表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
6/27

勇者召喚の事実を知った時のお話

聳え立つ城壁に太陽が半分隠れ間も無く日が落ちきる頃、俺と椿は人通りの少ない道を歩いていた。


「はぁ…しっかし、これからどうするかな。このまま魔王倒しても使徒と疑われる可能性大だし」


倒してそのまま戻れるというのなら構わずこのまま行くのだが、元の世界に戻るには国の力を借りる必要がある。

たった二人、しかも召喚されてすぐに魔王を倒しましたなんて言った日にはステータスを見せろだのどうやって倒したのかと聞かれるに違いない。

もしもステータスの事がバレでもしたら、逃げる事は出来ても二度と元の世界に帰れなくなるだろう。

それだけは絶対に避けなければならない。


「やっぱ仲間を集めて何とか倒しましたって感じにするしかないのかね…。なぁ、椿はどう思う?」

「そう…ですね、お仲間はやっぱり集めた方が良いとは思います。私と明継さんだけだと何かと困る事もあるでしょうし」


そう言った椿はまだ少し元気のない様子だったが、ギルドで見せたあの強張った表情は既に無く、幾分かマシになったように見える。

俺はそんな椿を元気づけようと少し明るめに振舞って見せる。


「そっか、んじゃ、サクっと勇者を集めて魔王を倒して、そんで元の世界に戻ろうぜ!」

「…明継さんは元の世界に帰りたいですか?」


は?一体どういう意味だそれは。


「急に何を言い出すんだよ。当たり前じゃないか」

「そうですよね…すみません、変な事を聞いて」


そう言って椿は俯いてしまう。

ギルドで話してる途中から椿の様子はどこか変だ。

でも何故?どうしてそうなったのだろうか?。

それが全く分からなかった。


ギルドを訪れた時は普段の椿だった、エメリアさんに抱き着かれていた時も今のようになっていた訳ではない。

その後だ…その後に何かが―――


そこまで考えて、俺は一つの事に思い至る。


「もしかして勇者召喚に何かあるのか?」

「っ!」


エメリアさんから最初に聞いた話、それは廃課金の勇者と勇者ガチャに関する物だった。

それとさっき椿が言った言葉から、勇者召喚に関する事で何かあるのではと思い至ったのだ。


そして椿の今の反応で、俺の疑念は確信に変わった。


「勇者召喚に何かあるんだな」


今度は疑問形ではなく、確信を持ってそう口にする。

暫くの間沈黙が続いた。

1分とも10分とも感じられた沈黙の後、椿がゆっくりと口を開く。


「魔王を倒しても…いえ、それ以前にあの勇者召喚の魔法見た限りでは、私達は元の世界に帰れません。それ所か、待っているのは"死"だけです」

「なっ…それは一体どういう事だ!?」


俺は人目もはばからず大きな声を上げ、椿の肩を掴む。


「っ!」

「あ…悪い」


少し力を入れ過ぎたのか、椿の顔が苦痛に歪むのを見て慌てて手を放す。


「大丈夫か?」

「はい…大丈夫です」

「それで、戻れない所か待っているのは死だなんて、一体どういう事だ?」

「それはあの召喚の仕方にあるんです」

「召喚の仕方?」


俺の言葉に椿は小さく頷いた後、説明を始める。


「異世界から何かを召喚する方法については幾つかのパターンがあります。それは大まかに分けて2つ、術者がリスクを負うパターンと召喚される者がリスクを負うパターンです」


そう言って、椿は一方の説明をする。


「前者の方法は世界と世界の間に道を作りその中を通して召喚する対象を行き来させます。例え途中で魔法が中断されたとしても、道の中に居る者は道を通って無事どちらかの世界に流れ着きます。しかし世界の間に道を作るというのは容易な事ではありません。それを行使する術者に多大な負荷を掛けます」


続いてもう一方の説明にも入る。


「後者の方法は世界と世界の間に道は作りません。そのため決まった世界ではなく、無作為に適正を持った人間を探し出し、術者が居る世界まで引っ張ります。こちらの方法は道を作らない分術者にリスクはありませんが、もしも魔法が中断された場合、召喚された者はどこの世界でも無い、虚空へとその身を投げ出す事になります。その場合は……」


椿がその次の言葉を紡ぐ事は無かったが、言わなくてもその言葉については検討が付いていた。

それは間違いなく”死”であり、そしてその後者の方法こそが――


「俺達は、後者の方法で召喚されたんだな?」

「…はい。後者は術者が自分の元に引っ張る事が出来るため、召喚する事に関しては成功率はそこまで低くはありません…しかし自分の元に引っ張る時と違い、返すそうは行きません」

「そうは行かないって事は、戻れる可能性は0じゃないって事はないだろ?」

「そうですね…絶対に帰れないなんて言うつもりはありません…ありませんが…」


椿をそう言った後、例え話をしてきた。


「漁師さんって居ますよね。船に乗って網で魚を捕まえる漁師さんです」

「それがどうしたんだ?」

「私達は魚で、術者を漁師さんと考えてください。漁師さんは魚を捕まえるために広大な海に網を投げ入れます。そうして投げ入れた網に魚が掛かり、漁師さんはそれを引き上げました。明継さん、この魚を元居た場所に、一切のズレも無く還す事が出来ますか?」


広大な海に広げられた網に掛かった魚。

それを海に放す事は簡単だが、その魚が網に掛かった場所に戻せと言われて、果たしてそんな事が出来るだろうか?。


(そんな事不可能だ)


魚がどこで掛かったのかも分からなければ、船の上に居る人間に魚を思った場所まで送り届ける術なんてある訳が無い。

精々人間に出来るのは、魚が元の場所に戻る事を祈って海に放す事だけだろう。


「…そうか、これが今の俺達か」


網引っ掛かった哀れな魚、元に場所に帰る事も出来ず、ただジタバタと足掻くだけの…それが今の俺達だった。


そう自覚した時、無意識に両手の拳を握りしめていた。

色々な感情が胸の奥から湧き出し混ざり合い、俺の頭を埋め尽くす。

困惑、驚愕、焦燥、様々な感情が混ざり合う中、一つだけはっきりと分かる程の強い感情があった。


それは怒り、憤怒の感情。

一方的に召喚され、こんな所に連れてこられた事に対するこの国への、世界への怒りだ。


「明継さん…」

「………」


そんな俺の感情が伝わったのだろう、椿が怯えた表情を見せる。

そしてそんな椿の顔を見てフッと、俺の怒りも鎮火していく。


(怒った所で何も解決しねぇのに…何やってんだか)


このままでは元の世界に帰れないのは俺だけじゃない、椿だって同じなのだ。

しかも椿は俺の召喚に巻き込まれさえしなければ、ここに居る事は無かったはずだ。

その事実が俺を冷静にさせる。


椿が居てくれなければ俺はこの事実に気付くことも無く、言われるがままに魔王を倒し、元の世界に帰る事が出来なかったかもしれない。

そうなる前に俺は気が付くことが出来た。

それならばやる事は決まっている。


(椿と一緒に元の世界に帰る。そのためにやれる事をするだけだ)


「椿、何か元の世界に帰るための方法はあるのか?」

「…三つだけあります。一つはさっきも言った術者がリスクを負う方法、ただしこちらの方法はおそらくこの世界には存在しないので、魔法を行使できる術者を用意する必要があります」

「そのリスクってのは…そんなに軽い物じゃないんだろうな。誰かを犠牲にしてまで戻る気はないよ。残りは?」


「二つ目は私の力を使って道そのものを作り、それを利用して帰る手段です。ただし今の私は力を失っているので道が作れるだけの力を取り戻す必要があります」

「どれだけの力を取り戻せば良いかは分からんが、俺が持ってる椿の力を考えると数千のステータスとかじゃとても足りないんだろうな…次は?」


「最後に三つ目ですけど、応じてくれるか分からないのですが、この世界に居る神にお願いする方法です。神によっては積極的に力を貸してくれる者も居れば、我関せずと言った者も居るため正直に言って賭けでしかありません」


どれも現実的とは言えないが堅実的に行けば二つ目、上手くいくなら三つ目と言った所か。

成功する望みは薄いが、それでも『薄い』だ。

『無い』という訳ではないのなら、絶望するにはまだ早い。


どちらにせよ、今はただやれる事をやるだけだろう。


「悪かったな…俺の召喚に巻き込んで」

「大丈夫です、これでも神様ですから」

「なんだよそれ、理由になってないぞ」


椿の良くわからない返事に苦笑いを浮かべる。

苦笑いだが、それでも笑顔を浮かべる事が出来た。


絶対に元の世界に帰る、椿と共に――そう誓いながら俺達の異世界での旅が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ