第十三楽章【月明かり】
― 三日後・・・
マキはイタリアに来てから、幼い頃のように
ミキの隣で眠っていた。
マキ 「・・・。」
―夜は静かで、昼間のにぎやかさが嘘みたいに思える。
マキ (起きちゃった・・・。何か飲もうかな?)
マキはミキを起こさないようにそっとベッドから降りて、下の階へ降りた。
すると、ぼんやりと明かりがついていることに気付いた。
マキ 「・・・。」
マキのお父さん 「ああ、マキ。」
マキ 「こんな遅くまで仕事して・・・」
マキのお父さん 「いつものことなんだよ。あんまりお客さんを待たせちゃいけないと思って」
マキ 「それは・・・偉いと思うけど、ちゃんと寝ないと」
マキのお父さん 「そうだね」
マキはマグカップを手に取って、静かに呼びかけた。
マキ 「父さん・・・」
マキのお父さん 「ん?」
マキ 「こないださ、夢を見たんだ」
マキのお父さん 「夢?」
マキ 「うん。・・・誰もいないホールに、私だけがいて。ピアノを弾いてた。」
マキのお父さんは作業をしていた手を止め、マキと向かい合うようにして椅子に座った。
マキ 「なぜだか懐かしい気分になったんだ」
マキのお父さん 「それは不思議な夢だね。・・・でも、同時に特別な夢かもしれない」
マキ 「・・・そう、まるで初めてピアノに触れた時みたいな気持ちで・・・」
マキのお父さん 「そのホールはどこなんだろうね?」
マキ 「・・・コーラスコンクールの会場のホールだ・・・!」
マキのお父さん 「・・・なら、近いうちにそういうことが起きるっていう予知夢かもね」
マキ 「・・・そういうの信じる人だっけ?」
マキのお父さん 「いや、未来はマキしだいだからね。」
マキのお父さんはそっと微笑んだ。
マキのお父さん 「母さんを頼む。」
マキ 「・・・。」
マキは何も言わずに頷いた。
そして白湯を飲んで再び、二階に上がった。
マキ 「私が・・・」
―そう呟きながら、マキはミキを包んでいる毛布をそっと撫でた。
その声は優しく、同時に決意を込めたような声だった。
再び横たわると、天窓から月明かりがさしていた。
そしていつの間にか眠りに落ちた。夢と現実の中で隣から囁く声が聞こえた。
『いつも見守っているよ』




