第6話:見つかった書類が、なんだかおかしい
第6話:見つかった書類が、なんだかおかしい
パパが部屋を出ていってから、
わずか数十秒後。
ドタバタドタバタッ!!
ものすごい足音と共に、
再び扉が勢いよく撥ね飛ばされた。
「オリカァァァ! やはり執務室にも
書類がないのだ!
これは大変なことになった、
今すぐ騎士団を動員して――」
大パニックで頭を抱えるパパの背後から、
今度はお兄様まで
険しい表情で部屋に入ってきた。
「父上、落ち着いてください。
オリカの部屋で大声を出すと
怯えてしまいます。
……それで、紛失したという
国家機密はどこに?」
「それが、最後に見たのは
この部屋のソファの上で……」
私はベッドの中で仰向けに転がったまま、
さりげなくソファの方へと
短いおててを向けた。
(パパ、お兄様、そこよ!
さっき私が投げ入れたクッションの
隙間をよく見て!)
私の無言の誘導が通じたのか、
お兄様がふとソファのクッションに
目を留めた。
「……おや? 父上、
あんなところに紙が
挟まっていますよ」
「何っ!?」
パパが弾かれたようにソファへ駆け寄り、
クッションの隙間から
一枚の羊皮紙を引っ張り出す。
「おおオ……! これだ、これだぞ!
ああ、よかった……!
やはり私がうっかりクッションの間に
落としていただけだったのだな!」
パパは紙を胸に抱きしめ、
大袈裟に天を仰いだ。
(ふぅ……ひとまず間者騒ぎは
回避できたわね)
私はベッドの中で小さく胸を撫でおろす。
しかし、ホッとしたのも束の間。
書類を確認していたお兄様が、
怪訝そうに眉をひそめた。
「……待ってください、父上。
その書類、少しおかしくありませんか?」
「む? 何がおかしいのだ、ルファス。
文字も私の書いたままだし、
内容も間違いないが……」
「いえ、その『質感』です。
遠目から見ても、羊皮紙特有の
しなり方が不自然です。
ちょっと貸してください」
お兄様はパパから書類を受け取ると、
両端を持って、ぐっと力を込めて
引っ張った。
――ピキィン。
部屋の中に、およそ「紙」から
鳴るはずのない、金属のような
硬質な音が響く。
「……やはりおかしい。
僕の筋力で全力で引っ張っても、
破れるどころか、
1ミリも伸びる気配すらありません」
「バカなことを言うな、ルファス。
いくらお前が天才児とはいえ、
ただの羊皮紙が破れないはずが――」
パパが横から書類を奪い取り、
ぐっと力を込める。
一国の政を司る
宰相でありながら、
パパは魔力量も国内トップクラス。
その気になれば【土魔法】で
城壁を瞬時に作り出し、
【火魔法】で軍隊を焼き尽くせるほどの、
頭脳だけではない怪物なのだ。
そのパパが、大人の男としての腕力に
魔力まで上乗せして、
全力で引き裂こうとする。
パパの手の筋肉がみしみしと鳴り、
凄まじいプレッシャーが
部屋を支配した。
しかし、書類はしなやかな形のまま、
傷一つ付かない。
(あちゃー……。やっぱり
ゴッドレア品質の【絶対不壊】が
不審がられてるわ……)
私は冷や汗を流しながら、
おしゃぶりをちゅぱちゅぱと吸って
必死に無関係を装った。
「父上、少し失礼します。
――『火球』!」
お兄様が指先から小さな火の玉を出し、
パパが持つ書類の端を
直接炙ってみせた。
普通なら一瞬で灰になる暴挙である。
しかし、火の粉が消えたあとも、
書類は煤すらつかず、
新品のようにピカピカのままであった。
「……火魔法すら完全に無効化する。
父上、これはただの羊皮紙ではありません。
いかなる高位の術者が施したかも不明な、
超一級の『防御結界』が
この紙自体に定着しています」
「な、何だと……!?
火と土の属性を持つ私が
全く気づかぬうちに、
この書類にそんな高度な魔法を
付与した者がいるというのか……!?」
パパとお兄様は、
ゴッドレア化した国家機密を囲み、
ものすごく深刻な顔で
あごに手を当てて考え込み始めた。
「……これは、私に対する
謎の『味方』からの警告、
あるいは支援かもしれん」
「そうですね。これほどの結界術、
国内の魔術師を総動員しても不可能です。
『国家機密を絶対に守れ』という、
神の御使いからの啓示でしょうか……」
(ち、違うのよパパ、お兄様……。
それ、ただの0歳児の娘が
折り紙のついでに錬金しちゃった
だけなのよ……!)
天才ゆえに、事態をどんどん
壮大な方向へと考察していく二人。
ひとまず疑いの目が
私に向くことはなさそうだけど、
家族の勘違いがどんどん
スケールアップしていく様子に、
私の胃は生後数ヶ月にして
キリキリと痛み出すのだった。




