第一話 醜い魔犬の子
隣を見ると、鼻がすらりと長い、耳のピンと凛々しく立った美しい白銀の狼犬がいた。
ボルゾイというよりシェパードに見えるけど全体的に細くて神々しさすら感じる。
俺の周囲にはそんなシェパードに似ているものの、もっと小さくて丸っこい子犬たち。なにこれかわいい。
自分の手を持ち上げてみると、犬らしい前足が目の前に持ち上がった。
犬に転生ですか。前世の最期の記憶は雷雨の中で突然目の前が光ったところで途切れてるから、雷に打たれて感電死したかな。
でもまぁ、大した人生でもなかったよ。四十歳になって両親はすでに他界し、結婚もしていない。
仕事仲間はいたけど、みんな家族サービスに比重が偏っていて仕事帰りの俺はいつだって一人だった。
思い残す事が無いわけじゃないが、取り立ててこだわる事もない。
それより今は目の前の事だ。
種族:魔犬
LV:67
筋力:256
精神:392
魅力:1694+200
技能:噛みつく 噛み砕く 噛み千切る 爪撃 遠吠え 吠撃 縮地
称号:美しき獣 好かれし者 群れ喰い
白銀の狼犬を見ていたら出てきたこれらの数値。
どう見てもゲーム的なステータスだ。独り身の寂しさを埋めるために手を出した様々なゲームで見かけるステータスそのまんまだ。
ずいぶんシンプルだな。
ちなみに、子犬を見ると同じようなステータスが浮かび上がった。
種族:魔犬
LV:1
筋力:2
精神:4
魅力:600+400
技能:かみつく そうげき なく 母性刺激 父性刺激
称号:子犬
なにこれ、攻撃スキルっぽいのがひらがなになってる。かわいい。
なくってなんだよ。泣くなのか啼くなのかどっちだよ。あぁ、もう、かわいいな。
それにしても、魅力にプラスされてる数値が違うのは何故だろう。
とりあえず、自分のも見てみよう。個体差とかあるだろうし。
種族:魔犬
LV:1
筋力:2
精神:413
魅力:-300+400
技能:かみつく そうげき なく えつらん
称号:子犬
……え?
思わず二度見した。目を皿のようにして確認した。
パグってなんだ。あのひしゃげた顔が特徴のちんちくりんの犬種か?
魅力の数値、マイナスとかあるんだ。プラスの400が無かったらどうなってたんだ。育児放棄されてたのか?
混乱しながら原因を考えつつステータスを見つめていると、各項目の詳細が浮かび上がってきた。
種族、LVはそのままだ。
筋力は一度に持てる重量を換算しているらしく、数値キログラム分を持ち運べるらしい。あの白銀の狼犬は一度に256キログラムも運べるのか。犬ぞりを引いてもらうのに重宝するな。
精神は魔法攻撃の威力と耐性に関わる数値らしい。魔法には個別に固有の数値が設定され、それと精神の値から威力が算出される。この威力よりも精神値が上回っていたら一切のダメージを受けないようだ。
ダメージって言うけど、このステータスにはHPに相当する物がないな。そのあたりはどうなってるんだろうか。
しかも、地味に白銀の狼犬の数値を超えている。中身が四十歳のおっさんなら当然なのかもしれんけど、童貞って言われただけでダメージを受ける柔らかさだよ、俺のハート。
とはいえ、今は子犬だから童貞なのは当たり前だな。
そして、魅力である。
唯一マイナスが設けられているステータスと詳細には書かれていた。マイナスの数値持ちはたまに存在するらしい。
マイナス100までは百人中何人が初見で嫌悪感を抱くか。
マイナス1000までは千人中何人が初見で憎悪を抱くか。
マイナス10000までは一万人中何人が初見で害意を抱くか。
ただし、魅力はあくまでも初見に際して適応される大まかな数値であり、各生物間には好感度が働いているためマイナスでも慕われることはある。
まぁ、あばたもえくぼって言うくらいだからな。不細工に恋をすることもあるだろうさ。
……もしかして、俺はステータス詳細に慰められているのだろうか。
技能はそのまま出来る事だ。えつらん、こと閲覧のスキルがステータスを見る事の出来る技能みたいだ。
称号は他者からの評価に該当するらしい。
俺や子犬の持つ称号:子犬は魅力に+400する効果があると書かれている。
原点に立ち返ろう。
俺の現在の素の魅力は-300、称号:子犬の効果で+100に持ち直している状態だ。
称号は他者からの評価だから、覆ることもなくなることも有り得る。
つまり、小犬じゃなくなったら一気に俺の魅力はマイナスの域に突入である。
魅力値-300とは、百人中百人が初見で嫌悪し、千人中三百人が初見で憎悪する外見、と解釈できる。
怖いわ。俺は一生を子犬として過ごしたい。
「――オウ?」
首筋を甘く噛まれる感触に疑問の声を上げた直後、ふわりと体が持ち上がる。
眼下に見えるのは白銀の体毛に覆われた足と俺を見上げる兄弟姉妹たち。
しかし、兄弟姉妹の姿はすぐに遠ざかり、ほんのわずかな間に周囲は鬱蒼とした森が広がっていた。
ゲォーとかいう不気味な鳴き声が木霊する森の中をしばらく進んだ後で、俺は藪の中に放り投げられた。
「キャン!」
何事?
藪を掻き分けた俺の眼には、颯爽と立ち去る白銀の狼犬の姿があった。
称号:子捨てが増えている。
「オォーン!?」
捨てられた!?
成長を待つまでもなくポイされた!
しかも、技能:縮地を使ったのか、一瞬にして白銀の狼犬の姿が遠ざかる。俺の方を振り返る事もない。
それにしても、このステータスって残酷な事実を突き付けてくるな。
俺にもちゃっかり称号:捨て子が増えてるし。ステータスに影響ないみたいだから良いけどさ。
いや、よくないな。
このままだと確実に殺される。
百人中百人が初見で嫌悪し、千人中三百人が初見で憎悪する外見、だぞ。周り中敵だらけになると思った方が良い。少なくとも、称号:子犬の効果がある間に生きる術を確立しないとまずい。
ちくしょう。なんでパグだからって魅力マイナスなんだよ。可愛いじゃないか。ちんくしゃで可愛いじゃないか。
愚痴っている場合じゃない。
子犬の魔犬と白銀の狼犬の間にはステータスに大きな隔たりがあった。それは魅力にも当てはまる。
LVを上げれば魅力が上昇するという理屈が良く分からないが、強くてかっこいいみたいなもんだろう。
仮に魅力が上がらないとしても、敵を蹴散らせるくらいに強くならないと殺される。
どうやってLVを上げればいいんだろう。何かを倒すとか、特殊な経験を積むとか?
やるか。殺っちまうか。
俺は四本の足で立ち上がり、森の中を慎重に進む事にした。
さすがは野生動物、割と楽に歩ける。
白銀の狼犬も俺の目が開くまで待っていてくれたようだし、称号:子犬の+400効果で最低限の愛情は貰っていたようだ。
少し進むと木の根元にウサギが巣穴を掘っていた。
あれはスルーだな。襲って来ない相手を殺しに行きたくない。
生ぬるいこと言ってんじゃねぇと自分でも思うが、ただでさえ嫌悪されると言われる外見なんだ。攻撃的じゃない相手に喧嘩を売って不要な恨みを買う事はない。
ウサギはスルーして先に進む。
すると、先ほど見たウサギほどもある蜘蛛がいた。
種族:魔蜘蛛
LV:6
筋力:12
精神:5
魅力:10
技能:噛み付き 毒牙 巣作り
称号:ウサギ殺し 偏食家
さっきのウサギ逃げてー。
それにしても、称号を見た感じウサギを集中して狙っているみたいだな。
弱肉強食という事か。
しかも魅力の数値がプラスだし。蜘蛛にさえ魅力で劣る俺は本当にパグなのか疑問が残る。
偏食家の魔蜘蛛さんは俺を見るなり何やら悩む様に牙をもごもごさせる。こいつ弱そうだけど見た目からしてゲテモノだしなぁ、みたいな葛藤が伝わってくる。
奇遇だな、俺もお前に同じ感想を抱いていたよ。
魔蜘蛛さんは悩んだ末、八本の足を器用に動かして俺に急接近してきた。
とりあえず殺しておこうという場当たり的な勢いを感じる。
俺は四本の足で飛び退きざま空中で体の向きを変え、着地と同時に走る。
魔蜘蛛さんに背を向けて一直線だ。技能:毒牙を持っているから正面から挑みたくはない。技能:巣作りの応用範囲次第では後方から攻撃を仕掛けるのも危ない。
そんなわけで、攻撃手段がなさそうな側面から攻めてみたい。できれば不意を打ちたい。
だから一度逃げる。
なにしろLV差は五もあるし、筋力の差は六倍だ。
様子を見て本格的な逃げに移った方が良いだろう。
俺は小柄な体格を生かして鬱蒼とした森の中、木の隙間を縫って走る。
魔蜘蛛さんは八本脚で飛び跳ねたりしながら俺を追って来た。
だが、魔蜘蛛さんはどうも藪が苦手なご様子だ。柔らかい腹が藪で擦れて痛いらしく、藪だけは大回りで回避する。
そうと分かればこっちのものだ。
俺は藪に突っ込んで向こう側へ抜け、魔蜘蛛さんを引き離す。
ある程度離れたタイミングで魔蜘蛛さんが俺を見失ったらしく、牙をもごもごさせて引き返そうとした。
獲物を見失ったショックでトボトボと帰ろうとする魔蜘蛛さんに向かって、俺は潜んでいた藪から飛び出した。
「ガウ!」
技能:かみつくをさく裂させる。ぷにっとした柔らかな食感の魔蜘蛛さん。長めの足をかいくぐって頭の付け根に噛み付いた俺に驚いた様子でたたらを踏んだ。
深く食らいついた俺だが、筋力:2は2キログラムを運べる程度の力だ。
結果、容易くふり払われた。
ふり払われた勢いのまま藪の中に転がり込み、体勢を立て直す。
自分の体重に加えてふり払われた時の遠心力が俺の筋力を上回ったのだろう。
口の中に異物を感じて、藪の中に吐き出す。
これ、蜘蛛の肉か?
魔蜘蛛を確認すると、頭の付け根の肉が俺の噛み痕に沿ってえぐれていた。俺が噛み千切った形になったらしい。
白銀の狼犬の技能には噛み千切るがあったはずだけど、俺にはない。技能がなくても行動そのものは出来るのだろう。
まぁ、さっきのは不可抗力的な面が強かったから技能は関係ないのかもしれないけど。
魔蜘蛛は不意打ちを食らった事で未だ動揺しているらしく、体を左右に振って周囲を確認している。
俺がまだ藪の中に潜んでいるとは考えていないらしい。
俺は藪の中で体を休め、魔蜘蛛が警戒を解くのを密かに待つ。
狩りの基本は待ちの姿勢だ。焦ってはダメなのだ。攻撃的な狩りは恋愛だけ、童貞が誇る唯一の恋愛則だ。反面教師だがな。
魔蜘蛛は俺がいなくなったと考えたのか、再び帰ろうとする。
あまり頭は良くないようだ。
がさりと藪から飛び出して先ほどと同じところに口を開いてダイブする。
今度は噛み千切った場所をさらに深く、がっしりと歯を喰い込ませるとともに爪を立てる。
蜘蛛が暴れ出し、一回目の攻撃をなぞるように俺はふり払われた。
口の中に蜘蛛の肉を頬張った状態で、だ。
蜘蛛が暴れまわっているが、頭の付け根の半分以上を俺が食いちぎっているため、もはや死は免れえない。
虫らしい生命力でしばらく暴れ回った蜘蛛は次第に動きが弱弱しくなり、やがて動かなくなった。
死んだかな?
死んだよね?
――死んだな。
自分のステータスを確認してLVでも上がっていれば分かるのではないかと思いつき、俺は自分のステータスを見る。
種族:魔犬
LV:3
筋力:6
精神:415
魅力:-350+400
技能:かみつく そうげき なく えつらん
称号:子犬 捨て子
……LVが上がってもファンファーレの類は響かないのか。
っておい、魅力が下がってるじゃねぇか。他の数値は一桁しか動いてないのに魅力だけマイナス方面に50ってなぜ。
……俺、強くてキモいのか。
パグ、可愛いだろうが。黒い鼻のまわりとか口を半開きにして舌を出してるだけで笑っているように見える感じとか大きい目とかとってもチャーミングーだろうがよ。
古いな、チャーミングー。
もしかして、キモいのはパグじゃなくて中身の俺か?
だとしたら、どうしようもない気がする。
自己啓発セミナーとかこの世界でも受けられるのかな。
というか、蜘蛛を食い殺すパグって、普通にキモいな。
どっちに転んでも駄目やないけー。えせ関西弁やんけー。
さて、現実逃避はこのくらいしてまじめに考えようか。
ここはあれだ、えっと、あれだ。歳のせいか言葉が浮かばないがあれだ。
そう、方向性を決めよう。アピールポイントって奴だ。
数年ぶりに履歴書に向き合うくらいの気持ちで気合入れていってみよう。
特技は――蜘蛛を噛み殺す事。
もっとマイルドにした方が良いか。蜘蛛噛み殺しちゃうぞ、とか。ないな。
そうだな……ワイルドにいこう。渋カッコいいパグを目指してみよう。
おぉ、深く考えたわけじゃないけど、いい考えな気がする。
荒波打ちつける岩場に凛と立つ決め顔のパグのイメージだ。背景で空がどんよりと曇っていればなおいい。
決めた。俺はこの路線を目指す。
渋カッコいいワイルドパグ、称号を得られるくらいにガチで目指すぜ。
どうせ生き残るためには強くならないといけないしな。
さしあたり、遠くを歩いている新手の魔蜘蛛さんを狙ってみようか。
ステータスも確認しておこう。
種族:魔蜘蛛
LV:5
筋力:10
精神:5
魅力:10
技能:噛み付き 毒牙 巣作り
称号:ウサギ殺し 偏食家
ウサギ肉のブームが起きてる? 魔蜘蛛界にウサギ旋風巻き起こってるのか。ぴょんぴょんしてんのか。
ご注文は――ウサギだと思った? パグでした。
てなわけで早速襲う。
きっちり交戦の意思がある事を確認した上での勝負だ。もしかしたら俺を襲わないイカした奴かもしれないから、一応の確認である。
藪を利用して魔蜘蛛さんを引き離し、死角から攻撃。
これが自然界の弱肉強食。まさにワイルド。
頭の付け根を噛み千切る。筋力:6の恩恵か、蜘蛛の身体を自力で噛み千切る事が出来た。
悶絶する蜘蛛から離れ、藪の中に身を隠す。
ぴくぴくと痙攣するように足を動かした魔蜘蛛はあっさり絶命した。
LV差が縮まると簡単に決着がつくな。楽でいいけど。
どれどれ、ステータスはっと。
種族:魔犬
LV:4
筋力:8
精神:417
魅力:-375+400
技能:かみつく そうげき なく えつらん 噛み千切る
称号:子犬 捨て子
技能:噛み千切るだけ漢字交じりかよ。しかもまた魅力下がってるし。
LV:5で称号:子犬の効果と相殺する勢いで魅力が下がっている。
LVを上げなければ子犬の称号を失うまでは安全だが、果たしてどうしたものか。
体が成長すれば筋力も増えそうだけど。
いや、日和見してるのはよくないな。
上げられる時に上げておこう。
魅力マイナスによる効果の憎悪されるって言うのがどういう結果をもたらすのか分からない以上、このままLVを上げてあえて魅力のマイナス効果である嫌悪感を抱かれるっていうのを体験してみよう。
嫌悪よりも憎悪の方が、マイナス効果が大きいのはステータス詳細の説明からも明らかだし。
俺は藪から出て蜘蛛の死骸を少し食べてみる。生肉で虫食なのはきついが、こいつらは魅力マイナスの俺なんかを喰おうとしたチャレンジャーだ。敬意を表して味見くらいはしてみよう。
鶏肉っぽい。そこそこ柔らかいのもいい感じだ。
魅力値と食材としての評価は別という事だな。アンコウみたいなもんだ。
アン肝喰いたい。ポン酢と紅葉おろしと紫蘇焼酎が恋しい。
イカ刺し、タコわさ、カツオの酒盗……。
「ハッハッハッハ」
笑い声ではない。口を半開きにしたパグによるものだ。そう、俺によるものだ。
口から垂れた涎を前足でぐっと拭う。土が付いた。じゃりじゃりする。
ワイルドには程遠い惨めな気分。
仕方がないので目の前の蜘蛛を食べる。鶏肉に似た味に加えて涙のしょっぱさがした。後、土のじゃりじゃり感。
腹八分目に抑えて狩りを再開する。
魔蜘蛛はいねぇがぁ。
平面顔の魔犬様じゃ、おらぁ!
見つけて屠り、魔蜘蛛を五匹狩る。
二匹目でLV5になり、四匹目でLV6になった。
そして、五匹目は俺を見るなり悩む間もなく襲いかかってきた。アレは獲物を見る眼ではなく、視界に入れたくないものを排除しようとする動きだった。
嫌悪感を抱くというのはこういう状態か、と納得しつつLVが対等になった事もあってあっさり倒す。
これが哺乳類の力だ。貴様には負けんよ。魔犬だけにな。
藪の中に身を潜めながら慎重に移動していると、魔蜘蛛に代わる新たな敵を発見した。
豚の顔をした人だ。オークかあれ。棍棒に腰蓑ってそのまんまな外見だけどさ。
同人誌ではお世話になっております。あ、サインいいっすか。
なんてフレンドリーに話しかけられる雰囲気ではない。
種族:オーク
LV:87
筋力:456+200
精神:887
魅力:-60
技能:叩き潰す 大振りの一撃 棍棒撃 連携(中) 粉砕 炎棍 爆砕の一撃
称号:オーク部隊長 爆炎の魔術師 砕きし者 人類の敵 姫騎士鳴かせ
あらやだ、奥さん、最後の見まして?
姫騎士鳴かせですって。泣かせの誤字かと思いましたわ。
どんなふうに鳴かせたのか興味がある。おじさんに詳しく教えてくれよ。
あれは敵だな。間違いない。人類の敵は俺の敵だ。愛玩犬として絶対に許さない。俺が童貞とかこの際どうでもいいんだ。
……ちっくしょうめ。魅力のマイナス数値に親近感が湧いたのに、裏切り者めが。
とはいえ、あのオークにケンカ売る気はない。絶対に勝てないだろう。
オークがどこかへ去るまで藪の中で息を殺してやり過ごした。
完全にオークの気配がなくなったことにほっとして、俺は散策を再開する。
それにしても、LV87とはね。筋力も余裕の三ケタ。しかも称号には爆炎の魔術師ときたもんだ。
遠近どちらもこなせる攻撃型かよ。精神も俺の倍以上だし。
オーク部隊長の称号に技能の連携も併せて考えれば、群れをつくっているんだろう。どれくらいの大きさで部隊を名乗っているのか知らないが、あんなステータスの奴が徒党を組んでるのは怖いな。
この辺りから早めに移動した方が良いかもしれない。
「……ギ、ギゥ」
どこからか弱弱しい鳴き声が聞こえてきて、俺は足を止める。
何だろう。弱っている生き物がいるのだろうか。
窮鼠猫を噛むというし、慎重に見に行こう。
短い鼻で血の匂いを辿る。時折り土が鼻に入ってむせた。
そうして辿り着いた場所には大規模な戦闘の後があった。炭化した樹木が転がり、あちこちに緑色をした手や足が転がっている。
簡易ながら、草と木の枝で作った住居らしきものが見える。高さは一メートル五十センチと言った所か。人が住むには窮屈そうに見える。
「ギゥギ……」
声の正体はすぐに判明した。
今なお燃えている樹木に足を潰されて身動きが取れずにいるゴブリンだ。そこら中に転がる緑の身体のパーツはこのゴブリンの仲間の物だろうか。
こいつの他に生存者はいないだろう。絶望的だ。
先ほどのオークが爆炎の魔術師の称号を持っていた。明らかに燃やされたこのゴブリンの集落らしき場所といい、あのオークの仕業だろう。
酷い事をする。
俺は唯一の生き残りらしきゴブリンに近付く。
俺の姿を見つけたゴブリンは必死に手を伸ばしてきた。
ステータスを確認する。
種族:ゴブリン
LV:5
筋力:20
精神:180
魅力:45
技能:噛み付く 短剣遊び 薬草採取
称号:姫騎士
――姫騎士ってお前かぁあぁあああい!