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ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
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名前を付けた時のお話

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「落ち着いたか?」


息も絶え絶えな女性に向かってそう声を掛ける。

ベッドの顔を突っ伏していた女性が、顔だけをこちらに向けて答える。


「多少は………本当、これくらいの事で動けなくなるなんて情けないです」

「アンタの力を奪っちまった俺が言うのもなんだけど、力の殆どを俺に持っていかれたんだろ?仕方ないんじゃないのか」


あれから俺をポカポカと叩き続けていた女性だったが、一分と立たないうちに息切れを起こしベッドに突っ伏してしまった。

どうやら激減したステータスの影響で、体力などもかなり落ちているようだった。


それとは反対に神様の力を手にした俺はというと全身に力が漲る…という事もなく、普段と何も変わらない感じだ。

物を持とうとして握り潰すというような事もなく普通に持てるし、いつももより感覚が鋭くなったという感じも特にない。


未だに自分が神様の力を得たという実感を持てないでいると、後ろから気だるげな声が聞こえてくる。


「実感が欲しいのでしたら力を込めてみたらどうですか…普段の限界を超えて込められるはずですよ」


なるほど、そういえば試していなかったな。


早速言われたことを実践しようと、握力を測定する時のように拳を握りしめる。


グッ…


「………」


普段であればこれ以上力を込める事が出来ずにプルプルと拳全体が震えだしていただろうが、まるで限界を感じる事なくどんどんと力を込める事が出来る。


グググッ…


「………っ」


ググググググ!


「―――ぷはぁ!!はぁ…はぁ…」


指先が手の平を突き破って手の甲まで突き抜けるのではという嫌な想像が頭を駆け巡り、思わず力を込めるのを止める。


「どうでしたか?」

「これは…凄いな…限界を一切感じない。何処までも力を込められそうだった」

「それが神の力を得た影響です。今の貴方なら腕の一振りで街一つ更地にする事だって可能でしょう。ですから調子に乗って力を込め過ぎないようにしてくださいね」

「…肝に銘じておくわ」


俺はそう女性に返すと、これからの事を考える。


最初こそ勇者召喚だぜヒャッホーみたいな気分だったが、今ではそんな気持ちも完全に失せていた。

というのも俺はチートで無双するようなラノベ的な異世界ファンタジーよりも、ゲームのようにレベルを上げて強くなり魔王を倒す話の方が好みなのだ。

だというのにこんなとんでもステータスを手に入れてしまった今、レベルを上げる意味も無ければ、スキルや魔法を使った戦略性といった物もありゃしない。


(これはさっさと魔王倒して元の世界に戻るしかないな)


まずそのためにはこの城から出なければならないだろう。

とはいえ召喚されたばかりのLv1勇者がいきなり城から出て魔王倒しに行ってきますなんて言って許可をくれるとは思えない。

俺のステータスをそのまま見せる事が出来たなら納得させる事も出来たかもしれないが、俺と俺に力を奪われたこの女性以外の人間には、俺の本来のステータスしか見えていないようだった。


俺はどうした物かと考えながら背後の方で相変わらずベッドでうつ伏せになって居る女性に声を掛ける。


「なぁ、俺はこれから城を出て魔王を倒しに行こうと思うんだが、アンタはどうする?」

「どうするって…本当ならこのまま安全な所でお留守番していたいと言うのが素直な気持ちですけど、あんな茶番の後に私を残して勇者が一人で旅立ったら不自然でしょう?。だったら付いていくしかないじゃないですか」


そういや王様に対してこの女性が居なければ生きていけない身体になったとか勢いのままに叫んだんだったな。


「うぅぅ…怖いです。こんな貧弱ステータスで外に出たら一瞬で天に召されてしまいます…!」

「そんな大袈裟な…力を殆ど失ったとはいえ神様なんだろ?流石にそこら辺のモンスターに負けるような事は――」


そう言いかけた俺に向かって、女性が無言のまま掌をこちらに向け、ステータスと唱える。

そして女性の掌の前に出現したウィンドウを見て、俺は言葉を失う。



――――――――――――――――――――

名前:--- Lv1

職業:--- Lv-

HP :1

MP :1

攻撃:1

防御:1

魔力:1

精神:1

敏捷:1

・スキル

創造:Lv-

改変:Lv-

解析:Lv-

――――――――――――――――――――


なんだこのステータス…完全に搾りカスじゃないか。

流石にここまで徹底的に力を吸っているとは思わなかった。


俺がそんな、控えめに言ってもカスとしか言えないそのステータスに呆然としていると、女性が涙目で俺に向かって非難の声を上げる。


「人からステータス奪っておいてその言いぐさ、もとい思いぐさは無いんじゃないですか!?」

「なんだよ思いぐさって、だってこんなステータス見せられたら誰だってそう思うぞこれは」


ステータスの合計しても二桁に届かないというのはあまりにもひどすぎる。

これ小指をぶつけただけで死ねるんじゃないんだろうか。


「うぅぅぅ…だから外に出るのが嫌なんですよぉぉお!!私このままじゃ間違いなく生きられませんよ!デッド オア ダイですよ!!」

「で、でもほら!なんかすげぇスキル持ってるじゃん!よっ!流石神様!」

「そんな露骨なヨイショで私の機嫌が治るとでも思ってるんですか!?治る訳ないでしょう!?こんなステータスじゃ創造は愚か改変すら満足に出来ないんですよ!完全に宝の持ち腐れなんですよぉぉぉ!」


そう叫んで、女性がまたワンワンと泣き出してしまった。


なんだか、泣いてばかりだなこの神様。

しかし、創造、改変、解析か…本当に神様っぽいスキルだな。

神様と言っても縁結びだとか子宝だとか色んな種類が居るけど、この女性は一体何の神様なんだろうか?。


話題を変えるためという事も考え、俺が女性にその疑問をぶつけてみる。


「なぁ、アンタって一体何の神様なんだ?」

「うぅぅ、ぐすん…私ですか?何のって言われましても、元いた世界を管理している神としか答えようがないんですけど…」


世界の管理って、この女性そこまで偉い神様だったのか?。

そう言われるとスキルも確かにそれっぽい感じだな。


「あー…凄い今更だけど、神様に向かってため口とか罰とか当たらない?敬語使った方が良いか?」

「敬う気持ちの無い人が無理に敬語なんて使う必要ありませんよ…。心が読める私に、上っ面だけの敬意なんて無意味ですから」


それもそうか、上っ面だけの敬意なんて心が読める奴からしたら気分が悪くなるだけなのかも知れないな。


「しかし困ったな、そうするとアンタの事なんて呼べば良いんだ?」


子宝だとか縁結びだとかならなんとでも呼べるが、漠然と世界を管理する神様というだけではどう呼べば良いのか思いつかなかった。


「別に無理に考えて呼ぼうとしなくても良いですよ」

「そうはいかんだろ。これから少なくとも魔王討伐のまでの間は一緒に行動する事になるんだから『アンタ』とか『お前』だと色々不便だろ」

「それじゃあ貴方の気が済むよう、好きなように呼んで下さい」


ベッドに顔を埋めたまま、投げやりにそう言ってくる女性を横目に見ながら俺は考える。


好きなようにって言われてもなぁ…今の所この神様の事で俺が知っている事と言えば

1,俺に力を取られている

2,巻き込まれて召喚された

3,心が読める

4,良く泣く

5,貧弱ステータス


「『(さとり)』とか?」

「それ妖怪じゃないですか…」

「『スペラ〇カー』は?」

「今の私はその人以上に死にやすい気がします…」

「『出涸らし』はどうだ?」

「そう呼ぶ事を私が認めるとでも?」

「じゃあ『クソ雑魚泣き虫』」

「もうただの悪口じゃないですか!」


女性がベッドから身体を起こしてそう文句を言ってくる。

俺はやれやれと言うように首を振りながらため息を吐く。


「はぁ…何でも良いと言った割に文句ばかり言う…困った神様だぜまったく」

「確かに好きなように呼べとは言いましたけど!妖怪扱いやクソ雑魚泣き虫とか酷すぎですよ!私にだって許容範囲って物があるんですからね!?」


そう言ってこちらを睨んでくる女性を見て、俺は苦笑いのような顔をする。

あのままずっとメソメソされるよりも怒ってる方が幾分かマシだと思い、あんな挑発的な事を言ったがどうやら功を奏したようだ。


そんな俺の考えを読んだのだろう、ムッとしたような表情を浮かべた女性だったが、ため息を吐きながらもベッドから降り俺の対面の椅子に腰かける。


「嫌だっていうならなんかそっちからも要望出してくれよ。冗談抜きでこのままだと最悪『マチ子ちゃん』で通すことになるが」

「あの茶番まだ引き摺る気ですか…。そうは言われましても、今まで自分の名前の事なんて考えた事ありませんでしたし、難しいです」


何か、この女性の名前になりそうな物はないだろうか。

土地神だったりするのならその土地から名前を拝借したりできるのだろうけど…いや、その場合既に名前が付いてたりするか。

そういやこの神様って元居た世界だと普段は何処に居るんだろうか?。

何処かお決まりの場所とかがあるのだろうか?。


「なぁ、アンタって普段は何処で過ごしてたんだ?」

「普段ですか?それなら山の頂上に建てられた社に居ましたけど」

「その山って、山の麓から頂上まで続くクッソ長い石段のあるあの山の事か?」


俺の住んでいた町には誰が、一体何のために建てたのか、それら一切の事がまるで分らず何時からそこに在るのかさえ分からないという曰くつきの神社があった。

その神社は地元民の間で『神が建てた神社』と呼ばれ、大昔は信仰の対象になって居たそうだ。


そしてその神社にはもう一つ『神が建てた神社』とは違う別の呼び方があった。

その神社へ続く長い石段の両脇、そして境内の周りの木々は全て椿であり、遅咲きのため春頃になると綺麗な赤い花を咲かせる事で有名であり『椿神社』とも呼ばれていた。


昔からこんな椿だらけの神社にどんな神様が祀っているのかと疑問に思っていたが、どうやらこの神様がそうだったらしい。


「そうか、アンタが椿神社の神様だったのか」


俺がそう言うと神様が儚げに笑う。

神様のその表情はどこか悲しそうであり、何かを懐かしんでいるようでもあった。


どうしてそんな顔をするのか、俺には全く分からなかったが俺はその顔を見て名前を決める。


「よし、お前は今日から”椿”だ!」


随分と安直な物だなと自分でも思ったが何故だかこの神様にはそれが良いと思った。


「私が…椿」


神様がそう呟きながら目を瞑り、椿という名前を自分の中で反芻しているようだった。

そうして10秒程経った頃、神様がゆっくりと目を開けにっこりと微笑みながら言う。


「はい!私は今日から椿です!よろしくお願いしますね、明継さん!」

「おう、よろしくな椿!」


そうして俺達は互いに笑いあった。







――今思えば、随分と愉快な『出会い』で、奇妙な『始まり』だったよな


あの時はほんの一時、魔王を倒すまでの間の旅だと、そう思っていたのに――

一章完結まで毎日数話、区切りが良さそうな所で投稿します。

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