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ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
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城から出た時のお話

椿に名前を付けたその後、とにかく召喚されたばかりで精神的にも疲労していた俺達は今日の所は休むことにして城を出るのは明日にする事にした。


夕食を済ませ城の立派な浴場を堪能した後、俺達は同じ部屋で寝る事になった。

王様にあんな事を言った手前、もう一部屋用意してくれとは言えなかったのだ。

とはいえ同じベッドで寝る訳にも行かないため椿がベッド、俺がソファーという配置で一晩を過ごした。

ただ俺と椿が別々で寝ているのは男と女だからという貞操観念的な理由だけではなく、俺の寝返りで椿が即死しかねないという洒落にならない現実的な理由が大きかった。


ソファーで寝るなんて慣れない事をしたためか、翌日の朝は身体の節々が痛んだがそれも数分とすれば綺麗さっぱり無くなる。

どうやらステータスの影響はこんな所にも表れるらしい。


二人して朝食を取った後、王様の元に行き城から出て旅に出たいという話をした。

最初は何と言われるかドキドキしていたが王様の口から出た言葉は「やはりか」という物だった。

どうやら勇者召喚された者の大半が同じような事を言い出すのだそうだ。

ただ大体は召喚されてから数日経ってからであり、翌日に言い出す奴は殆どいなかったそうだ。

そう言い出した勇者に対して王様が出す条件があるのだという。

それは王様が指名した相手を倒す事が出来たら旅を認めるという物だった。


俺はその条件を二つ返事で了承した。

王様が指定した相手は一人の騎士だったが別に騎士団の団長だったり滅茶苦茶強い訳でもない。

少なくとも一人旅が出来る最低ラインの強さを持った人間という感じだった。

結果は言わずもがな圧勝、ただ普通に殴ったり斬りつけたりするのは流石にどうなるか怖かったので剣をへし折って降参させた。


その後無事王様に認められ、選別として宝物庫から一つだけアイテムを選んで持っていけと言われた。

俺が選んだのHPアップの首飾り、勿論俺用ではなく椿用だ。

HPアップの首飾りは城の宝物庫にあった物で一番HPのプラス補正が高いもので、HP上限が+2000が最高値だった。

一般的な人間のHPがどれ程の物か分からないため、+2000というのが良い方なのかも良くは分からなかったが少なくともHP1よりは2000倍マシだとそれを貰う事にした。

これでワンパンの危険は無くなったとはいえ、その他のステータスは依然として1のままなので早く装備をそろえてレベルを上げなければまだ安心は出来ない。

幸い王様からいくらかの路銀も貰っているので街に出て情報収取と装備調達をする事にした。


「とりあえず城を無事に出る事に成功した訳だが、最初に行くべき所はやっぱ冒険者ギルドとかか?」

「王様からもギルドには行くようにって言われましたしね」

「焦って出てきたけど、俺ら殆どこの世界の知識ないからな。スキルの使い方だって満足に分からないし…そもそも武具が売ってそうな店の場所すら知らないしな。確かギルドは街の中央だって言ってけど、まぁ行けば分かるか」


そう言って城に背を向けて歩き出し街の中央へと向かう。

城の付近は貴族の屋敷と思われる建物ばかりだったが、城から離れるに連れて屋敷が疎らになり別の建物も見えてくる。

そこからさらに歩けば市場のような場所に出て、道の両脇には様々な店が軒を連ねていた。


くぅぅ…。


「あ…」


隣を歩く椿のお腹から可愛らしい音が響く。


「そういやもう昼時か。適当な屋台で何か食ってくか」

「そ、そうですね」


恥ずかしそうに縮こまっている椿を連れ、食べ物を売っている屋台を見て回る。


「ファンタジー世界の屋台って何売ってんだろうな?やっぱモンスターの肉とか?」

「だとしたら人型系のモンスターは遠慮したいですね」

「分かるわそれ、人じゃないって分かっててもやっぱ人型ってだけでなんか忌避感あるよな」


そんな事を言いながら歩いていると視界の端にある物が映る。


「なんだあの屋台?なんか大鍋でかき回してるけど」

「あ、本当ですね。なんだか甘い匂いがしますし、何でしょう?」

「ちょっと寄ってみるか」

「はい!」


俺達はその屋台に近づき、鍋の中身を覗き込む。

中には半透明のとろみがついた液体が入っており、甘い匂いはどうやらこの液体から漂っているようだった。


「お兄ちゃん達、どうだい?1杯50リーユだよ」


リーユというのはこの世界の通貨単位であり、通貨に使われているのは銅貨、大銅貨、銀貨、金貨などだ。

銅貨が10リーユ、大銅貨が100リーユ、銀貨が1000リーユ、金貨が10000リーユといった感じだ。


「それじゃ2杯下さい」

「はいよ!」


屋台のおばちゃんがニカっと人懐っこい笑顔を浮かべながら、大鍋から木製のコップに謎の液体を注いでいく。


「はいお待たせ!おばちゃん特製の『スィーム』だよ。余計な物を一切入れてないシンプルな味を楽しんどくれ」


そう言っておばちゃんからコップを受け取り、中の液体に視線を向ける。


どうやらこの液体はスィームという飲み物らしい。


(なんか葛湯(くずゆ)みたいだな)


そんな事を考えながら一口。


「おっ…うまい」

「はい、ほんのり甘くて美味しいです」

「だろう?味に変化が欲しくなったらこっちにある調味料も使いな。ただしその場合は追加で30リーユ貰うけどね」


おばちゃんはそう言ったが、俺も椿も今の味に飽きる事無く半分程飲み干していた。

シンプルながらも独特の風味があるなんだか不思議なスィームの事が気になり、ふとおばちゃんに質問する。


「これどうやって作ってるんですか?」

「別にそう難しいもんじゃないよ。材料もそこら辺にありふれてるし、ただ煮詰めるだけだからね」

「へぇーそうなんですか、俺にも作れますかね?」


そう言いながら俺は残ったスィームに口を付ける。

そんな俺に視線を向け、おばちゃんが笑いながら言った。


「生きたスライムを煮詰めるだけなんだから誰にだって出来るさ!」

「「ブッホォ!?」」


二人して同時にむせる。


ちょ、これスライム!?純度100%のスライムかよ!?。


そう考えた途端、なんだか腹の中でグルグル蠢いている気がしてくる。

いや、あれだけ加熱されてかき回されたのなら既に死んでいるはずなのだが、それでもスライムを腹の中に居れたと考えるとそれだけで気分が悪くなる。


結局、それから俺も椿も一口も口にする事が出来ず、コップをおばちゃんに返してスィームの屋台を離れた。


「一気に食欲が失せたな…」

「それでも、胃の中の物を中和するためにも何かお腹に入れたい気分です…」

「それもそうだな…」


とにかく、腹の中の物をどうにかしたいと二人して適当な屋台、味の濃さそうな固形物を探す。


探し出して数分後、肉とタレの焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。


「あそこの屋台なんてどうだ?」

「次は食べる前に何のお肉かちゃんと確認してくださいね?」

「分かってる」


そう同じようなミスは絶対にするものか。

俺はそう心に誓いながら、串に肉を指して焼いている屋台のおじさんに声を掛ける。


「おじさん、この肉って何ですか?」

「ん?うちはラーンピッグの肉を使ってるぜ」


ラーンピッグ…名前からして豚のようだが聞き覚えが無い。


「椿は知ってるか?」

「いえ、多分この世界特有のモンスターの名前でしょうね」

「どうする?」

「多少の得体の知れなさは我慢しないと、この世界じゃまともに物が食べられない気がします」

「それもそうか…おじさん、そのラーンピッグの串焼き二本下さい」

「はいよ!毎度あり!二本で100リーユだ」


おじさんから串焼きを二本受け取り大銅貨を一枚渡す。

串焼きを一本椿に渡し、お互いの顔をチラリと見た後同時に串にかぶりつく。


最初に舌先に感じたのは塩気、串焼きに使われているタレは思いのほか甘味がなく塩気の強い物だった。

そんな事を考えながらも串に歯を立て、肉を串から引き抜き口の中で咀嚼する。

すると肉の中から一気に肉汁があふれ出し、口いっぱいに広がる。

最初はタレの塩気が気になっていたが、肉汁があふれ出す度にその塩気が肉汁に含まれる甘みを引き立てていた。


「なるほど…タレが甘くないのはこのためか」

「タレなのに、思ったよりくどく無くてとっても食べやすいです」


そんな事を口にしながら、二口目を口にする。


それから俺も椿も一言も発することなく、無我夢中で肉を腹に収めていく。

そんな俺達の様子をおじさんが機嫌よさそうに見ていた。


「兄ちゃん達、良い食いっぷりだな!そんなに夢中で食ってくれると俺も嬉しくなっちまうよ!」


鼻下を人差し指で擦りながら、おじさんが照れたように言う。


確かに美味かったは美味かったのだが、実際は腹の中のスライムが気持ち悪かったから腹に別の物を収めようとしていたとはとても言い出せず苦笑いを浮かべる。


「あはは…とても美味しかったです。な?椿」

「はい、なんだかお腹も浄化された感じがします」


そう言って椿がお腹を撫でまわす。

そんな俺達の様子に、おじさんはさらに機嫌を良くして話し出す。


「そうだろう!なんてったってラーンピッグの”食用オーク”は世界一だからな!」


ドサッ!!


おじさんの言葉に、俺と椿が同時に地面に崩れ落ちる。


「オ、オーク…」

「人型モンスターの代名詞じゃないですか…」

「全部食べ切っちまった…」

「私もです…」







それから数分、何とか俺達は起き上がりその場を後にする。

現在は市場を抜け、街の中央に位置する広場に来ていた。


「まさかラーンピッグがブランド名だとは思わなかったなぁ」


空を見上げながら俺がそう呟くと、椿が腹をさすりながら唸る。


「うぅ…お腹の中でスライムとオークがデュエットを奏でている気がします…」

「そういう事言うのやめろよ、こっちまで意識しちまうだろ」


お腹を押さえる椿を横目に見た後、俺は自分の腹から意識を逸らすように広場を見渡す。


ここが中央のはずだが…さてそれらしい建物はどこだろうか。


「お、冒険者ギルドってあれじゃないか?」


広場の中でも一際大きな建物を指さしながら椿に言う。


「さっきから、剣や弓を持った冒険者っぽい人間が出入りしてるし、多分あれだろ。ほら行くぞ」

「はーい…」


未だにお腹を押さえて気持ち悪そうにしている椿を引き連れて、俺は冒険者ギルドへと向かった。


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