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ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
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沼地で何日か過ごした頃のお話

グレッグさん達の元でこの世界で生き抜く為の術を学び始めて五日目の頃、俺とグレッグさん、それとリーライさんは野営地の側で三人横並びで体育座りをしていた。


「暇ですね」

「暇だな」

「暇だね」


三人揃って同じような事を言いながら野営地の外で騒いでいる女性陣達を眺める。


「椿!そっち行ったわよ!」

「はい!任せてください!!」

「シャロ、強化の呪符!」

「クゥンクゥゥン!」

「足止めは任せてくださいー」


(楽しそうだなーあいつら)


俺はそんな事を考えながら今日も晴れ渡る青空を見上げていた。


何故こんな事になっているかというと、時を遡り二日目の事だ。

移動に時間を食った一日目と違い、二日目からは朝からみっちり魔物との戦闘をさせられた。


規格外のステータスがバレないよう常に力を抑え、スキルも使えないため剣だけで戦っていた俺だったが、抑えると言っても自分の意思で押さえられるものには限りがあり、動体視力や反射神経のような物はステータスの恩恵をフルに受けていた。

そのおかげか俺はスキルを使わずとも難なく魔物を倒せるため、戦闘でダメだった所を指摘していこうと考えていたグレッグさん達も俺に何を教えるべきなのか非常に頭を悩ませていた。


一方ステータスの低さを技量でカバーする椿や攻撃と敏捷に突出し防御面が弱いシャーロットの二人は欠点が分かりやすく教えやすかったのだろう、気が付けば俺はそっちのけでグレッグさん達は椿とシャーロットにばかり教えていた。


しかし流石にこの状況はまずいと思ったのかグレッグさんとリーライさんは椿とシャーロットの事は他の三人に任せ、俺には戦闘以外の事を教えてくれる事となった。

元々教えて貰う予定だった野営地の設営の仕方や夜に注意しなければいけない事、それにこの世界の地理や地域ごとにどんな人間、魔物が住んでいるのか。

いざという時に食べられる魔物や野草なんかはどれだなど、椿達が戦っている傍らで俺は朝から晩までずっとグレッグさん達が教えてくれる知識を吸収し続けていた。


そうして迎えた五日目、俺達は朝からずっと椿達や青空を呆然と眺めていた。

本来なら朝から夕暮れまで戦闘、夜の間に勉強という日程だったのに、それを朝から晩までみっちり三日もやったのだ。

教えて貰う予定が無かった事も色々と教えて貰ったが、流石に休まず三日も続けていたら教えるネタも尽きてしまう。


「おい明継、お前なんか剣以外で戦ってみようって気は無いのか?」

「何ですか藪から棒に…今の所はないですね、剣だけで十分戦えてますし」


本当は魔法なんか使って戦い所なのだが、流石にそれは出来ない為今の所は無いと答える。


「はぁぁぁ、そうかよ。しっかしお前は当たりだったみたいだな、召喚された翌日に騎士に勝ったって聞いてたし沼地程度なら問題無いだろとは思ってたけどよ、いくら何でも問題なさ過ぎだろ」

「召喚されたばかりに有りがちな気負いも無ければスキルに頼り過ぎるという事もない、むしろスキルを使わなさすぎるくらいだ。僕達の知識もアッサリと吸収してしまったしね」

「俺らが今まで教えてきた勇者達とはえらい違いだ。正直ここまで出来が良いと何か隠してるんじゃないかって不安になるくらいにな」


何か隠しているんじゃないかというグレッグさんの言葉に俺は内心焦りつつも、表面上は冷静を保ちながら言葉を返す。


「なんで”出来が良い=何か隠してる”っていう方程式が成り立つんですか」

「勇者だからな」

「勇者だからね」

「…一瞬納得しそうになった自分が居ます」


この世界における勇者って一体どういう認識なんだろうか。


「しかしなぁ明継、俺はお前と最初に会った時、確かにお前の警戒心の強さを褒めたけどな。ステータスは兎も角スキル一つロクに見せないってのはいくら何でも警戒心が強すぎやしないか?。正直言ってお前の戦い方が見えてこない事には俺らも教えようがねぇんだ。ここいらでそろそろ話しちゃくれねぇか?」

「グレッグ、他人のステータスを詮索するのはマナー違反だよ。無理やり聞き出そうとすれば罪に問われる」

「そうは言うけどな、じゃあお前は今日を含めて後三日、明継に何を教えようって言うんだ?」

「それは…」


言い淀むリーライさんを見てグレッグさんはフンと鼻を鳴らす。


「ほらな、何にも思いつかねぇだろ」

「とはいえステータスやスキルについて詮索するのは良くない」

「別に全部洗いざらい話せって言ってる訳じゃない。何かアドバイス出来るかも知れないからちょっと教えてくれって言ってるだけじゃねぇか」

「だからそれが――」

「あの!!」


このままでは言い争いに発展すると思い俺は二人の間に割って入る。


「俺の為にっていうお二人の気持ちは凄い有難いです。でもすみません、やっぱ自分のステータスやスキルに関して人に打ち明けるっていうのはやっぱり何だか抵抗感があって、どうしても話せそうになくて」

「…そうか、お前自身がそう言うんじゃ仕方ねぇか。だがさっきも言ったけどそうなると俺達がお前に教えられる事なんて何も」


そこまで言いかけ、グレッグさんがふと何かを思い出したような顔をする。


「いや、一つあったな。教えなきゃいけない事が」

「教えなきゃいけない事?」

「明継、シャーロットの戦いを見てどう思う?」


グレッグさんの言葉で俺は少し離れた位置で戦うシャーロットの姿を見る。

自分よりも何倍もの体躯を持つ相手と対等に渡り合うシャーロットを見て、俺はグレッグさんに思った事をそのまま伝えた。


「凄いと思いますよ。自分よりも大きな相手に臆する事無く挑んで、しかも対等に戦ってる」

「対等…か。確かにシャーロットの攻撃力とあの素早さには目を見張るものがあるのは確かだ。ライザの呪符でステータスを強化された時なんかは俺の目で見てもたまにシャーロットの姿が目で追えない時がある。でも対等に戦ってると言われると俺にはそうは見えない」

「どういう事ですか?」


俺がそう尋ねるとグレッグさんは難しい表情をした後、ゆっくりと口を開いた。


「お前らが後悔する前にハッキリ言っておくが、このままシャーロットを連れて行けば間違いなくシャーロットは死ぬぞ」


グレッグさんは俺の反応を待たずに続けた。


「お前は対等に戦ってると言ったが、それは表面上の話だ。シャーロットがこの沼地で特訓を始めて五日目、ステータスが低い事もあって最初は頻繁に上がっていたレベルも昨日の夕暮れに一度レベルが上がってからはまだ上がっていない。恐らく今のシャーロットのレベル20台後半、もしくは30程になってるはずだ。もうここの魔物でレベルを上げるのはキツくなってくる頃合いだ」

「それが一体どういう関係が」

「分からねぇか?。ここの魔物のレベル帯は10から20、対するシャーロットは30前後、10レベル以上のレベル差があってようやく対等なんだよ」

「同じレベルでも種族によってその強さは大きく異なる。例えば同じ成体でも猫と虎ではまるで違うだろう?」

「ハッキリ言ってアルミラージは魔物の中じゃ最底辺の種族だ。例え100レベルになろうがドラゴンの類には勝てやしない」

「明継君、君はこれから先勇者として様々な魔物と相対する事になると思う。その時シャーロットが戦いについていける保証はない。いや、絶対に無理だろう」


ここまで説明され、俺はグレッグさん達が何を言いたいのかを理解する。


「…なるほど、シャーロットは置いて行けって言うんですね。確かにアルミラージがいくらレベルを上げた所でドラゴンや魔王に太刀打ち出来るとは思えませんし、そうするしか無いんでしょうね」

「そうだが、やけに素直だな。もうちょっと何かあると思ってたんだが」

「何かって何です?」


困惑顔のグレッグさんに俺は首を傾げながらそう聞き返す。


「いや…改めて聞かれるとそうだな、お前って結構サッパリしてるよな。もうちょっとシャーロットと離れたくないとか、何か方法は無いのかとか、そういう事を聞いて来るもんだと予想してたからよ」

「離れたくないと駄々をこねてそれでシャーロットが死んでしまったら元も子も無いじゃないですか。それにそんな方法があるならこの話をした時”後悔する前に”なんて前置きはしないでしょう?」

「まぁそうだけど、明継君は意外と達観してるね。もう少しショックを受けたりするものだと思ってたんだが」


ショックか、確かにそう言われるとショッキングな話なはずなのに驚くほど冷静な自分が居る事に気付く。


(こういう所が椿の言う冷血漢って事何だろうか)


「まぁお前は聞き訳が良くて良かったぜ。問題があるとすれば椿の方か」

「彼女はシャーロットを可愛がってるからね。やはり別れたくないと駄々をこねるだろうな」

「そう…ですね」


普段の椿の様子を見ればそう考えるのは当然だし、俺もそう思っていた。

でも何故だろう、そうはならないだろうと心の中で思っている自分もいた。


実際にこの事を椿に伝えたらどんな反応を示すだろうか?。

俺はそんな事を考えながら魔物と戦いを繰り広げている椿の姿をただじっと見つめ続けるのだった。

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