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ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
14/27

仲間が一匹増えた時のお話

時刻は夕暮れ前、微かに空が赤みを帯びてきたかというくらいの頃、俺達は街への帰途についていた。


「一日中歩き回った成果がこれか」


俺は自分のステータスを眺めながら、今日一日払った労力とその成果を天秤にかけ頭を捻る。


――――――――――――――――――――

名前:神多明継 Lv2

メイン職:勇者  Lv1

 サブ職:魔術師 Lv1

HP :708136142822566345079094785139…

MP :131945816607722840935750132684…

攻撃:247869953129872580531037646041…

防御:347282601612830994493075618557…

魔力:123197834562932175102318730017…

精神:513307615840491729680532296478…

敏捷:437225302576878939004669115814…

・スキル

勇猛:Lv146529

ファイアボール:Lv1

――――――――――――――――――――


勇猛の事を除けば今日の成果といえば俺自身のレベルが1レベル上昇したくらいだ。

メイン職の方は経験値が入る条件が分からない為現在は調査中、俺自身のレベルは魔物を倒した時に入る事は確認済みだ。

しかし1レベルから2レベルに上がる為の条件が経験値を20稼ぐ事だったからこそ、1レベルとはいえレベルアップする事が出来たが、3レベルに上がるには今度は50稼がねばならない。

つまりどんな魔物を倒しても1しか経験値が貰えない俺は要求経験値と同じ数だけの魔物を倒さなければならないのだ。


「割に合わないよなぁ」

「明継さん、歩きウィンドウは危険ですよ?」

「何だよ歩きウィンドウって、歩きスマホのファンタジー版か?。良いだろこれくらい、こんな平原じゃ何かにぶつかる事なんて稀なんだし」

「もう、転んだって知りませんからね?」

「大丈夫大丈夫」


椿の言葉を聞き流し、ステータスウィンドウと睨めっこしていると、ふいに椿が声を掛けてきた。


「あの…明継さん、一つ良いですか?」

「なんだ?」


俺はウィンドウから目を逸らす事なくそう返す。


「明継さんは生き物を殺したのは今日が初めてですか?」

「は?なんだそれ、そんな事聞いてどうするんだ?」

「いえ、ただ気になったもので」

「初めてだよ。意味も無く生き物を殺した事なんて無いし、学校の先生や両親からもそういうのは悪いことだって散々言われてきたしな。まぁ虫とか手で払ったり気付かず踏みつぶしたくらいはあるけどさ。普通そんなもんじゃないか?」

「そうですか…そうですよね。すみません、変な事聞いて」


暗い顔をする椿を見て、少し気になった俺は椿に質問された内容をそのまま椿に質問してみた。


「そういう椿はどうなんだ?今日以外で生き物を殺した事はあるのか?」

「ありますよ、沢山」


迷うことなく即答した椿に俺は面喰らってしまった。


「何驚いてるんです?私はこれでも神様ですからね。長い事生きてますし、剣を手に取り誰かと戦った事だって一度や二度じゃありません。じゃなきゃあんな風に戦えませんよ」

「そうなのか…」


まぁあれで今まで戦った事なんてありませんとか言っても誰も信用しないだろう。

しかし一見平和に思える元の世界も椿が戦わなければいけないような相手が存在したりするのか。


何だか気まずい雰囲気が俺達の間に流れる中、前方から何やら動物の鳴き声のような物が聞こえてくる。


「キュー!」

「キュキュッ!」


そんな鳴き声が聞こえ、俺は視線を前へと向ける。

そこには毛玉のような物が複数こちらに飛び跳ねながら向かってくる姿があった。


「あれは…アルミラージか」


アルミラージとは角の生えた兎のような姿をした魔物だ。

攻撃力もそこそこ高くすばしっこいが防御力は極端に低く椿の攻撃一発で倒せるくらいである。


白に灰に茶、様々な色の五つの毛玉がピョンピョンと飛び跳ねながら俺達の目の前までやってくると、俺と椿の顔をじっと見るようにこちらを見つめてくる。


「わぁぁ、明継さん見てください!兎ですよ兎!」

「兎じゃなくてアルミラージな、そんな成りでもれっきとした魔物だぞって聞いてるのか?」


魔物だと言う俺の言葉が聞こえていたのかいないのか、椿はアルミラージ達の前でしゃがみ込むと両手をワキワキと動かしながらアルミラージに手を伸ばそうとする。


「キュッ!!」


アルミラージの柔らかな体毛に手が触れようとしたその時、椿の手の平にアルミラージの角が突き刺さる。


「いったー!?って、うわわわ急に何ですか!?ちょ、突かないでくださいー!!!」

「キューン!!」

「キュキュッキュ!!」

「クゥーン、クゥーン!」


椿が痛みで声を上げると同時に無言で見上げていたアルミラージ達が一斉に椿を取り囲みその角で椿の身体を突き出す。


「ほぉら、だから言っただろ。いくら可愛くてもアルミラージはれっきとした魔物、野生の生き物なんだ。ペットショップの動物とは訳が違うんだぞ?」

「わ、分かりましたから助けてくださいー!!」

「キッキキュ!」

「キキッ!!」

「クゥン」


はて、なんかさっきから一匹だけ違う鳴き声の奴が居たような。


「なぁ、なんかさっきから子犬みたいな鳴き声混じってねぇか?」

「そんなのどうでも良いですから早く助けてください!!」



両手で頭を覆い身体を丸くし、涙目で助けを呼ぶ椿の姿にため息を吐きつつも俺は椿を助けるために椿の横にしゃがみ込む。


(そういやアルミラージの角は売却アイテムだったよな)


そんな事をふと思い出した俺は椿を突いている一匹のアルミラージの角めがけて手を伸ばす。

まるで綿あめのようなふわふわとした胴体と反比例しているかのようにその角は手で触っただけでもかなり硬い事が分かった。


(ちょっと力入れないと折れそうに無いな。こんなもんか?)


「ふんっ!」


バシャ――!!


アルミラージの角を折るために指先に力を込めた次の瞬間、アルミラージの身体が爆発しまるで水風船が割れたかのように真っ赤な血を周囲へと飛び散らせる。


「「ぎゃぁぁぁぁぁあああああ!?」」

「「「キュィィィィィィィィ!?」」」


突然のスプラッタな出来事に俺と椿だけでなく、椿を突いていたアルミラージ達も悲鳴を上げ一目散に逃げて行く。

俺と椿は顔や服が真っ赤になり、椿に関しては驚きの余り腰を抜かしているようだった。


「な、ななな、何やってるんですか!?」

「いや、ちょっと角をへし折ろうとしただけだったんだが」

「それでどうして爆発するんです!?」

「俺が聞きたいわ。それよりもちょっと落ち着け、はい深呼吸」


動転した様子の椿を落ち着かせようと俺はそう声を掛ける。

深呼吸した椿は少し落ち着きを取り持出したようでジト目でこちらを見つめながらボソリと呟く。


「あんな事やらかしておいて明継さんは凄い落ち着いてますね」

「人間自分よりもパニックになってる奴を見ると自然と落ち着くもんさ」

「明継さんの落ち着きっぷりはそれとは何か違う気がするんですが…明継さんって他の人よりも感情の起伏に波があるというか、怒りっぽいかと思ったら凄い平然としてる時もあるし」

「そうか?俺は普通にしてるだけのつもりなんだが」


俺は顔に付着した血を払いながら椿の言葉にそう返す。


「こりゃ服はもう駄目だな。街に帰ったら新しく服を買うしか――ん?」


真っ赤になった衣類に視線を落としていると、視界の端に白い毛玉の存在を見つける。

どうやら先程椿を囲んでいたアルミラージの一体で仲間が破裂した事に衝撃を受け、その場で気絶してしまったようだ。


俺は気絶しているアルミラージの角を掴んで持ち上げる。

気絶しているアルミラージは抵抗を見せず手足はプラプラさせ、白目を剥き、口からは泡を吹いていた。


「明継さん、その子をどうするつもりですか?まさかまた破裂させるつもりじゃ」

「そんな真似はしねーよ。第一あれは力加減を間違えただけでわざとじゃない」


角をへし折られたアルミラージが突然爆散した理由、それは恐らくHP上限を大幅に超えたダメージを与えた事が原因だ。

最初に戦ったノールは首だけになっても死なず襲い掛かってきた。

それはHPが残っていたからであり、この世界の生き物はHPが0にならない限り決して死ぬ事は無い。

逆に言えばHPが0になってしまえばどんな攻撃であれ命を落としてしまう。

例えば足の小指をぶつけただとか、頬を抓まれたなんて物でもそれでHPが0になるならそれだけでこの世界の生き物は死ぬ。


アルミラージの角だって身体の一部だ、そこに攻撃を受ければダメージだって入る。

角に与えられた膨大なダメージが破裂という形で肉体に反映されたのがあの結果なんだろう。

実際、一度かなり力を込めて剣を振ってみたのだが、その一撃を受けた魔物は剣で胴体を斬られただけにも関わらず肉片所か血の一滴に至るまで完全に消滅してしまった。


「クゥゥゥ…?」

「お?気が付いたか」


鳴き声を上げながらもぞもぞと手足を動かすアルミラージに気が付き、俺はアルミラージを自分の顔の前まで持ち上げる。


「クゥン?」


意識を取り戻したアルミラージの丸い瞳が俺の顔を捉える。

可笑しな鳴き声の奴が一匹混じっていると思ったらどうやらコイツだったらしい。

数秒間無言のまま見つめあっていると、突然アルミラージが激しく暴れ出す。


「クゥーン!クゥーン!!」

「うお、なんだ急に」

「明継さん、その子凄い怯えてますよ『やめてー角を潰さないでー!爆発するー!』って叫んでます」

「コイツが何言ってるのか分かるのか?」

「明継さんの心を読むのと同じですよ。鳴き声の意味は分かりませんが、その子が何を考えているのかは分かります」

「へー便利なもんだな。まぁ安心しろ、お前を爆発させるつもりはない」

「『本当?』」


俺の背後で椿がアルミラージの声を代弁する。


「あぁ、さっきは加減を間違えただけだからな。次はちゃんと成功させるさ」


そう言いながら俺は角を握りしめている指先に力を込める。


「『嫌ぁぁぁぁ!?やめてぇぇぇ!!』」

「安心しろ、角を貰ったら解放してやる。加減をミスったら…まぁ運が悪かったという事で」

「『鬼ー!悪魔ー!明継さんの冷血漢!変態すけこましー!!』っあいた!?」

「ここぞとばかりに悪口言ってんじゃねぇ!」


頭に拳骨を喰らった椿が涙目で抗議するように俺を睨みつけてくる。


「うぅぅ、明継さん本当にその子の角折っちゃうんですか?可哀そうですよ」

「角くらい良いだろ。命までは取るつもりは無いし、第一今日魔物を何体も狩った俺達に魔物が可哀そうとか言う資格があるのか?」

「う…確かにそうですけど、何だかこの子の姿を見てたら何だか可哀そうになってきてちゃって…それに他の魔物達は襲ってきたからこそ倒しましたけど、戦う意志のない相手まで手を掛けるのはちょっと」


俺と椿がそんな事を言い合っていると、ピロンという効果音と共に俺の眼前にウィンドウが現れる。


「なんだ、パーティ申請?」


突然現れたウィンドウに俺は目を剥く。

すぐに辺りを見渡すも俺と椿以外の人間の姿は見えないし、椿とは既にパーティを組んでいる。

今この場で俺達にパーティ申請を飛ばせる存在なんて何処にも居ない。


「いや待て、まさかお前か?」

「クゥン!」


椿の通訳が無くともそれが肯定であるのは俺にでも分かった。


「明継さん、どうやらその子仲間になりたいようですよ」

「仲間になりたいっていうかただの命乞いな気もするんだが」


とはいえ椿の通訳のせいなのか、それともこの愛くるしい見た目のせいなのか、角をへし折る気は完全に失せていた。


「はぁ…まぁ今更殺し合いなんて雰囲気にもなれないしな」


そう言いながら俺はパーティ申請を受理し、アルミラージを地面へと降ろしてやる。

地面に足が付いたアルミラージは地面の感触を確かめるようにその場で何度か飛び跳ねた後、椿の胸に向かって飛び込む。


「クゥゥン、クゥゥン」

「よしよしー怖かったねー、もう大丈夫ですよー」

「怖くて悪かったな、俺はこういう人間なんだ。それよりも今のやり取りで大分時間を食っちまった。日が落ちる前に街に戻らないと」

「そうでした!お店が閉じちゃう前に服も買わないとですし、明継さん急ぎましょう!」


そう言って椿が駆け出すも大した速度では無く、日が落ちる前には街に着けても閉店前には間に合いそうもない。


「椿、ソイツをしっかり抱きしめとけよ」

「へ?明継さん一体何を――きゃっ!?」


俺は椿の返事を待たずに椿の腰に手を回すと平原を凄まじい速度で駆け出す。


「ひやぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「クゥゥゥゥゥゥゥン!?」


茜色に染まる平原に椿とアルミラージの悲鳴が響き渡った。


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