獣使いの勇者と称えられた時のお話
「ん…んぅ?」
「明継さん!気が付きましたか!?」
「…?椿、か」
気が付くと俺は慣れ親しんだ何時もの宿屋のベッドの上で横になっていた。
身体を起こし部屋の中の様子を見ると、俺が泊っている部屋で間違いなく、ベッドのすぐ脇に椿が椅子に座って俺の事を見つめていた。
「…あの後、どうなったんだ?」
「覚えていらっしゃらないのですか?」
「ヴェレーノを倒した事までは覚えてる、でもその後の事が全然思い出せない。なんか意識を失う直前に強い衝撃を感じた気がしたんだが…」
「シャロちゃんから投げ出された明継さんはその勢いのまま近くの森の中へと落ちて行ったんですよ。あの後すぐに明継さん捜索隊が組まれたんです。皆さんお疲れのところ無理を押して明継さんの捜索に参加してくれたんですからね?」
「そうか…そりゃ後でお礼言っとかないと、椿も看ててくれてありがとうな」
「いえ、私は全然お役に立てなかったのでこれくらい何のことは無いですよ。それより立てそうですか?」
「あぁ、椿の力のおかげだろうな。全く問題ない」
俺はそう言いながら椿を安心させる為、立ち上がるとその場で軽く動いて見せる。
「ほらな?」
「なら良かったです。皆さん心配してましたので、意識が戻ったらギルドに来てくれと言っていました」
「了解、それじゃあ早速向かうか」
「もう完全に日が落ちてるな。一体俺はどれくらい気を失ってたんだ?」
「明継さんが見つかったのがお昼過ぎですからかれこれ6時間くらいですかね」
「結構気を失ってたんだな…ダメージはそう無かったはずなんだが」
「戦いで疲れていたってのもあるんじゃないですか?」
そんな事を話しながら俺達は街の中央広場へと到着する。
「ん?なんだあの人だかりは」
冒険者ギルドの入口の側に何やら人だかりが出来ており、ギルドの入口が塞がれていた。
俺は人だかりに近づきながら声を掛ける。
「おーい、悪いけどちょっとどいてくれ。ギルドに入りたいんだ」
「ん?お、おいあれって」
「獣使い!獣使いの勇者だ!!」
「街を救った英雄だー!」
は?獣使いの勇者ってなんだ?。
俺がその言葉を理解するよりも早く、沢山の人間がこちらめがけて走り寄ってくる。
「ちょ、ちょっと!?」
突然大量の人間に迫られ及び腰になっていると、人だかりの中心から突如白い塊が飛び出し俺に覆いかぶさった。
「クゥゥゥゥン!!クゥンクゥゥン!!」
「うお!シャーロット!?」
人だかりの中から飛び出して来た物の正体はシャーロットであり、俺に覆いかぶさると俺の顔に頭をこすりつけてくる。
「シャロちゃん物凄い心配してたんですよ?一時でも明継さんと離れたくないー!!って、でもこの大きさじゃ部屋には入れないし、宿屋の前でも通行の邪魔になるのでギルドで待ってて貰ったんです」
「クゥゥ!!クゥクゥ!」
「ちょ、分かった!心配かけて悪かったって!だから落ち着け!?それよりもお前足は大丈夫なのか?」
「脱臼ならうちが治した」
横から聞こえてきたその声に視線を向けると、いつの間にかグレッグさん達がすぐ傍に立っていた。
「よ!思ったよりも元気そうだな」
「ご心配をおかけしました。それと森に落ちた俺を捜索してくれたそうで、ありがとうございました」
「それくらいの事で礼なんて良いさ。助けられたのはこっちの方だし」
「でも俺じゃ無くてグレッグさんやジュリアさんならもっとスマートにやれたはずですし、余計な手間を掛けさせたのは事実ですから」
「それはどうかしらね」
「え?」
ジュリアさんのその言葉にどういう意味かと俺が問いかけようとしたその時、グレッグさんが俺の背中を叩く。
「こんな所で突っ立ってないでさぁ入った入った!折角お前の為に宴席を用意したんだ」
「ちょ、グレッグさん急に押さないでくださいよ!危ないじゃないですか」
「まぁまぁ、良いから良いから」
俺はグレッグさんとリーライさんに背中を押されギルドの中へと押し込まれる。
パァン!
「「「明継!レイドボス討伐おめでとう!!」」」
軽快な破裂音と共に紙吹雪が舞い、ギルドの中に居た人達がお祝いの言葉をかけてくれる。
「クラッカー…?なんか音と共に中世ファンタジーっぽさまで吹き飛んでいったな」
「明継さん、今はそんなツッコミは置いといて祝福されてるんですから素直に喜びましょう?」
「それもそうだな」
ギルドの中には何時もより多くのテーブルや椅子が設置され、豪華な食事が並べられていた。
俺はその中で手つかずで空いているテーブルに腰掛けると、椿やグレッグさん達、それにギルドマスターにエメリアさんが同席する。
「さて、それじゃあ改めて明継のレイドボス討伐と無事を祝って、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
ギルドマスターの音頭を皮切りに、ギルドの中が一気に騒がしくなる。
宴が始まってすぐグレッグさんが俺に話掛けてきた。
「しかし明継、俺はお前が森の方へ落っこちてったのを見た時はもう駄目かと思ったぞ」
「そんなライザさんの呪符でステータスも強化されてましたし落っこちたくらいじゃ死にませんって」
「いや、そこじゃなくてね。明継君、シャーロットと一緒にヴェレーノの毒霧に突っ込んだでしょ」
「その後解呪もしないままにアンタが行方不明になったもんだからこっちは焦ったのよ」
「パーティメンバーのHPは離れていても確認できましたからね。明継さんのHPが減って行く度に心臓がドキドキしましたよー」
「明継、本当に危なかった」
そういやヴェレーノの猛毒は確か最大HPの5%を継続的に削るんだった。
つまり20回のスリップダメージを受けたら俺はお陀仏だったという訳だが、良く無事だったな俺。
「ライザが持続回復系の呪符を重ね掛けしてくれてなかったらマジで終わってたぞ」
「うちファインプレー、ぶい」
ライザさんがブイサインをこちらに向けながら言う。
どうやらライザさんがリジェネ効果のある呪符を何枚か張り付けてくれていたおかげで助かったようだ。
「本当にありがとうございました」
「次からもうちょっと慎重になりなさいよ?アンタは時折椿以上に危なっかしく思える時があるから」
「椿よりもですか…?」
ジュリアさんの言葉に俺は隣で肉を頬張り満面の笑みを浮かべている椿の顔をみつめた後、ジュリアさんの方に向き直る。
「いや、それは絶対に無いです」
「ひょっほあひふぐはん!?」
「口に物入れたまま喋るな、行儀の悪い」
俺達がそんなやり取りをしている横でギルドマスター達の会話が耳に入ってくる。
「しかし、ライザの呪符には驚いたな。まさかヴェレーノをアッサリと倒してしまうとはな」
「うちが全力を出せば当然」
「そうかそうか!頼もしいもんだ!」
力任せに剣をぶん投げたせいでヴェレーノが塵になってしまい誰の目から見ても明らかにオーバーキルだったのだが、どうやらすべてはライザさんの呪符のおかげという事になっているようで一安心だ。
「あ、そうだ俺の剣」
ヴェレーノに向かって投げつけたせいで剣が無くなっている事に今更ながら気が付く。
するとグレッグさんが思い出したかのように教えてくれた。
「あぁ、あの剣だがヴェレーノを貫いてそのまま地面まで貫通してやがってな。一応掘り返してみたんだが1メートル掘り進めても柄すら見えないもんだから諦めたんだ」
「そうでしたか…後で代えを買わないと」
「そう来ると思ってね、明継君これを」
そう言ってリーライさんが俺に向かって布でくるまれた何かを手渡して来る。
布を除けてみるとそれは一振りの剣だった。
「これって」
「街の皆からの選別よ。流石に剣も無しに勇者を送り出す訳には行かないからね。黙って受け取っておきなさい」
「ありがとうございます」
俺は礼を言い、腰に残っていた鞘を外し受け取った剣と交換する。
「そういえばさっき外で獣使いの勇者だとか言われましたけど、何ですかあれ?」
「お前の通り名だよ、シャーロットの背に跨り魔物の群れの中を駆けるその姿からそう呼ばれてんだ」
俺のスキルは別に魔物を従えるような類の物では無いのだが、かと言ってじゃあ何の勇者だと聞かれても俺には答えられない。
それはスキルの詳細を知られたくないというのもあるが、ただ純粋に”勇猛”というこのスキルにピッタリな通り名が思いつかないからであった。
廃課金なら”ガチャ”、詐欺師なら”騙り”、それぞれがその通り名に相応しいスキルを持っていたはずだ。
だが俺のこのスキルにはそう言った個性というか、特徴と呼べる物が何も無いのだ。
自身を含む仲間全ての力を底上げし共に戦い、時に仲間とはぐれ孤立した際には普段以上の力を発揮し獅子奮迅の活躍を見せる。
勇敢で猛々しい、絵に描いたような理想の勇者像を体現したモノ、そんな印象しか俺はこのスキルから感じ取る事が出来なかった。
(仮に答えるとしたら”ただの勇者”って所だろうか)
俺が一人難しい顔で考え込んで居るとジュリアさんがそっと口を開いた。
「別に良いじゃない、なんて呼ばれようとアンタはアンタでしょ?」
「ジュリアの言う通りだぜ。それにこういう通り名とか肩書っていうのはあるだけでプラスに働く事が多い。たまにマイナスになる事もあるが…まぁそこは使い様だな」
「まぁ勝手に呼ばれてる分には構わないんじゃないかな。ほら自分を偽るのにも便利だしね」
確かにグレッグさんやリーライさんの言う通りそう呼ばれて困る訳じゃない。
自分がそう名乗ってる訳でも無いし、それで俺のスキルが誤解され通り名との食い違いを指摘されたとしても”いや、それは勝手につけられただけだから”と言い切ってしまえる。
あまりスキルの内容を自分から話したくない俺としては相手が勝手に誤解してくれるのでむしろ有難いくらいではないだろうか。
(まぁ気にした所でどうにかなる物でもないし、なるようになるか)
宴の席で何時までもゴチャゴチャと考え事してるのもアレだしな。
それから俺達は一時旅立ちの事は忘れ街の人々と共に楽しく宴を満喫したのだった。




