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ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
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巻き込まれた者のお話

謁見の間を出た俺達は、姫様の案内でとある一室に通された。


「それでは何か御用があれば部屋の外で待機している者にお声をおかけくださいませ」


そう言って姫様が出ていってから早10分、俺と女性の二人きりになった部屋に重苦しい雰囲気が漂っていた。


そんな部屋の空気に耐えきれず、俺はぼんやりとここに来るまでの道すがら姫様から聞いた事を思い返していた。


それはステータスの表示方法についての事だ。

この世界にはゲームのようなレベルやスキルといった概念が存在していた。


ステータスの表示方法は単純で、自分の掌に視線を向けて『ステータス』と唱えるだけだ。

すると掌の上にステータスのウィンドウが現れ自分の強さや現在の状態、スキルの詳細などを見る事が出来る。

ちなみにこの時表示されているステータスは自分にしか見えないのだと言う。

他人にステータスを見せる場合は相手に掌を向けて同じように『ステータス』と唱えるだけだそうだ。


教えられた時にすぐステータスを確認したがどうもステータス表示が可笑しく、ステータスの値が常に変動しており滅茶苦茶な値が表示されていた。


その事に首を傾げながら姫様にも確認して貰おうとステータスを見せたのだが。


「流石は勇者様、レベル1で攻撃が100を超えているなんて」


という返答が返ってきた。

どうやら姫様には俺のステータスが普通に見えているようだった。


俺はその事を思い出しながら、再びステータスを表示して確認する。


「え?」


俺は表示されたステータスを見て目を見開く。

ステータスの変動が止まっていたのだ。

しかしただ止まっていただけではなく、表示されたステータスの殆どがウィンドウ内に収まっておらず途中で途切れていた。


俺は自分でステータスを確認する事を半ば諦め、ステータスの詳細は今度姫様にでも尋ねるかと考え思考を切り上げる。


「………」


俺は無言のままベッドの上で体育座りをしてどんよりとした空気を醸し出している女性に視線を向ける。


いい加減この空気にも耐えられなくなってきたので、空気を変えるためにも女性に話しかけてみる事にした。


「なぁ…名前はさっきも言ったけど、俺は神多明継だ。あんたの名前は?」


取り合えず最初に名前を聞いて、そこから話を広げる作戦に出る。

ここで素直に名前を教えてくれるならまだこの空気の改善の余地はある。

もし教えてくれなかったらそれはそれで別の対処を考えるだけだ。


俺がそんな事を考えながら女性の返答を待っていると、女性の口から出たのはそのどちらでもない俺の予想外の物だった。


「…ないです」

「ない?それが名前なのか?」


女性は首をブンブンと振り、俺の目を見ながらもう一度言葉を紡ぐ。


「私には名前がありません」

「名前がありませんって、それは一体どういう」

「名前なんて人が区別するために付ける物です。私は私一人しか居ませんから、名前なんて必要ありませんでしたし…」


そう言って視線を膝に落とす女性を見つめながら、俺は考える。

この女性は一体どんな人生を歩んできたのだろうか。

ますます女性の正体が分からなくなり俺が疑問に頭を悩ませていると、女性が顔を上げて俺の顔を見て言う。


「…一つ、貴方の疑問に答えるならば、私は貴方の召喚に巻き込まれて召喚された者ですよ」

「っ!急に何を」

「貴方が疑問に思っていたので、答えたまでです」


『思っているよう』ではなく『思っていた』と、まるで心を読んでいるかのように女性が確信を持ってそう口にする。


一体、この女性は何者なのだろうか?。

俺がそう疑問を思い浮かべた時、またも心を読んだかのように女性が俺の疑問に答える。


「私、これでも神ですから」

「は?神?」

「えぇ、心を読むくらい出来て当然です。そう、心を読むくらい…心を読むくらいしか今の私にはもう」


そう言って女性が再びどんよりとした空気を醸し出したが、俺はそんな事を気にしてはいられなかった。


この女性は一体何を言い出すのだろうか。

確かに本当に神だとすれば人の心を読む事くらい容易いかも知れないが、本当に心が読めるとは信じられなかったし神様だというのは尚更信じられない。


もしかしたら頭の残念な人で、いわゆる電波という奴なのだろうか?。


「私は『頭が残念な人』でも、『いわゆる電波という奴』でもありませんよ」


一言一句たがわず、想像していた言葉を言い当てられる。


「……驚いた、本当に心が読めるんだな」

「神ですから、これで少しは信用していただけましたか?」

「あぁ、少なくとも普通の人間ではないってのは分かったよ」


俺の言葉に女性が僅かに不満げな表情をする。


「まだ私の事疑ってますね」

「普通の人間じゃない=神様とはならないだろう?。そもそも本当に神様ならなんでこんな所に、俺の勇者召喚になんて巻き込まれてるんだ?」

「うっ…それは」


何か言い辛そう事でもあるのだろうか?。

女性が俺から視線を逸らし黙り込んでしまう。


「まぁ良いさ、あんたが何者だろうと俺に害がある訳でもないだろうしな」


俺はそう言って話題を切り替える事にした。

恐らくだがこの女性は嘘を言ってはいない。

直感的な物でしかなかったが不思議とそう思ったのだ。


「所でちょっとアンタに見てもらいたいものがあるんだけど…『ステータス』」


俺はそう言って女性に俺のステータスを見せる。

もしかしたらこの神様を自称する女性ならば何か分かるかも知れないと思ったからだ。


「どうだ?」

「どうだと言われましても、貴方は私にどんな答えを期待しているのですか」


どんな答えって、そりゃこの表示が可笑しくなったステータスを正常に見る方法についてなのだが。


「ふむ、ステータスを正常に見る方法ですか…すみませんが、それは私にも分かりませんね。ただ――」


女性はそこまで言うと、ステータスウィンドウから視線を外して俺と目を合わせる。


「これは表示が可笑しくなった訳ではなさそうですよ。正常に機能しているように見えます」

「正常にって…ウィンドウに収まりきらないステータスとか明らかに異常だろう?」

「ステータス”は”そうかも知れませんね」

「どういう意味だ?」

「私は表示が正常であると言っただけで、ステータスが正常とは言っていませんよ」


つまり…どういう事だろうか。

ステータスの表示自体は正常という事は、俺は実際にこんなとんでもないステータスを有しているという事になってしまうのだが。


「いやいや…それはないだろ。姫様とかは俺のステータス見て100超えてて凄い見たいな事言ってたんだぜ?表示されてるのが本当に俺の実際のステータスだとしたら可笑しいだろ」

「それはそうなんですが…私の”眼”で見ても特に変わった所は見受けられないんですよね」

「むしろ変わった所だらけだと思うんだけどな…欄外まで飛び出してるとか明らかに正常じゃないだろ」


そう言いながら俺は改めて自分のステータスを確認する。


――――――――――――――――――――

名前:神多明継 Lv1

メイン職:勇者  Lv1

 サブ職:---  Lv-

HP :708136142822566345079094785139…

MP :131945816607722840935750132684…

攻撃:247869953129872580531037646041…

防御:347282601612830994493075618557…

魔力:123197834562932175102318730017…

精神:513307615840491729680532296478…

敏捷:437225302576878939004669115814…

・スキル

勇猛:Lv1

――――――――――――――――――――


何度見ても見辛いステータスだな、しかしやはり見れば見るほどこのステータスが正常とは思えないんだが…。

こんな悪ふざけみたいなステータスを持つ存在なんて、それこそ神の如き存在でしかあり得ないのではないだろうか。


俺がそう考えた時、女性がハッとしたような表情をする。


「もしかしたら…『ステータス』」


そう言って女性が自分のステータスを確認する。

すると、女性の表情がみるみる強張っていき、身体がぷるぷると震えだす。


「おい、どうした?」

「………でしたか」

「なんだって?」


ぷるぷると全身を震わせていた女性がぐわっと顔を上げると、目じりに涙を貯めたまま、俺の胸をポカポカと叩いてくる。


「あなたが原因じゃないですか!!なんで!なんでぇぇ!!」

「ちょ、なんだ急に!?」

「こっちに来てから力が全然使えなくてどうしようと思ってたら!それ私の力じゃないですか!返してください!」


ちょっと待て?それってどういう事だ?。

私の力を返してって、つまり俺はこの女性の力を、神様の力を奪い取ったって事なのか?。


「え?えぇぇぇ…」


予想外の事態に、俺は女性に何も言い返す事も出来ず、呆然と俺の胸を叩いている女性に視線を落とす。


「うぅぅぅ!返してください!返してください!私の力をかえしてくーだーさーいー!!」


これが俺が勇者召喚され、今に至るまでの経緯だった。


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