たり前だ、まだスキルレベルの上げ方しか話してないだろ。今度はそのスキルレベルを上げるためにスキルそれぞれの特性を理解しなきゃならないんだ」
「それはまた随分と長くなりそうですね」
とはいえ大事な事なので聞かない訳には行かない。
俺はギルドマスターの説明の続きを聞く事にした。
「さて次に説明するのはスキルの効力についてだ。スキルレベルがある事から分かっていると思うが、同じスキルでも扱う人間によってその効力は変わってくる。その効力の変わる要素の中にまず一つ、スキルレベルがある。スキルレベルが高ければ高い程そのスキルは効力を増す。これは分かるな?」
「それくらい説明が無くても分かりますよ、そうじゃ無ければスキルレベルの意味がありませんからね」
「じゃあスキルレベルが存在しないスキルの場合はどうだ?」
「スキルレベルの存在しないスキル?」
そんなスキルがあるか。
いや、そう言えば椿が持っていた三つのスキル、どれもレベルの所に線が引かれていたな。
あれがスキルレベルが存在しないスキルという奴なのだろうか。
「スキルにはレベルが存在せず、スキルレベルに依存しない物がある。そういうスキルは常に一定の効力しか発揮できないか、もしくは別の要素によって効力が変動する」
「別の要素?」
「ステータスさ」
「っ!」
ギルドマスターのその言葉に俺は思わず反応してしまう。
だがギルドマスターはそれに気づいていないのか、もしくは気付いていて敢えて触れなかったのかそのまま話を進める。
「スキルにはステータスによって効力が変わる物、スキルレベルによって効力が変わる物、その両方の影響を受け、あるいはそのどちらの影響も受けない物がある。基本的なスキルは大概両方の影響を受けるが、勇者の持つチートスキルなんかはスキルレベル依存だけの場合が多いな。逆にステータス依存だけのスキルってのはあんまり見ないな」
ギルドマスターの説明に割り込むように俺は手を上げて質問する。
「あの、ちょっと質問良いですか?」
「なんだ?」
「基本的なスキルは両方の影響を受けるって話でしたが、それはどれくらいの影響を受ける物何でしょうか?」
「んん?質問の意図が良く分からないんだが」
「えっと、例えば魔力が100の人間と魔力が1万の人間がそれぞれスキルレベル1の同じ魔法を放った場合、どれ程の威力の差が生まれるのかなぁって、参考程度に聞きたいなと」
ステータスに依存すると言っても程度という物があるだろう。
例えばスキルレベルとの兼ね合いでスキルレベルが低いと上限値は決まってるとか、スキルレベルが低いとその分だけ威力にマイナスされるとか、そういう物があって然るべきだと思うんだよね俺は、ていうかあって欲しい。
「んー…流石にそんな例を実際に見た事は無いからどれ程威力に差があるのかなんてハッキリ答える事は出来ないんだが、魔法使いの勇者が初めてファイアボールを撃った時の話なら出来るぞ。あれは確か魔王との決戦の三カ月前だったか。その頃から既に魔王を凌駕する程の力を持っていた魔法使いの勇者はとある悩みを抱えていたんだ」
「悩み?」
「その強大過ぎる力の事さ。あの人が放つ魔法はまさに破壊の権化、触れる者等しく塵にしてしまう。しかしスキルはステータスとスキルレベルに依存して効力が変わる代物、一度上がったスキルレベルは落とせないし、呪いの装備の類でステータスを落とす事は出来てもいざという時に外せなければ有事の際に本気で戦う事が出来ない。そこであの人は今まで使った事の無かった魔法スキルに目を付けたのさ」
「魔法使いの勇者なのに、魔法スキルを使って無かったんですか?」
「あの人が使っていたのは勇者として得たチートスキルの魔法だ。魔術師系列の職業から使える魔法スキルの類は一切使った事が無かったんだよ。無論スキルレベルも1だしこれは丁度良いとサブ職業を魔術師に変えて早速試し撃ちをしたんだがな…」
そこで言葉を区切ったギルドマスターの様子を見て、その先の展開を何となく察する。
「ファイアボールを使ってみたら玉所か山みたいな巨大なファイアボールが出て来てな。あんな巨大なファイアボールを見たのはあれが最初で最後だった」
「ちなみに魔法使いの勇者の魔力って、どれくらいだったんですか?」
恐る恐る俺はギルドマスターにそう尋ねると、ギルドマスターはフフンと鼻を鳴らしながら誇らしそうにこう答えた。
「聞いて驚け、なんと三億だ!魔王を倒した歴代の勇者達でも一番高いステータスで数十万が限界だったのに、あの人は億越えだ!しかも三臆!すげぇだろ!」
「は、ははは…三億ですか、それはすごいですねー」
誇らしそうに笑うギルドマスターを前に、俺は乾いたような笑みを浮かべながらそう答えるしかなかった。
「魔力三億で山が出来たか…今の俺が使ったらどうなるんだろうなこれ」
「考えるのは止めましょう?そんな事考えてたら気になって試したくなるのが人間の性なんですから」
椿の言う事はもっともなのだが、気になる物は気になるのだ。
「はぁ…そうは言ってもせっかくのファンタジーなんだし魔法くらい使いたいよな…ファイアボールくらいなら大丈夫か?」
「やめてください、火の玉のつもりが太陽が出来ちゃいましたとか洒落になりませんからね?」
「…ステータスチートってロクでもねぇな」
改めてステータスチートというのは不便で良い所が何もないと認識した俺は魔物との闘いを経験するために魔物を探し平原を歩くのだった。