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ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
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名前を付けた時のお話 part2

俺と椿がこの世界に召喚されて早数日、服も新調しここの世界での生活に馴染み始めた俺達はすっかりこの世界の住人の中に溶け込んでいた。


椿のレベルも順当に上がり、今では23レベルになっていた。

レベルアップによるステータスは全てに俺に吸い取られてしまうせいで椿のステータスはかなり低く、そのおかげでレベルアップしても魔物から取得できる経験値量が減少する事も無くスキルポイントを順調に稼ぐ事が出来た。


ただそれとは逆に順調ではない物もあった。

それは俺自身のレベルとメイン職である勇者のレベル、そして椿のメイン職である村人のレベルだ。

俺自身のレベルは要求経験値と同じ数だけの魔物を倒さなければならないというのがあるのだがこれはまだ良い方であり、問題なのは俺と椿の職業レベルの方でこれらの経験値獲得条件が未だに判然としていなかった。


ただ単純に魔物を倒すだけでは上がらないらしく、勇者と村人、それぞれの職業らしい行動を取らなければ経験値は得られないようだ。

しかし勇者らしいとか村人らしい行動と言われても漠然とし過ぎてて何をどうすれば良いのかイマイチ分からない。

特に勇者らしいとは一体どんな行動を指すのか皆目見当もつかない為、とりあえず俺の職業レベルの事は後回しにし今は椿の職業レベルを上げる事に専念していた。


その一歩としてまず椿の武器をメイスから鍬や鎌に変えて見たりしたのだが経験値は得られなかった。

ならばとそれを魔物に振るうのではなく本来の目的で使うのはどうだろう。

そう考えて平原の地面を耕したり草を刈ったりしたのだが、どうやら意味も無くそういう行為をしても駄目らしい。


試行錯誤している内に数日が経ち、俺達は大した成果を得られずにいた。

一人を、いや一匹を除いて。


「クゥゥン!」


遭遇したゴブリン三匹を瞬殺し勝鬨を上げるアルミラージを見つめながら俺はため息を吐く。

隙を見て逃げて行くだろうと思っていたアルミラージはあれ以来何故か俺達の側を離れず、一緒に狩りをするようになっていた。

経験値の関係で戦闘にロクに参加できない俺やレベルが上がっても一向に強くならない椿を差し置いて今ではこのアルミラージが我がパーティのエースになっていた。


「凄いです!ゴブリン三匹をあっと言う間に、あの子も随分と強くなりましたね。ね!明継さん!」

「そーだな、もうここら辺の魔物じゃ相手にならないんじゃないか?」


順調に強くなっていくアルミラージとは反対に何の成果も得られていない俺は頬杖をつきながらぶっきらぼうにそう返した。


「もうそんな不機嫌そうな顔して、明継さんは私の力のおかげでこれ以上強くなる必要なんて無いんですから成果が得られなくたって良いじゃないですか」

「逆だ逆、強すぎるからその力に左右されない力を身に付けようと躍起になってるんだよ。今のままだと剣を振る以外何も出来ないからな。ステータスに影響されないスキルとかそういうのが欲しいんだ」


それは具体的に言えばどんな物かと言うと、剣士という職業の中にライフセーブというスキルが有る。

これはどんな攻撃でも必ず対象のHPを1は残すというスキルだ。

今の所対象を殺したら駄目という状況に遭遇した事は無いが、こういうスキルは持っておいて損はない。

幸い剣士のレベルが5に到達すれば覚えられるそうなので現在はサブ職業を剣士に変更しレベル上げに勤しんでいる。


「まぁ確かに、今のままだと明継さん私達が倒せない魔物が出てきた時だけ戦うお助け役みたいな状態ですもんね」

「それもこの平原じゃそんな心配も無いし、今はただのお荷物状態だ」

「そんな事無いですよ!明継さんが居てくれるから私もあの子も安心して――」


突然言葉を切った椿に俺は首を傾げながら尋ねる。


「どうした?」

「いえ、そういえばまだあの子に名前を付けていなかったなって思いまして」

「あーそういや付けてなかったな」


俺と椿がそんな事を話しているとゴブリンを始末したアルミラージがピョンピョン飛び跳ねながらこちらに近づいて来る。

そんなアルミラージを俺と椿がじっと見つめていると、俺達の様子が可笑しい事に気が付いたのかアルミラージが首を傾げる。


「クゥ?」

「今貴女に名前を付けてあげようって明継さんと話してたんですよ」

「クゥン!?クゥゥン!」

「『本当!?嬉しー!』ですって」


気持ちを身体全体で表すように先程よりも大きく飛び跳ねるアルミラージを椿は微笑ましそうに見つめていた。


「それじゃあ早速考えて行くか。アルミラージだし『一角』とかどうだ?」

「クゥン!」

「…椿、これはどっちだ?」

「嫌だそうです。『レディにその名前はありえない!』と」

「お前メスだったのか」

「クゥン!クゥクゥン!」

「『メスじゃない!レディと言って!』」

「どうでも良いだろそんなん」


しかし女だと言うのならそれらしい名前を付けないと納得はしないだろう。


「じゃあ『マチ子』で」

「それ私じゃないですか!?いや違いますけど!!」

「何一人でツッコミ入れてるんだお前」

「クゥゥ」

「ほら、ツッコミ入れてないで早く訳せマチ子」

「だからマチ子じゃないと…えーと『さっきよりはマシだけど野暮ったいから嫌』だそうです」

「アルミラージの癖に随分と我が儘だな。じゃあアルミラージの『アル美』で」

「クゥゥゥン!クゥクゥ!!」

「『センスが無さ過ぎ!ちょっとコイツにばかり任せてないで貴女も考えてよマチ子!!』ってだから私はマチ子じゃ――」

「んだとぉ!誰のセンスが無いって!?上等だ、俺とマチ子どっちがセンスのある名前を付けるか勝負だ!!」

「クゥ!!(格の違いを見せつけてやりなさいマチ子!!)」

「だーかーらー!私は!マチ子じゃ無いですってばぁぁぁぁぁぁあ!!」







熾烈を極めた命名合戦の末、以前に俺がネットの何処かで見た王妃から名前を取り『シャーロット』と命名した事でこの醜い争いに終止符が打たれた。

シャーロットの名前の元ネタは『ソフィア・シャーロット・オブ・メクレンバーグ=ストレリッツ』イギリス国王ジョージ3世の王妃です。


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