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ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
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沼地で戦った時のお話

「今のお前達がどれくらい戦えるか見るために、お前達にはここで魔物と一戦交えて貰う。まずは明継、お前からだ」

「俺からですか?」

「あぁ、そもそもこれはこの世界に来たばかりの勇者の為にやってる事なんだ、お前がメインなんだから当たり前だろ」

「…分かりました」


俺はそう返事するとゆっくりと前へ出る。


(予想はしてたけどこうも早く戦う事になるなんて)


表面上は平静を装いつつも俺は内心焦っていた。

というのも俺の戦い方というのはステータスに物を言わせたゴリ押しだ。

力加減を少しでも間違えれば剣の一振りで魔物が肉片も残さず塵になってしまう。

とはいえ加減し過ぎると今度は魔物を倒すまでに時間が掛かってしまうし、何よりわざとらしい。


(全力で戦ってますよ感を出しつつ、一撃で魔物を倒さないようにするには…アレしかないか)


この間覚えたばかりのとあるスキルの事を考えながら、相手となる魔物の姿を目で探す。


「とりあえず魔物を探す所からですか?」

「いや、探す必要はない。というのもお前らに戦ってもらう魔物はもう決めてあるんだ。いきなり20レベルの魔物になんて当たったら下手すりゃ死にかねないからな。ジュリアに手頃な魔物を捕まえてくるよう言っておいたんだが…あいつ遅ぇなぁ、一体何処まで探しに行ってんだ」

「ん、あれじゃないか?ほら」


リーライさんがそう言って指さす方角から肩に人型の魔物を背負い、ロープで同じ魔物をさらに二体引き摺りながらこちらに向かってジュリアさんが歩いて来る。


「おせーぞ、何処まで行ってたんだ」

「三体って話だったから手頃な巡回部隊でも捕まえようと思ったら全然居なくて、ちょっと集落の方まで行ってきたの。それで三体以外を全滅させたら時間食っちゃったのよ」

「おいおい、今日から一週間こいつらのレベル上げも兼ねてるんだから少しは残しとけよ…最終日はこいつらにリザードマンの集落を落とさせる予定だったのに」


リザードマンの集落というのがどの程度の規模なのかは分からないが、高レベル冒険者であるジュリアさんが時間を食うという事はかなりの数が居たに違いない。

それを召喚されてまだ一月も経っていない俺達に攻めさせる予定だったのか。

どうやらグレッグさんはかなりのスパルタ思考らしい。


「全滅させてしまったものは仕方ない、それよりジュリア肩に担いでるの降ろして」

「はいはい」


ライザさんに促されジュリアさんが肩に担いでいたリザードマンを地面に下ろす。

気を失っているリザードマンにライザさんが近づき手をかざすと、手の平から光が溢れリザードマンの身体へと染み込むように消えていく。


「もうすぐ目が覚める。明継以外は離れて」


その言葉に俺以外の人間は俺とリザードマンから距離を取る。

俺はその時距離を取ろうとしているグレッグさんに声を掛けた。


「グレッグさん」

「ん、どうした?」

「リザードマンってどの程度のレベルのモンスター何ですか?」

「レベルで言えば10レベル、この沼地の最低レベルだ。数週間平原でレベル上げしてたお前らなら大した奴じゃねぇ気楽に行け」

「分かりました。それともう一つ質問何ですが、リザードマンを何発で倒せたら一人前ですかね?」

「お?なんだ、そんな事聞くなんて自信でもあるのか?」

「まさか、ちょっとした好奇心です」


俺がそう返すとグレッグさんは少し考える素振りを見せた後に言った。


「そうだな…三発、いや二発、二発で倒せたら一人前だって認めてやるよ」

「二発ですね、分かりました」


それから間もなく、リザードマンが目を覚まし上半身だけでのっそりと起き上がる。

目覚めてすぐに状況を確認するように周囲をキョロキョロと見回していたリザードマンだったが、剣を構える俺の存在に気が付くと見開かれていた瞳は鋭くなり、急速に敵意を宿らせていく。


互いに臨戦態勢に入り、俺は剣の柄を握りしめながら周囲に聞こえないよう小声でスキルを発動させる。


「『ライフセーブ』」


その瞬間、僅かに刃全体が光るもすぐに光を失う。


俺はライフセーブが発動した事を確認すると、目線をリザードマンに戻し剣を中段に構え直す。


「すぅ…っ!」


深く息を吸うと同時に俺は地面を蹴り駆け出す。

無論全力ではない。

速過ぎず、遅過ぎず、今の自分は10レベル前後の冒険者なのだと言い聞かせ、その範疇を超えないレベルで力を制御する。


「カァァァ――プュッ!!」


大口を開けたリザードマンの口から緑色の液体が俺めがけて吐き出されるも、俺はそれを回避しリザードマンに接近する。


「うぉぉぉ!!」


突撃の勢いはそのままに剣を振り上げ、リザードマンの左腕を斬り落としその横を駆け抜ける。


「『ライフセーブ』!」


俺は再度スキルをかけながら急停止し、その場で身体を捻り無防備になったリザードマンの胴体を真っ二つにする。


「グギェェェェェ――ガッ!?」


下半身を失い地面に倒れ込んだリザードマンの喉元に俺は剣を突き立てトドメを刺す。


自分の足元でビクビクと身体を震わせ、やがて動かなくなったリザードマンの死体を見つめながら俺は今の戦いを振り返っていた。


(最初のダッシュは良い感じの速度だった。リザードマンも三発で倒したしやり過ぎたって事は無いはずだ)


今の戦い方に何処か不自然な部分は無いかどうかを考えていると、戦闘の邪魔にならないよう距離を置いていたグレッグさん達が近づいて来る。


「いやー惜しかったな。二発目で瀕死まで追い込んだみたいだが、あと一歩足りなかったな」

「腕や胴体を切断してたし、二発目の段階で放っておけば出血のスリップダメージで倒せたのでは?」

「バッカ野郎、そんなんで認められるか。男なら毒だの出血だのそんなセコイ手に頼らずコレ一本で戦うもんだ」

「僕も男なんだけどな…」


そんな事を言い合っているグレッグさんとリーライさんを横目に見ながら、とりあえず乗り切ったと俺は安どのため息を吐く。

そんな俺のすぐ脇に何時の間にかジュリアさんが立っていた・


「んー明継ってさ、元の世界で剣術かなんかやってた?」

「え?いや、中学時代に学校の授業で剣道やってたくらいで全然ですけど」

「それがどの程度のものなのかわたしには伝わらないんだけど…まぁ話しぶりからして大した事はやって無いのよね。それにしては素人に有りがちな癖が無いというか、適度に肩の力が抜けていた…というよりは意図的に抜いていたように見えたのだけど」


ジュリアさんの言葉に俺の心臓がドクンと跳ね上がる。

どうやら俺が力を抜いていたのがバレていたらしい。


「別に不思議な話じゃねぇだろ。平原で散々魔物を相手にして来ただろうし、何度も戦ってれば感覚的に戦い方も覚えるだろ」

「戦い慣れた人間の力の抜き方とは違うような気がしたのだけど…まぁ良いわ」


少し気になったという程度なのだろう、あっさりと引き下がったジュリアさんの様子に俺は安堵した。

その後、椿とシャーロットが俺と同じようにリザードマンと戦ったが、どちらも特に問題も無く普通に勝っていた。


椿はステータスが低くリザードマンを倒すまでに十発必要だったが、戦って居る時の椿は普段のポンコツさなど微塵も感じさせない動きでリザードマンの攻撃を躱し、無傷で勝利していた。

シャーロットは攻撃と敏捷が高いアルミラージの種族としての特性もあってか、素早い動きでリザードマンを翻弄し、二発で仕留めていた。


おかげでグレッグさんからはアルミラージ以下だと笑われたが、今の俺はそういう冒険者を装っている為反論する事はせず言葉を飲み込んだ。


その後は移動だけでかなり時間を食っていた事もあり、すぐに野営地を設営し一日目を何とか無事に終える事を出来たのだった。

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