表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
17/27

冒険者達と沼地へ出向いた時のお話

グレッグさん達とギルドで出会ったその日の内に俺達は馬車に乗せられ街から馬車で6時間の所にある沼地の側に連れて来られた。


「それじゃあ一週間後にまた迎えに来ます」

「ん、お願い」


ライザさんが御者と二言三言言葉を交わした後、御者は元来た道を引き返していく。

馬車ではこれ以上進めない為ここからは徒歩で行くという事だった。


「さーて、んじゃあ早速行くとするか」

「明継君、君達は隊列の真ん中に居てくれ。この沼地の魔物達はその大半が沼の中に潜んで得物が近づいて来るのを待ち構えている。平原でレベル上げをしていたし一撃でやられるような事は無いと思うけど念の為にね」

「はい、分かりました」


俺はそう返事すると言われた通りの配置に着く。

先頭はグレッグさんとリーライさんの前衛コンビ、その後ろに俺と椿とシャーロット、さらにその後ろにジュリアさん、ライザさん、クロエさんの配置だ。


(綺麗に前衛後衛で別れてるけど背後からの奇襲とか大丈夫なのか?)


まぁグレッグさん達はベテランみたいだし、かなり高レベルの冒険者のはずだ。

道中の馬車の中で沼地に居るのは10レベルから20レベルの魔物ばかりだとという話だし、例え背後から奇襲させても簡単に対処出来てしまうレベルなのだろう。


俺がそんな事を考え意識が散漫になっていたその時、突如俺の真横の沼地から泥が跳ね上がり、魔物が姿を現した。


「明継君下がって!!」


リーライさんが魔物から俺を守ろうと俺と魔物の間に立ち塞がる。

魔物が鋭いかぎ爪を振り上げリーライさんめがけて振り下ろそうとするも、リーライさんは俺と魔物の間に立ち塞がるだけで剣を抜く素振りも見せなかった。


無防備に佇んでいるリーライさんに魔物の凶刃が迫る。


ザシュッ!!


「何柄でも無い事やってんのよアンタ」


リーライさんがかぎ爪で切り裂かれるよりも前に、魔物の額に杖が突き刺さっていた。

何時の間にか俺の背後にはジュリアさんが立っており俺とリーライさんの肩越しから魔物の額めがけ杖をつき出していた。


「いや、明継君が襲われると思ったら身体が勝手にね?」

「後衛が前衛の真似事なんてしてんじゃ無いわよ。術者は術者らしく後ろに引っ込んでなさい」

「え?後衛?リーライさんが?」


ジュリアさんの口から飛び出した言葉に俺の頭の中は疑問で一杯になる。


「おいジュリア、ネタばらしが早すぎるだろ」

「別に良いじゃない、戦闘になればすぐ分かる事だし」


そう言いながらジュリアさんは魔物の額から杖を引き抜く。

魔物の額には杖で穿ったような傷跡は無く、代わりに鋭利な刃物を突き立てたような刺創があった。


「この傷跡は…剣?」

「正解、こう見えても私剣闘士なの。剣士と戦士系列のある職業をどちらも30レベルにするとなれる職業よ」


そう言うジュリアさんの恰好を今一度確認するが、大きなトンガリ帽子にファンタジーで良くある先端がグルグル巻きになった木製の杖、帽子と同じ色のローブとどう見ても魔法使いにしか見えない出で立ちであった。


「どう見ても魔法使いにしか見えないんですけど」

「もしかして魔法か何かで姿を変えているのでは?」


椿がそう言うと、クロエさんがニッコリと笑みを浮かべながら拍手をする。


「正解ですよー。リーライは幻術師、魔術師系の特殊派生で名前の通り幻術が得意で自分だけでなく味方の姿を自由自在に変える事が出来るんです」

「じゃあもしかして皆さんの職業って」

「私は僧侶では無く聖騎士、剣士と僧侶系列の職業を極めるとなれる職業ですよー」

「うちは盗賊では無く呪禁師、リーライの幻術師と同じく魔術師系の特殊派生、呪いって入ってるけど味方の治癒や強化がメインのサポート職」


完全に騙された。

まさか前衛だと思っていた人が実は後衛で、後衛だと思っていた人が前衛だったなんて。


そんな事を考えた時、俺はふとまだグレッグさんの職業を聞いて居ない事を思い出す。


「グレッグさんも後衛だったりするんですか?」

「ん?俺か?いや俺は前衛で戦士系の上位職の狂戦士だ」


何故グレッグさんだけ見た目そのまんまなんだ。


「グレッグはその、見た目がかなりゴツイでしょう?。この見た目で魔術師ですって言うには流石に無理があるというか」

「どう見ても脳筋の顔してるものね、グレッグは」

「この巨体で後衛は存在感が凄いというか、違和感が凄いですからねー」

「杖とかメイスで今にも殴り掛かってきそうな雰囲気漂わせてる」

「お前ら、黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって…!俺は後ろでチマチマしてのが性に合わないだけだってーの!!」


そんなグレッグさん達の姿を見て俺はふと湧き上がってきた疑問を口にする。


「それにしても魔法で姿まで変えて、冒険者の人達って皆そこまでしてスキルを隠すものなんですか?」

「いや、自分で言うのもアレだが俺達はかなり極端な部類だ。普通は外套で恰好を隠したり、本命の武器は懐に隠して擬装用の武器を背負ってるくらいなもんだ」

「恰好からある程度職業は絞り込めるとはいえ、それで分かるのは精々系統くらいだし、マスターポイントを使えば別の職業のスキルも使える。ここまで徹底する人はハッキリ言って極少数さ」

「私達がここまで徹底するのは偽る事の重要性を知っているから…というか、身に染みて理解させられたというか」

「あの人には手酷く騙されましたものねー」

「うちあの勇者嫌い」

「勇者に騙されたのですか?」


驚いたように椿がそう尋ねると、グレッグさん達は力強く頷き俺達に教えてくれた。


「過去に俺達が何人もの勇者をお前と同様にこの世界で生きる術について教えてきたってのは知ってるよな?。俺達が一番最初に教えた勇者が居たんだが、ソイツ何の勇者だったと思う?」


何の勇者かと聞かれてもその勇者がグレッグさん達が教えた一番最初に教えた勇者であるという事以外ロクな情報を持っておらず答えようが無く、俺が黙っているとリーライさんが口を開いた。


「彼は詐欺師の勇者だったのさ」

「詐欺師の勇者ですか?」


詐欺師と勇者という余りにも不釣り合いな二つの言葉に椿が首を傾げる。


「そうよ、アイツはとんでもない詐欺師で私達どころか国を、世界中を騙したのよ。他の勇者達の手柄を全て自分の物と偽って、自分自身はずっと街から出ずに悠々自適に暮らしてたの」

「嘘がバレないよう他の勇者を騙したり、時には脅したりして自分の手駒として扱い、最後には魔王を討伐した事さえ彼一人の手柄になっていました」

「うちらもアイツに言われるがまま散々こき使われて最後には手酷く裏切られた」


そう語るグレッグさん達の表情は皆一様に苦々しいものだった。


「まぁ歴史上最低最悪の詐欺師の手口を間近で見てたおかげで偽るってのがどれだけえげつなく、そしてどれだけ効果的なのかを身に染みて理解出来たって訳なんだがな」

「姿を偽り、職業を偽装する事で相手に偽りの情報を与え真実を隠しつつ、実際に戦闘に入った時に相手に混乱を与える事が出来る…彼が考えた作戦でしたからね」

「口先だけで何も出来ない男だったけど、人を騙す事に関してだけは素直にアイツの右に出る物はいないって思えるわ」


苦虫を噛み潰したような顔でジュリアさんが言う。


「勇者としては兎も角、詐欺師としては一流だったんでしょうね」

「口先だけで魔王を討伐した勇者と称えられたのは彼が最初で最後でしょうしねー。一流の詐欺師だったのは確かです」

「でも口というなら毒舌の勇者もそう、あの子も口だけで魔王を倒してた」

「いやアレは別だろ。アイツは行く先々で息を吐くように毒を吐きまくるせいで仲間も出来ず、そのまま単身魔王の元へ乗り込んでその毒舌で魔王を自殺に追い込んだだけだし」

「魔王が自殺!?」


何その状況、どんな悪口言われたら魔王と呼ばれる存在が自殺まで追い込まれるんだ。


「あの子のスキルには悪口を言われた対象に精神異常のバッドステータスを与える効果が付いてたのよ」

「彼女と一週間この沼地で過ごした時は皆三日目くらいには心神喪失一歩手前まで行ってましたねー…」

「しかも悪口を言われた事に気付けないから、何故そんな事になっているのかも分からなくて対処も出来なかった」


廃課金に通販タレント、ヌーディストに魔法使い、そして詐欺師と毒舌、一人としてまともな勇者が居ない。


(この世界に召喚される勇者にロクな奴は居ないのかよ。勇者を仲間にするのも考え物だなぁ)


俺は自分以外に召喚された11人の勇者達の事を考えながら、グレッグさん達と共に沼地の奥へと進んで行くのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ