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ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
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旅立った時のお話

ヴェレーノを討伐した翌日の朝、俺達は首都の外、正門で多くの人に見送られ今まさに旅立とうとしていた。

見送りには首都でお世話になった人達、ギルドマスターやエメリアさん、グレッグさん達に宿屋を始めとした武器屋や防具屋などの店主の皆、そしてシャーロットの姿もあった。


「シャロちゃん、折角進化出来たのに一緒に旅に出れないなんて残念です」

「こればっかりはしょうがない。ギルドマスターからも言われてるしな」


シャーロットがアルミラージではなくレプス・コルヌトゥスだと判明した今、当初グレッグさん達から言われていた問題は解決したが、その代わりに別の問題が出てきた。


それは出発する事を伝える為、ギルドに立ち寄った時の事だ。







「シャーロットを連れて行くな…ですか?」

「あぁ、シャーロットがレプス・コルヌトゥスであると分かった以上、そして成体となってしまった今、シャーロットを連れて行かせる訳にはいかん」

「それはどうしてですか?」


ギルドマスターの言葉に椿が質問する。


「他所の国の人間がいきなり魔物を引き連れてやって来て”どうぞお通り下さい”となると思うか?。しかもレプス・コルヌトゥスなんて絶対に無理だ。アルミラージくらいなら問題は無かっただろうが流石に限度って物がある。国内で暴れられでもしたら大変だからな」

「シャロちゃんは意味もなく暴れたりしません!」

「それは俺も分ってる。だが他国の人間にそれを理解しろというのも無理な話だ」


ギルドマスターの言う事は理解できるが、俺は一つ疑問に思った事を口にする。


「以前グレッグさん達から獣使いという職業があると聞いたのですが、その人達も魔物を連れていたら駄目なんですか?」

「いや、獣使いが仲間に出来るのは通常の魔物だけだしそれなら何の問題もない。今回問題なのはシャーロットがレプス・コルヌトゥスであるという事だ。流石にボスクラスの魔物をおいそれと自国内に招き入れる事は出来ないだろうし、何より他国の勇者が引き連れる魔物だ。競争相手の力を少しでも削ごうとするのは当然だろう?」


確かにわざわざ競争相手の勇者に手を貸す理由なんか無いし、むしろ率先して妨害してやれくらいの勢いなのだろう。


ギルドマスターのその言葉に椿が眉を顰める。


「そういうの聞くと何だかここを出るのが怖くなりますね…」

「脅しといてアレだがそう怖がる必要はない。妨害を考える連中ってのは大抵国家権力の犬共だ。その国で暮らしてる普通の人間なんかはそれほど勝敗や国の優劣に執着はない、むしろ率先して競争を楽しんでるくらいで他国の勇者を手助けする時もある」

「つまり国境を越えてさえしまえばどうとでもなると」

「あぁ、だが国境を守るのはその国の兵士達だ。流石にシャーロットを連れて国境を通してはくれないし、シャーロットを別ルートで侵入させて国内で合流ってのも無しだ。国民は黙っててくれるかもしれんが万が一国にバレたら後が面倒だからな」


まぁ魔物とはいえ普通に考えて密入国だもんな、それを他国の勇者が手引きしたとなれば尚更問題だろう。


「魔王を倒すだけなのになんでこうも面倒事が多いんですかね」

「仕方ないだろ、これは所謂代理戦争なんだ。その結果で優劣が決まるとなればどの国も必死になるさ。ただまぁあくまで競争相手のだからな、その国の勇者を仲間に引き入れちまえば嫌とは言わないはずだ。シャーロットを連れて行くのは仲間を集め終えた後、それまでは俺達が責任持ってシャーロットの世話をする。だからお前達は今は仲間集めに集中しろ、良いな?」







というような事がありシャーロットは仲間集めが終わるまではお別れする事となった。


「クゥゥン…」

「そんな悲しそうな声出すなよ。仲間を集め終えたら必ず迎えに来るから」


前足に力を込め、今すぐにでも飛び掛かってきそうな雰囲気のシャーロットを慰めるために頭を撫でていると、グレッグさんとリーライさんが俺をフォローするようにシャーロットに話掛ける。


「シャーロット、ほんの数カ月の辛抱だ。そうしたら明継君と椿ちゃんとまた旅が出来るようになる。だから元気をだして」

「そうだぜ、大体明継達が元の世界に帰っちまったら二度と会えなくなるんだから数カ月くらいどうって事――ぶほっ!?」

「クォォォン!!クォォォォォォン!!」

「グレッグさん…今のはぶっ飛ばされても仕方ないです」


グレッグさんの言葉で興奮状態になってしまったシャーロットを三人掛かりで宥めているとお世話になった人達に別れの挨拶を済ませた椿がこちらに戻ってくる。


「随分と長かったけど、挨拶は済んだのか?」

「はい、それにしても明継さんはあんな簡単に済ませて良かったんですか?」

「別に今生の別れって訳でもないしな、また何度か戻ってくる事になるだろうし、それよりもシャーロットを宥めるの手伝ってくれ。俺達だけじゃどうにもならん」


今度は四人掛かりでシャーロットを慰めようとするも、俺と椿に頭を擦りつけて鳴くばかりでありむしろ俺達が宥めると余計に離れ辛くなっているように思えた。


「明継、ちょっと良い?」

「ジュリアさん?それにクロエさんにライザさんも」


俺はシャーロットから少し離れ、声を掛けてきた三人の方へと向き直る。


「どうかしたんですか?」

「どうかしたんですかって冷たいわね、何か用がなきゃ声を掛けちゃ駄目なの?」

「いえ、そういう訳じゃないですけど」

「ジュリア。意地悪を言うものじゃありませんよ。実際私達は必要が無ければ明継さんとはあまり話をしていませんでしたからね」

「沼地で特訓してた時も明継の事はグレッグとリーライに任せて、椿とシャーロットにばかり構ってたから仕方ない」


クロエさんとライザさんの言葉にジュリアさんは少しバツの悪そうな顔をする。


「別に意地悪で言った訳じゃないのだけど…でもそうね、ちょっと突っかかるような言い方してたわね。反省するわ」

「別にそれくらい問題無いですよ。それより…えーっと」

「あぁ要件ね。まぁ大した事じゃないのよ」

「ただお別れの前に話しておきたいって思っただけの事です。先程も言った通り明継さんとは必要が無ければ話をしていませんでしたからね」

「昨日のお礼もまだだったし」

「お礼?」


一体何の事だろうと俺がそう聞き返すとジュリアさんが答えてくれた。


「昨日加勢してくれた事よ。昨日は一方的にアンタにお礼を言われただけでまだこっちはお礼してなかったから…ありがと」

「おかげ様で誰一人犠牲を出す事無く事を治める事が出来ました。本当にありがとうございましたぁ」

「ありがとう、お礼にこれ上げる。椿に断られた呪いの藁人形」


三者三様、それぞれのお礼を受け、俺は何だかもどかしい気持ちになる。


その後俺達はジュリアさん達も加えどうにかシャーロットを落ち着かせる事に成功し、今度こそ旅立とうとしていた。


正門の前には多くの人が整列し、俺達の事を見つめていた。

そんな人々と向かい合うように立っていた俺と椿は一度顔を見合わせた後、二人同時に頭を下げる。


「「お世話になりました!皆さんお元気で!!」」


顔をあげると同時に俺達は背を向け歩き出す。

皆の声に背を押されながら俺達はここ一ヶ月近く過ごした街を旅立っていく。


不思議と悲しいとか寂しいという気持ちは無かった。

それはきっとこれが最後では無いと分かっているからだと俺は思う。


これから始まるであろう冒険に少し胸を躍らせながら、俺達は次なる目的地へと足を進め――


「おーい!ちょっと待ってくれー!」


――られなかった。


折角良い感じで別れたのに台無しだと俺は少しふくれっ面をしながら後ろを振り返るとグレッグさんが手を振りながらこちらに駆け寄って来る所だった。


「いやー呼び止めちまって悪いな」

「一体何ですか?」

「そう不機嫌そうな顔すんなよ。ちょっとした忘れもんだ」

「忘れ物?」


一体何を忘れたのだろうと俺と椿が首を傾げていると、グレッグさんが真剣な顔で口を開いた。


「邪神の使徒って知ってるか?」


グレッグさんの口から出たその言葉俺は動揺しようになるも、それを表に出す事はせず何食わぬ顔で答える。


「えぇ、エメリアさんから聞いてます。何でも邪神に力を与えられた存在でとんでもない力を持ってるとか」

「そうだ、他人より与えらえた力は力を与えられた本人とその力を与えた者しか確認する事は出来ない。もしそれがバレたらタダでは済まないし、各国が総力をあげて命を狙うような危険な輩だ」

「らしいですね」


俺はグレッグさんの言葉に適当な相づちを打ちながら何故このタイミングでそんな話をするのかを考えていた。


(邪神の使徒は勇者を狙ってるんだったか、もしかしてわざわざ忠告しに来てくれたのだろうか?)


だが俺のそんな甘い考えをぶち壊すようにグレッグさんが口を開く。


「単刀直入に言う、明継…お前”使徒”か?」

「っ!?」


その言葉に俺は動揺を隠せなかった。


(何故?どうして?何処でバレた?一体何時から?)


そんな言葉が頭の中から湧いた傍から消えていく。

濁流のように流れる思考の中で、俺は自分の心が酷く冷えて行くのを感じた。

混乱していたのが嘘のように、急速に思考が落ち着いていく。


「明継さん…?」


バレた、バレてしまった。

誰に?グレッグさんに、他に知っている者は居るのか?居たとしたらそれは誰だ?。


(グレッグさん、リーライさん、ジュリアさんにクロエさん、そしてライザさん…いや、マスターに話してる可能性も、そうなるとエメリアさんもか)


全員で七名、七人に俺の秘密が知られた事になるのか?。

何故バレたのかは今はどうだって良い、この状況を打開しなければならない。


使徒である事を広めない為にはどうすれば良いのか?一体何をすれば良いのか?。

その答えは出ていたが、その場合七人を始末した場合のリスクが発生する。


秘密がバレてそれが広まった場合のリスク、この場で口封じした場合のリスク、一体どちらを選ぶべきなのか。


(そんなもの、決まっている)


俺はゆっくりと右手を剣の柄に被せ――


「明継さんっ!!」


――ポン…


「なぁにおっかない顔してやがる」


グレッグさんの大きな手が俺の頭に置かれる。

その手はまるで子供を落ち着かせようとする父親の手のようで、全身に力を入れていた俺は身体の力が抜けてしまい右手を降ろしてしまう。


「安心しろ、別に誰かに言ったりはしない。この事を知ってるのは俺達五人だけだ」

「…何故ですか?」


落ち着いた事で再び思考に嵌りそうになりながらも俺はどうにかその言葉を絞り出す。


「何故…ね、逆に聞くが明継、何でお前は俺達を助けた?」

「何でって」


グレッグさんの質問に俺は答えようとするが明確な理由が思いつかなかった。


「お前は俺達に出会った時からずっとこの事がバレないよう警戒してたんだろ?。俺達にスキルの一つさえ教えないくらいお前はその秘密を隠そうとしていた。それはその秘密がお前にとってとても重要な事だからだ」


グレッグさんは俺の目を見つめながら話を続ける。


「それならばお前は俺達に手を貸すべきじゃ無かった。ただ黙って無力な勇者を装っておけばそれで良かった。お前はそれが出来たはずだ」

「それは…」

「お前は理解していたはずだ。戦闘に介入すれば秘密がバレる可能性があった事は、それを承知の上でお前はどうして俺達を助けた?」


助けた理由、改めてそんな事を問われるとは思ってもみなかった。

ただ勝手に身体が動いただけの話だ、別に理由なんか無い。


だがもし、あの時の自分を突き動かした感情を言葉にするのなら、それは


「怒り…ですかね」

「怒り?」

「えぇ、ただ見ている事しか出来ない自分に対する怒りとでも言うんですかね、皆が戦ってるのに自分だけ何もしないってのが我慢出来なかったんだと思います。だからグレッグさん達の為とかじゃ無くて、多分あれは自分の為にやった事なんです」

「なるほど…自分の為にか、そりゃ仕方ねぇな」


そう言ってグレッグさんは苦笑いを浮かべると何かを懐から取り出し俺に手渡して来る。

俺がそれを受け取り確認するとそれは二つの指輪だった。


「HPとMPを増加させる装飾品だ」

「何故こんな物を?」

「俺達がお前の秘密に気付いたのはパーティリストに表示されていたお前のHPとMPがあまりにも低かったせいだ。それを付けれておけば30レベル相当のHPとMPにはなるはず、今度からパーティに他人を入れる時はHPとMPに注意するこったな」

「…俺の事を国に伝える気は無いんですか?」

「お前が邪神の為に働く使徒だったら迷うことなく突き出してたさ。でも今俺の目の前に居るのは自分の為なら後先考えず馬鹿をやらかす俺達の勇者だ」

「グレッグさん…」

「もうお前が何者だとか聞きゃあしねぇよ。お前が悪い奴じゃ無いのは良く分かってるつもりだ。でも世界中の人間がそう思ってくれるとは限らない。良いか明継、絶対にバレるんじゃねぇぞ」


グレッグさんはそう言いながら俺の肩を叩くと俺達からゆっくりと離れて行く。


「じゃあな」


最後にグレッグさんは軽く手を振ると踵を返して街へと戻って行った。

俺達はその背を暫く見つめた後、どちらともなく背を向けて再び歩き出す。


「良い人達でしたね」

「そうだな」

「…明継さん、大丈夫ですか?」

「ん?あぁ、まぁ秘密の事がバレたのは驚いたし、しかもこんな初っ端からだからな。不安に思っただろうがもう大丈夫だ。次からはもっと上手くやるさ、グレッグさん達から貰ったこれもあるしな」


俺は左手の人差し指と中指に嵌められた二つの指輪を天に翳す。


「そういう事を心配していた訳じゃ無いんですけど…まぁ普段通りの明継さんで安心しました」

「どういう意味だよそれ?」

「なんでもありませんよー、それより明継さん!隣国に行く前にちょっと寄りたい所が」

「一生の内一度は食べてみたいスイーツランキング2位の店には行かないからな?」

「何故分かったんですか!?」

「お前昨日くらいからずっと食べたい食べたい言ってただろ…流石に分かるわ。他の勇者が旅立つよりも早く向かわなきゃならないんだからそんな余裕はない。ほら行くぞ」

「そんなぁ…」


そんなやり取りをしながら俺達は街を離れて行く。


こうして様々な不安を抱えながらも俺と椿の旅が始まるのであった。

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