エピローグ
大陸歴3589年。その年から大陸は恐怖のどん底に突き落とされた。
何百人という人間を殺したオークキングが率いるオークの群れが、根城にしていた森で突然消息を絶ったのだ。
人類の天敵と称されたあのオークキングの群れを全滅させた恐ろしき魔物がその森にはいるというのか。
決死の調査隊が派遣され、その森には白銀の体毛を持つ美しい魔狼の群れがいることが判明するが、様子がおかしい。
魔狼の率いる群れ程度がオークキングたちを絶滅させるなど、不可能だ。
ではいったい何があの森で起きたのか。人々の間をいくつもの憶測や噂が走り抜け、消えて行った。
人々があらゆる恐怖を言葉にし、恐怖が畏怖に変わった頃、そいつは件の森から飛び出した。
そう――パグである。
奇妙奇天烈なその魔犬に率いられた小さな群れは、あまりに常識はずれな強さと隙のない連携から大陸全土のあらゆる生き物を震え上がらせる。
森を飛び出したパグたちは龍をもたやすく仕留め、谷も山も湖も、人の住む町にさえ平然と現れた。
驚くべきことに、その群れを率いるパグの魅力はマイナスだった。
塗り替えられることはないだろう史上最も魅力のない群れの主パグ。
一目見ただけで悶絶し嘔吐し、精神力の値がない者はショック死する、パグ。
パグの姿は人々が思い思いに膨らませていた恐怖と畏怖を塗り潰す強烈さを以て、大陸中を席巻した。
ステータスにはSAN値ガリガリ君などの意味不明な魅力値マイナス効果の称号がずらりと並び、不気味さに拍車をかける。
しかし、意外なことにこのパグは敵対しない限り決して襲って来ないという。
人々は安堵した。
決して視界に入れたくはない存在であり、少しでも機嫌を損ねれば命はないほどの存在が積極的には襲って来ないのだ。
だが、敵対しないからといってその意思表示をしてはいけない。
少しでも微笑みかけようものなら勘違いして尻尾を振りながら寄ってくるのだ。その溌剌とした明るさを周囲にふりまきながら寄ってくるパグの姿に微笑みかけた者は己が迂闊さを呪い、背筋を震え上がらせる事になる。
パグが通り過ぎた後には、村人全員が仮面をかぶる風習が根付いた地域さえある。
あまりに強烈なその風貌から大陸中から嫌悪と憎悪と害意を浴びながら、しかしたくましく生き抜く様は称賛された。
パグは、確かに愛玩動物であったのだ。
ワイルドな生き様、渋カッコいい生き様、それは確かに、人々の間にある種の崇敬の念を抱かせた。
ステータスにおける魅力は、初見の印象を決定する重要な項目である。あらゆる関係において、初見の印象は長く付きまとう。
だが、パグはその生き様で人々の意識を変えて見せたのだ。
一部地域では容姿に自信がない者に神として祭られるまでになり、晩年においては群れと共に王都でさえ闊歩する事を許されるまでになる。
いつの間にか姿が見えなくなってしまったパグは、一年が過ぎる頃に人々がその死を認識し、存在の大きさを痛感した。
いまでは王都の銅像にてその強烈な姿を見ることができる。三体の仲間についても同様だ。
そんな魔犬の最終的な魅力値は-9996、この数値が何故カンスト目前で止まってしまったのかについては諸説あるが、群れのメンバーである三名の影響が大きいとされている。
また、魔犬自身が自らの容姿をどう思っていたのかは謎である。
完
以上でこの物語は完結となります。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
皆さん、パグを好きになりましょう。
パグを好きになりましょう。
パグを好きに――