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第三話  襲撃者

 渋カッコいいワイルド系パグ道を歩み始めて早一年。

 レベルは上がりに上がりまくっていた。

 俺だけではなく、旅の道連れゴブリンとスライムもだ。


種族:キラーゴブリン

LV:75

筋力:450+150

精神:480

魅力:85

技能:噛み付く 短剣遊び 薬草採取 落石 擬態看破 短剣投擲 短剣術(中) 投げ飛ばし 致命の一撃

称号:姫騎士 ブス専(中) 岩石ラット殺し 魔蜘蛛殺し 短剣の使い手 殺し屋


種族:ブラッディスライム

LV:70

筋力:79

精神:375

魅力:175

技能:美醜反転 乾燥劇弱 草花運搬 草運搬 貫通攻撃無効 形状変化 包み込む 吸血 輸血 異型輸血 抗体精製 アレルギー誘発 アナフィラキシーショック

称号:歪な石コレクター 醜い草花コレクター 吸血鬼 輸血の心得 アレルゲン


 姫騎士なキラーゴブリンというカオス存在は基本的に前衛型。

 最近は称号:短剣の使い手や殺し屋の効果で上昇した筋力に物を言わせて不意打ち気味に短剣を深く突き刺す戦闘方法で、正面での戦いでは無類の強さを誇っている。特に技能:致命の一撃の効果が凄まじく、相手の内臓にナイフの刃先が三ミリメートル入ると問答無用で死に至らしめる。

 精神もそこそこの高さで、LV10程度の魔物がごくまれに放つ魔法を完全に無効化している。

 ブラッディスライムはどす黒い赤色をしたスライムだ。静脈血の色と言えば分り易いと思うのは俺が狩りに慣れているからですね、そうですね。

 ステータスの数値こそキラーゴブリンに劣っているが、技能:包み込むからの輸血コンボで外傷による継続ダメージを回復し、さらに毒物に対しても抗体精製ですぐさま対応、仲間に抗体を付与して毒に対する強力な防御手段となっている。

 さらに、敵を包み込んでの吸血による自己回復や技能:異型輸血で度々発生するアレルギー誘発、アナフィラキシーショックのコンボで即死させるという凶悪さ。

 筋力とか精神とか技能とか称号とか、全部無視した即死ダメージって凶悪すぎるわ。

 さて、そんな濃いメンツに囲まれた俺だが、


種族:魔犬(パグ)

LV:90

筋力:520

精神:985

魅力:-2525-100

技能:噛み付く 爪撃 遠吠え 閲覧 噛み千切る 落石 擬態看破

称号:魔蜘蛛殺し 岩石ラット殺し 敵だらけ 四面楚歌 憎悪されし者 キング・オブ・パグ


 うん、もうね。

 パグはどこまで行ってもパグだったね。ゴブリンとかスライムみたいなファンタジー生物とはもう根本的に別だわ。

 進化しねぇ。

 おじさん悲しくなるよ。どれほど努力しても魅力は下がる。

 挙句の果てに憎悪されし者っていう固定で魅力値-100の称号を貰っちゃう始末だ。魅力-1000の数値で得られる称号である。

 魅力-2525とは、千人中千人が初見で憎悪を抱き、一万人中二千五百二十五人が初見で害意を抱く容姿である。ステータス詳細より抜粋。

 もう、凄いぜ?

 草食動物ですら果敢に挑んでくる始末だ。不倶戴天とか親の仇とか、全生物の敵とか、そんな強烈な悪を見る眼で俺に襲い掛かってくる。

 それをキラーゴブリンやブラッディスライムが瞬殺する。

 俺は客、いや獲物寄せパンダかと。パグだけど。パしかあってねぇ。

 森を少し歩くだけで敵がわらわら寄ってくる。自然とレベルも上がって行く。

 むしろ、歩く必要もなくなってきた。

 ぐっすり寝て、自分のいびきで目が覚めたら周りに魔物の死骸が無数に転がるスプラッタ起床である。

 夢現の長い微睡を抜けるとそこは血の海であった、みたいな起床だ。清々しさなんて欠片もない。

 朝食には困らないけど。

 ついでに、称号:キング・オブ・パグは史上初めてLV50を超えたパグに送られる称号だ。意味がわからない。

 さて、パグの身でありながら筋力520に到達した今の俺は、520キログラムまでなら持ち運ぶことが可能というなかなかのマッチョ犬に成長している。

 見た目はさほど変わらない。見た目は愛らしいずんぐりむっくりパグであり、くるりと巻いた尻尾をたまに左右に振るだけでキラーゴブリンとブラッディスライムが悶絶する愛くるしさだ。愛苦しさだ。


「ワン」


 狩りに行こうぜ、と声をかけて立ち上がる。

 LV90の俺だが、まだこの森で無敵とはなっていない。

 魔蜘蛛や岩石ラットはもう敵ではないが、この森には俺の生みの親である白銀の狼犬を始めとする高LVの魔物も多い。

 一番やばいのはオークの群れだ。魔法まで使用してくるオークたちはこの森における最大勢力である。


「ぎう」


 キラーゴブリンが立ち上がり、ブラッディスライムが這い寄ってくる。

 キラーゴブリンが持っているのは森の中で魔犬の群れに食い殺された人間が持っていた銀色の短剣だ。ピカピカと光を反射するその短剣は折れず曲がらず良く斬れる業物である。

 パグには手がないから俺には使用不可だ。

 ブラッディスライムは俺が寝ている間に狩った魔物からお気に入りを一体選んで血を吸いながらの移動である。水筒みたいだ。

 森を歩いていると、近付いてくる熊の気配。


「ワウ」


 俺が注意を促すと、キラーゴブリンが短剣を構えた。

 風上からやってきたのは二メートル近くある熊。後ろ脚で立てば高さ四メートルから五メートルはあるだろう。


種族:オールドベア

LV:75

筋力:1254+150

精神:549

魅力:682

技能:爪撃 噛み付く アースクロー 威嚇の吼え声

称号:古き熊 森の暴れん坊


 称号:森の暴れん坊で筋力が増えている。アースクローは確か、地面を尖った爪のように隆起させる魔法だ。

 オールドベアが俺を見るなり眼を血走らせ、技能:威嚇の吼え声を発動する。

 大きく開いたオールドベアの口から木々の枝を揺らすほどの大音声が響き渡る。

 しかし、開き切ったその口にブラッディスライムが体の一部を撃ち出し、強制的に呑み込ませた。

 技能:異型輸血である。

 口に飛び込んできた異物に驚いて口を閉じたオールドベアは警戒するようにブラッディスライムを見た。

 だが、その時にはすでにキラーゴブリンが樹上からオールドベアに襲い掛かっていた。

 オールドベアの背中、腎臓の辺りへ正確に短剣を突き刺す。

 技能:致命の一撃が発動し、オールドベアの身体が大地へ倒れ込んだ。


「ぎう」


 キラーゴブリンとブラッディスライムがハイタッチを交わす。仲良きことは美しきかな。おじさんは仲の良い女の子たちを見ることができてとても嬉しいよ。

 脳内でこいつらを美女に変換するのももはやお手の物だ。片方なんて姫騎士だしな。

 オールドベアの肉を食べていると、血の匂いに引き寄せられた魔物の匂いがした。

 顔を向けてみると、俺の親である白銀の狼犬がこちらをじっと見つめている。


種族:魔狼

LV:113

筋力:656

精神:1392

魅力:3694+400

技能:噛みつく 噛み砕く 噛み千切る 爪撃 遠吠え 吠撃 縮地 魅了 幻影

称号:美しき獣 好かれし者 群れ喰い 魅了する獣


 魔犬から魔狼に進化している。もしかして、LV100が条件か?

 だとしたら、俺にもワンチャンあるんじゃね。わんちゃんことパグから進化して魔狼になれば容姿が変わるかもしれない。

 ブラッディスライムなんかいまはドス黒い赤だけど、元はもっと清潔感溢れる青だった。

 俄然テンションあがってきた。


「グルル」


 白銀の狼犬が威嚇してくる。


「ぎうう?」


 キラーゴブリンが短剣の峰で自らの肩をポンポンと叩きながら白銀の狼犬にガン付けた。

 うちのボスに何かようでもあんのか、こら、みたいなノリだ。姫騎士の態度じゃねぇ。しかも、ボスがパグっていうね。

 ブラッディスライムも技能:形状変化で体中をトゲトゲしくしている、威嚇のつもりらしい。

 彼女らの事は放置して、俺はオールドベアの前足の付け根、人で言えば脇に当たる部分を食べる。この辺りがうめぇんだ。脂が乗っていて舌に触れた瞬間に溶け出すこの旨味。一人さびしく霜降り牛肉でしゃぶしゃぶしていたあの頃にこのオールドベアの肉があったら、独り占めできたと前向きになれていただろう。

 下手な小細工は必要ない。味わえ。そう肉が語りかけてくる。うめぇ。


「ガァアアッ」


 白銀の狼犬が吠えている。知った事か。俺はお前に捨てられた身だ。この肉は俺たちの物だ。

 オールドベアの両脇を食べ終えた俺は短い鼻に付いた脂をぺろりと舐めとり、キラーゴブリンとブラッディスライムの前に出る。


「ワン」


 お前たちも食事にしておけ。

 キラーゴブリンはオールドベアの背筋が好物だ。ブラッディスライムは骨髄をちゅるちゅる啜るのが好きらしい。

 食事に移ったキラーゴブリンたちを背に、俺は白銀の狼犬と向かい合う。


「ハッハッハッハ」


 口を半開きにして舌を出し、熊肉の香りを口からお届けしてやる。顔を顰めた白銀の狼犬は身を翻し、縮地でどこかに去って行った。

 いい仕事したな、俺。

 後はキラーゴブリンたちが食事を終えるまで待つだけ――


「ワウ?」


 なんか聞こえた。

 黒いたれ耳を動かして音を探る。風下から俺たちの様子を窺っているらしい何かがいる。

 俺が警戒したのを悟ったのか、そいつは一気に俺への距離を詰めてきた。

 素早く視線を向けて技能:閲覧を使用する。


種族:ベアイーター

LV:125

筋力:1522

精神:1455

魅力:98

技能:だまし討ち 不意打ち 縮地 アースクロー(中) 咆哮 致命の一撃

称号:共食い王 熊の天敵 偏食家


 見た目はまんまオールドベアだが、種族がベアイーターになっている。共食いを繰り返して進化したのだろう。

 技能構成も明らかに仲間の振りをして近づいて致命の一撃をぶち込むスタイルだ。

 それでもステータスの値は高い。筋力から見るに、1.5トンまでは持ち運び可能。魔法のアースクローも精神値と合わせてこの森ではオークにも対抗できる実用的な威力になる。

 キラーゴブリンとブラッディスライムが反応した時には、技能:縮地で俺の目の前に到達したベアイーターが右前脚を振り上げていた。

 1.5トンもの重量を持ち運べるベアイーターの一撃を俺は後ろに跳んで避ける。空振りした一撃が地面を揺らした。

 俺は筋力:520の力をフルに使い、小型犬相応の軽い体でベアイーターの周りを疾駆する。

 十分に加速をつけ、ベアイーターを翻弄したところで技能:爪撃を使用、ベアイーターの左後ろ脚を爪で切り裂く。

 ベアイーターの筋肉が分厚く、俺の爪撃によるダメージはかなり低い。

 だが、ベアイーターは俺の動きにまるでついて来れていなかった。

 ベアイーターが鬱陶しそうに前足で宙を裂く。すべて俺を狙っての一撃だろうが、完全に俺の動きを捉えきれてない。

 爪撃でちまちまと傷をつけていき、分厚い足の皮をはぎ取った後、俺は口を思い切り開く。

 技能:噛み千切る!


「ガアアアァアアッ」


 ブチブチと肉が裂ける音がしてベアイーターの右後ろ脚から肉がごっそりと落ち、骨が露出する。

 叫ぶベアイーターを無視して、俺は噛み千切った肉をブラッディスライムに放り投げた。

 ブラッディスライムが全身を泡立たせ、肉が地面に落ちる前にキャッチする。

 俺が口に含んだ歪な形状の肉はブラッディスライムのごちそうになるらしい。本当に、アイツの技能:美醜反転は哀れを催す効果だ。

 さて、続きだ。

 ベアイーターは俺を驚愕のまなざしで見ている。

 このチンチクリンの不細工犬が我を圧倒するだと、みたいな表情だ。

 これでも、俺はキラーゴブリンたちと同等には強いんだぜ。

 次はどこを齧り取ってやろうかな、と舌なめずりしつつ俺は地面を蹴った。

 ベアイーターが迎え撃とうと振り降ろした右前脚を横っ飛びに回避して、左前脚を噛み千切る。

 噛み千切ったお肉を今度はキラーゴブリンに投げる。


「ぎっぎうっぎう」


 キラーゴブリンはゴールに蹴り込まれたサッカーボールを受け止めるようにがっしりと肉をキャッチし、恍惚とした表情で俺の噛み跡を指先でなぞり、ぺろぺろと舐めだした。間接キスの発展形である。

 噛み千切られた二つの肉の末路を見て、元の所持者だったはずのベアイーターがドン引きしている。

 肉に気を取られているベアイーターにとびかかった俺はその首筋を噛み千切り、気道を破壊する。

 後は窒息するまで暴れるだろうが、距離を取っておけばいい。

 十数分ほど息があったベアイーターが絶命し、その肉を食らう。

 LV100超えの敵でも倒せるようになってきた。

 そろそろ縄張りを広げてみようか。しかし、これ以上広げるとオークの縄張りにまで入っちゃいそうなんだよな。

 この森の中ではオークに次ぐ広さの縄張りを持っている自負があるが、こちらは俺を含めて三匹、オーク側は実数不明だがおそらく百体はくだらないだろう。

 でも、オークの肉にも興味あるんだよな。イノシシに似た魔物はこの森でも食べたことがあるけど、豚っぽいのはオークしかいない。

 LV100になったら考えてみるか。

 ベアイーターを味わい尽くした後、俺たちはその場を後にした。食べ残しが大量にあるが、そのうちどっかの魔物が片付けてくれるだろう。

 こうして森は巡っていくんだ。四十歳、異世界にて自然の美しさを知るってなもんである。

 次の獲物を探そうと地面に鼻を付けて臭いを探る。


「……オン?」


 この臭い、オークじゃないか。しかも、この個体の臭いを嗅いだ覚えがある。

 どこだっけ、この少し焦げ臭い感じは――

 俺はキラーゴブリンを見て、思い出す。


「ワン!」


 散開せよ!

 俺が率先して走り出すと、キラーゴブリンとブラッディスライムが後を追ってくる。散開せよって言ったけど伝わらなかったらしい。

 まぁ、とにかくここから離脱すればそれでいい。

 そう思った時、横合いから炎を纏った木の枝が飛んできた。

 とっさに身を屈めて避けると、その枝は木の幹に突き立ち燃え上がる。

 森の中で火事必至のこんな魔法を使ってくるのは奴しかいない。

 俺は木の枝が飛んできた方向を見る。


種族:オーク

LV:129

筋力:756+200

精神:1522

魅力:50

技能:叩き潰す 大振りの一撃 棍棒撃 連携(中) 粉砕 炎棍 爆砕の一撃 仲間を呼ぶ

称号:オーク小隊長 爆炎の魔術師 砕きし者 人類の敵 姫騎士鳴かせ


 称号:姫騎士鳴かせを持っている。間違いなくゴブリンの集落を襲ったオークだ。

 部隊長から小隊長に格上げされている。仲間を呼ぶの技能も付いていた。


「ブモオオオッ」


 オークが森中に木霊する鳴き声を響かせる。

 途端に森が騒がしくなり、俺達を囲む様にオークが走り込んできた。

 なんでこいつらがここにいる。俺の縄張りだぞ。


種族:オーク

LV:87

筋力:496+200

精神:856

魅力:-60

技能:叩き潰す 大振りの一撃 棍棒撃 連携(中) 粉砕

称号:オーク部隊長 砕きし者 人類の敵


種族:オーク

LV:57

筋力:245+200

精神:777

魅力:-60

技能:叩き潰す 大振りの一撃 棍棒撃 連携(小) 粉砕

称号:オーク部隊員 砕きし者 人類の敵


 小隊長オーク以外のオークもかなり強い。

 ぐるりと見回す限り、小隊長が一体、部隊長が三体、部隊員が十五体だが、まだここを目指しているらしいオークの臭いも感じ取れる。

 こいつら、明らかに俺たちを狙ってないか。

 キラーゴブリンとブラッディスライムが臨戦態勢を取りながらも、不用意に動けずにいる。

 この数の高LV魔物に囲まれた事などない。俺たちには連携の技能もなく、集団戦は避けてきたのが仇になったか。


「グルル」


 こんな時、物語のヒーローなら隠された力が目覚めたりするのだが、いかんせん俺はパグだ。パグに秘められた力なんてないだろう。

 だが、ただでやられてやるつもりはない。パグの意地と根性を見せる時だ。

 俺はLVが低いオーク部隊員に狙いを定め、一気に飛び込む。

 技能:連携(中)の効果か、近くにいたオーク部隊長がフォローに回る。

 強く地面を蹴った俺は、オーク部隊長の横を一気に走り抜け、後方のオーク部隊員の喉を目がけて飛び込んだ。


「ブモッ?」


 オーク部隊員が喉を庇うべく突き出した右腕を技能:噛み千切るでごっそりいただく。

 悲鳴を上げるオーク部隊員が左腕の棍棒をがむしゃらに振り回す。

 それでいい。お前ががむしゃらに暴れれば暴れるほど、オーク部隊長に死角ができる。

 仲間を落ち着かせようとするオーク部隊長の死角を縫って、右足太ももを噛み千切る。

 右足に力を入れる事が出来なくなって倒れ込むオーク部隊長の股下を潜り抜け、慌てている別のオーク部隊員を襲撃。完全に不意を打った形となり、オーク部隊員の首を噛み千切ることに成功した。

 瞬く間に三体もの味方に手傷を負わせた俺を見て、にわかにオークたちが慌て始める。

 だが、俺たちが群れとして機能するのはここからだ。

 俺のかく乱が功を奏し、視線が自分から外れたことを感じ取ったキラーゴブリンがオークの死角を縫って背後から短剣を深々と突き刺す。

 技能:致命の一撃により、何が起きたかもわからずに絶命していくオーク部隊員たち。

 悲鳴さえも上げずに倒れ伏す仲間に気付いたオークが犯人を捜し始める。

 その間、俺はオークどもに噛み千切るを発動させまくっていた。殺し切る必要などどこにもない。ただ、手傷を負わせればいい。

 そうすれば、アイツの技能が活きるのだから。

 足を噛まれたオークが俺に逆襲せんと棍棒を振り上げる。そこに、ブラッディスライムが血の塊をぶつけた。

 称号:輸血の心得により傷口へ浸透したブラッディスライムの血が技能:異型輸血、アレルギー誘発、アナフィラキシーショックのコンボをさく裂させる。


「ブッフオオオオ!」


 オークの肌にジンマシンが浮かび上がり、胸を押さえて呼吸を荒くしたかと思うと、その場で嘔吐を繰り返した。

 そして、その場にうずくまったかと思うと、荒い呼吸が静まり、絶命する。

 一瞬にして壮絶な死にざまを見せつけられたオークたちに動揺が走った。

 ブラッディスライムのエグイ攻撃はとどまることなく、俺が傷をつけたオークたちに輸血攻撃を仕掛けまくる。

 即死級のアナフィラキシーショックまで至る個体は稀ながら、軽度の症状で動きが鈍くなるオークが大量発生する。


「ブッフォブフッフォー」


 オーク小隊長が何やら指示を飛ばすと、オークたちが包囲を狭めてきた。狙いは移動の遅いブラッディスライムのようだ。

 さすがは小隊長だけあってよく見ている、と思っていたら、軽度のアレルギー反応で苦しむオークに向かって小隊長が木の枝を投げつけた。

 魔法で燃え上がった木の枝はアレルギー反応で苦しむオークの腹に突き刺さると爆発する。

 無論、腹を爆破されたオークが無事なはずもなく、そのまま爆炎に命を散らした。

 ……アレルギーは感染しませんので、仲間を殺す必要はありませんことよ?

 俺の思いは通じず、オーク小隊長はアレルギーに苦しむ仲間たちをどんどん殺していった。

 そうこうしている内に新手のオークが十体、二十体とやって来る。その中には別のオーク小隊長の称号持ちまでいた。

 これはいよいよ、窮地だ。

 ブラッディスライムも完全に周りを囲まれて棍棒を叩きつけられている。どす黒い赤の液体が飛び散り、ブラッディスライムの体が小さくなっていく。

 ここまでか。

 そう思った時、オークの群れを北側から斬り裂いて新手が飛び込んできた。

 龍の模様が刻まれた幅広の刀身を持つ両刃の大剣を担いで飛び込んできたそいつは、一目見た感じでは人だった。


種族:リビングデッド

LV:66

筋力:556+200

精神:487+300

魅力:160

技能:大剣術(中)

称号:腐りかけの矜持 誇り高くも腐った者 判官贔屓


 リビングデッドか。アンデッド系の魔物は初めて見る。

 リビングデッドは俺を見るなり何かを確信したようにオークの群れに大剣をかざした。

 いや、まぁ、俺の魅力値-2525だからな。

 オークを倒してるからLVが上昇した分魅力はまた下がってるだろうし、称号には敵だらけ、四面楚歌、憎悪されし者と三つも取り揃えている。

 判官贔屓なら俺を見捨てる選択肢はないって事なんだろう。

 凄く複雑だが……。

 判官贔屓のリビングデッドは俺たちに加勢することにしたらしく、ブラッディスライムの周りのオークを斬り伏せた。

 リビングデッドの登場でブラッディスライムの護衛が必要なくなり、俺はオークの群れを駆け回って手傷を負わせに負わせまくるのだった。


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