5話
闘技場周辺の大衆食堂
「よう、やったな、みてて、ヒヤヒヤする所があったが、心配する事も無かったな、これで食い扶持は繋がった、今日も酒がうまい、勝利の美酒に酔いしれるか。」
相棒は自分の事の様に盛り上がっていた。
「そうかい、それはよかったな、・・・明日にも俺の愛機は試運転できるそうだ、今日は、まあ、楽しんでていいぞ、ふう・・・これで次の依頼ができるな」
「もう仕事の話かよ、もっと自由を楽しもうぜ」
分かっちゃいないぜと手に持つエールを口に含む。
「そうも言ってられん、勝ちはしたが、こんなのすぐに無くなる」
大会優勝の賞金と、賭け金で
なかなかの額だった、機体の整備費やレンタル費を重ねても十分にお釣りがついた。
「おい、そういや聞いたか」
後ろの客席のテーブルから話し声が聞こえた、耳を澄ますと、
「何がだ」
「今回の大会の本選を出てた奴が、途中棄権しただろ」
「ああ、いたなーそんな奴」
・・・4回戦で棄権した軍人崩れか、長い名前だっけ、なんで今頃そんな奴の話を、俺は更に聞く耳をたてた。相棒は、気づいたら色恋沙汰の話をしていたが
「名前何だったかな、へへ、まあいいや、そいつ、軍関係者と話していた所を見かけた奴がいてさ、それとなく耳に入った話だがよ。」
「あん、別に珍しいことでもないだろ、ほら、スカウトとかさ、仕事の依頼かもしれないし、まあ、大会まで棄権しなくても良かったと思うが、急ぎだったんだろ」
「まあ聞けよ、話していた男は軍関係者といっても、貴族連盟の制服を着てたんだよ」
「チッ連盟か、それで」
「話は戻すが、聞く耳立ててたと言ったよな、なんでも・・・」
男は左右を振り向き目の前の男に話した。
「・・・だとさ」
周りの雑音のせいか、男がなぜか小声で話す為、良く聞き取れなかった
肝心な所を小声で話すなよ。舌打ちしたくなった
「おいおい、信じるつもりか、眉唾だろそんなの」
ありえんと大袈裟に被りを振った。
「どうだろうなー、だが、ここら一帯は元々、軍の研究施設があったと聞いたぜ、あながち間違いとは言えんよ・・・」
「おーい、聞いてんのか」
「何がだ」
ハッとなって我に返った,相棒がこちらをうろん気に見ている顔が赤い。
「なんだよ、聞いてなかったのかよ、もう一度言うぞ、街で知り合った踊り子が俺にモーションをかけてきてな・・・」
そこから話が長かった、一通り話を一区切りした所で
「聞いてたよ、たしかジェシーだっけ」
「ちげーよ、モニカちゃんだ、踊り子の、もういい、おい、次に行くぞ、飲み直すー」
相棒はフラつきながら席から立った
ふと見たら、テーブルに所狭しと並べられた酒瓶が空だった、相棒はかなり酔っているらしい、これだけ飲めばそうなるか・・・ここらが潮時か、隣のテーブルではまだ何か話していた、多少気になるが、相棒をこのままにできない。
「宿に帰るぞ」
「まだ、行けるぜ」
はしゃいでいるな、元気だけはいい
「わかった、わかった」
相棒を肩に担ぎながら歩き出した。
宿に帰ったら相棒をベットに寝かせたその頃には、大衆食堂の件の事など等に忘れていた
深夜、某研究施設
深夜、某研究施設内に薄暗い照明から2人の人影がある。その後ろにも幾人かが付き添って歩いていた。
「見つかったか?」
背の高い制服の男が言った、男の腕章には連盟の金色バッジが不釣合いに光っていた。
「報告では地下4階第3フロアにあると聞いていましたがね、ここらに目的の物があるはずですよ。」
もう1人の若い軽薄な男が言った。そこには、大会を途中棄権した男がだった。
周囲を見わらし制服の男に言った。
「調査部の情報など宛にならんぞ」
相手の素性を見て、嫌悪した顔を覗かせた。既に、何度も煮え湯を飲まされていた、ここで件の報告は6箇所目だった。制服の男はエリート組にいたが、幾つかの失敗で出世路線を外れ辺境に置いあれ、雑用の真似事をしていた、制服の男は焦っていた、手柄を貪欲に欲していた。再び本部栄転の為、自分には専用のフロアと大きなテーブルと皮製の椅子が相応しい。自分はまだ見ぬ輝かしい栄光の為に。
それを知ってか、知らずか同行者は気乗りしていないのだが、気づいた素振りも見せなかった。
「さすがに今回はデマじゃ無いでしょ、実際に研究施設がありましたからな。」
中の様子を見て、軽薄な男は、確信めいた物を感じていた。
「だといいがな。」
フンッと鼻を鳴らした。
「ここじゃないですか。」
そこには重厚な大きな扉があった
「間違いない、おい、早く開けろ」
制服の男はズンズンと近づき急かし、軽薄な男にこう言い放った。
「はいはい、わかりましたよ、幸いここのフロアの電源は生きているみたいだし」
柳に風といった具合か、やれやれといった感じの仕草をした
「お目付け役、子守も大変だな」
小声で呟いた。
「何か言ったか」
制服の男は青筋を立てて言った。
電源は生きているが所々照明が破損している為、節電の為かこの場所は暗い、身長にしては痩せ過ぎの男に頼り無さしか見えない。
「いえいえ、お気になさらずに、さあ、早速開けちゃいやそう」
操作盤のタッチパネルを見つけ、暗証ロックを解除に測った
「ピ━━━━!!」と電子音が鳴り響いた
「開きますよ」
轟音と共にゆっくりと重い扉が開いた
パッパッパッと照明が列を並べ明かりを灯した。自動で照明が点くようにセットされているようだ。
そこは大きな空間があった、いくつか、配線やチューブや建材が雑踏に置いてあった。っ電子制御室も脇にあり、機械音が響いた、そこに、奥中央部に目を向き、それはあった、2人は扉の中の大きなシートで覆いかぶさっている物に目を向けた。まるで、玉座そこにあるといわせんばかりにそれは鎮座していた。
シートの折り合い具合から大きな硬質の物であると伺える。
シートを幾人かでめくると、
これが『月の遺産』か。






