面の奥の自画像
5月
夏本番の前の梅雨の前の季節
個人的に一番何もない季節だと感じている
今日も今日とて部活動に励む
私は部活動で剣道部に所属している
剣道は夏でも重い小手をはめて進めるため毎年夏本番になると倒れる生徒がいる
さすがに去年の暑さに耐えることができず私も寝込んでしまった
それを重く見た教育委員会が異常気象対策として体育館にエアコンを設置
部活動を行う生徒は原則としてエアコンをつけた体育館で行うようにという指導が入った
涼しい中で動くと筋肉をうまく使うことができずなかなか練習にならないが命が一番大切だからな
そんなことを考えながら体育館の鍵を借りて一足先にエアコンを起動するために向かう
「やっぱり部長は違うな~この暑さの中で汗一つ書いてないんだもん」
副部長が話しかけてくる
私は人よりも汗をかくことを苦手としている
あまり暑さを感じないというのが本音なのだが汗をかけないというのもなかなか苦しいものがある
人は汗をかくことで体温調整を行うため汗が書けないということは熱中症のリスクが高まるのだ
「そういうあなたこそあまり汗かいてないじゃない、私と同じで代謝がいいのかしら」
そんなことを話しながら体育館に向かう
体育館に入るとバレー部の生徒が一人練習をしていた
エアコンもつけずに
確か今日は剣道部が一日貸し切りだったはずだけれども
もしかして自主練でもしているのだろうか
「あれ?今日は剣道部が使うんじゃなかったの?」
副部長がそう私に問いかけてきたのを耳にしたのかその女子生徒は慌ててこちらに走ってきた
「すみません!!剣道部の練習が始まるまででいいのでもう少し練習をさせてもらえませんか?!」
ずいぶん熱心な生徒だった
話を聞くにレギュラーになれるまでもう一歩のところで逃してしまったらしい
今は補欠の一番手としてレギュラーメンバーが体調不良などで出れなくなったとき要員らしい
ただ、大会直前のこの時期にレギュラーメンバーが一人けがをして入院してしまったらしい
補欠メンバーから一人選抜されることになったから補欠一番手だとしても油断しないように練習をしたいとのことだ
なんてすばらしい熱意なのだろう
私といえばたまたま筋がよく部長になれただけだ
そりゃ毎日の部活動以外にも自主的に練習を行っているがそれは副部長も同じ
ならなぜ私が部長で副部長が副部長なのかと言われたらそれた単に筋がよかったかどうか
センスがあったかどうかなのだろう
「わかった。私も部活動が始まるまで自主的に練習するつもりでここに来たからコートの反対側を使わせてほしい。」
一面コートの半分が使えたらお互いそれぞれが練習をできると考えたのだ
「わかりました!!」
自主練習を始める
剣道は書道と同じく集中する力がとても必要になる
相手の一挙手一投足に神経をとがらせて次の行動を読む
それに合わせて自分ができる最適な行動を選択する必要がある
練習をしていたらふと隣のコートが気になった
私は運動がそこまで得意ではない
特に球技に至っては全くボールと仲良くなれず顔面でキャッチすることもしばしばある
私にはないボールへの熱意を知ってみたくなった
「何がそんなの面白いの?」
あ。
やってしまった
私はコミュニケーション能力がそこまで高くない
思ったことを思った通りに行ってしまい相手から誤解されることもしばしばある
とはいえ私が悪いのは百も承知だがいいほうに受け取ってもいいのではないかと思ったりしないこともない
「ごめんなさい言葉が悪かったわ。私はバレーがそこまで得意ではないからそこまで熱意をもって練習に励むことはできない。補欠一番手になっているならこれ以上練習をしなくても選ばれることは明白だからこれ自主練に励む気持ちもわからない。あなたはなぜそんなに頑張るの?」
相手はとても不思議そうな顔をした
「あなたと同じです。あなた剣道を頑張る姿をずっと見ていました。私にはない熱意をもって自主練習に励んでいることも。そしてそれが熱意だけではなくとても楽しく行ていることだということも何となく理解しています。それと同じです。楽しいから頑張りたくなる。楽しいから結果を出したくなる。それと同じです。」
とても まぶしい笑顔だった
そして、そうか傍から見たら私が剣道を好きなのはとても分かりやすいのかと思った
少し恥ずかしい
「楽しそうに見えるといわれたのはずいぶん久しぶりだし、それが剣道をしている姿を見ての言葉であるならばなおのこと初めてだからとても恥ずかしい。誉め言葉だと受け取っておくわ。ありがとう。」
でも
彼女の熱意に水を差すわけではないのだがそろそろほかの部員が来る時間だ。
「ごめんなさい。そろそろほかの部員が来る時間なの。申し訳ないけれど自主練習はここまでとしてくれない?」
申し訳なく思っているのは本当のことだ
私と同じぐらい楽しんで部活動を頑張っているという言葉が本当ならきっと悔しい気持ちがあるだろう
「・・わかりました。ここまでありがとうございました。残りはまた今度にします。」
そう言って彼女は去っていった
ほどなくしてほかの部員がやってくる
気が付けば副部長も自主練をやめて指導に入っていた
「部長、このタオルって部長のですか?」
そう言って後輩は見たことがない柄のタオルを手渡してきた
どこにあったのかと聞くと反対側のコートの隅に置かれていたらしい
きっとさっきまで自主練をしていたあの子のものだろう
あいにく明日は日曜日だし、おそらく使っていたであろうタオルを預かるのは気が引けた
衛生的にも
今から走れば間に合うかもしれない
田舎だから電車の本数が少ないのだ
今から帰るとなると40分ぐらいは駅で待たなければならないはず
今から行けば余裕で間に合うだろう
「心当たりがあるから返してきます。その間の指示は副部長に任せます」
「え!!!ちょっと急じゃないですか」
副部長は困っていたが基礎練習を行うように指示をしてから体育館を後にした
私が休んだら指揮を執るのは副部長だ
慣れてもらわないと困る
それに基礎は大事だからな
着替えるのも一苦労なのっでいったん重いものだけ外してそのまま追いかけることにした
予想通り駅にある一つしかないベンチに腰掛けていた
ふと手にしていたスマホの画面が目に入った
どうやら自分が出た試合の動画を見ているらしい
ぶつぶつとここはこうしたほうがよかったとか言っている
分析ってやつか
「お疲れ様。タオル忘れていたわよ」
そう声をかけるとびっくりしたかのように体をはねさせこっちを見た
「・・・・びっくりした。急に声かけないでよ」
敬語が崩れていた
いや別に期していないし私も普段から敬語が怖いといわれて頑張って崩して話すようにしているからとやかく言うつもりはない
「タオル・・?タオルタオル・・・。ない!!!!」
そこでようやく自分のタオルがないこと、そして私がそれを持っていることに気が付いた
「私のタオルだ!!ありがとうございます。これお気に入りなんです。助かりました」
そう言っていそいそとカバンにしまう
「さっきまで見ていたのって自分の試合の映像?自己分析にまで余念がないのは素晴らしいことだわ」
「ありがとうございます。私はここぞというときにミスをしがちなので普段からしっかりと分析して考えて行動をしないといけないんです。ギリギリレギュラーになったやつがチームの足を引っ張るわけにはいきません」
どうやら彼女の中ではもうレギュラーのつもりらしい
まあ自主練をしていたのは彼女だけだったし
私が知る限りだけど
当然の結果にはなるのかもしれない
「そう、素晴らしい心構えね」
「ありがとうございます。」
無言になってしまった
「やっぱりバレーは楽しい?」
さっきあれだけ熱弁されたのに何を聞いているのだ私は
「はい。大好きです。」
それは当然の返答だった
「あなたは嫌いなんですか?あんなに楽しそうなのに」
「楽しいと好きは別物よ」
「でもきっと楽しいから好きだし。好きだから楽しいと思うんです。」
「好きになったらもっと強くなれるかしら」
「きっとなれますよ。今でも部長として強さを発揮しているんですからさらに上を目指せます。」
なんだか勇気もらった気がした
そうか楽しいは好きだし好きは楽しいのか。
ちょっとだけわくわくした
「そう、ならもっと剣道を好きになってみるわ。」
そうすればこの味気ない人生もどうにかマシになるのではないかと思ったのだ
「好きになったらきっともっと楽しいと思いますよ。私もバレーが大好きなので。好き度合いでは負けません」
好き度合いってまるで中学生みたいでとても面白い
たまにはいいと思ってしまった
「それじゃあ私は部活動に戻るわ」
「タオル、ありがとうございました。部活動頑張ってください」
少し速足で体育館に戻った
「部長お帰りなさい。私一人で大変だったんですよ~。あれ?なんかいいことありました?いつも不愛想な部長がニコニコしている~!」
鏡を見ても特に変化は見られず
いつもの物調ずらの私がいた
普段から私の顔を見ている副部長からすれば満面の笑みらしい
私は私のことをあんまり知らないらしい
「いいことはあったけれどあなたには秘密よ」
そう言って基礎練習に励む部員の中に走っていった。




