第4章 – 見えざる精霊と共鳴
レントとモロの旅は石畳の道へと続いていた。
二人は、つい先ほど即席の戦場と化した草原地帯から徐々に離れていく。相変わらずの状況の中、モロはこの世界について再びペチャクチャと喋り始めた。
『さて、ご主人様。この世界には一般的に「スピリット・エレメンタル(精霊)」と呼ばれる存在がいます。彼らは共鳴する生き物でして、つまり魂に結びつくことができるんです』
「ふん。よく分からん」
レントは短く返した。
『もう、ご主人様ったら! ざっくりと説明しますね。彼らは、生命の樹から抽出された溢れ出る属性エネルギーから生まれた存在なんです。ここにあるような普通の木じゃなくて、その、この世界のものではない木というか……』
「ふむ」
レントは軽く頷いた。
『で、ですね。ご主人様はついさっき、その精霊の一体を目覚めさせちゃったわけです』
レントは足を止め、ゆっくりと毛玉を睨みつけた。
「どういう意味だ?」
『あれ? てっきり気づいているかと思ってました。自分が「共鳴」したって感じませんでしたか?』
「いいや」
レントは短く答えた。
「それから、二度とその生き物の話はするな。分かったか、毛玉?」
『え、ええと、でもこれは弱肉強食の法則に——』
「弱肉強食なんて知ったことか。これ以上うるさくするなら、俺は一人で行くぞ」
レントはモロの言葉を遮り、彼を通り越して歩き出した。
『ま、待ってください!』
モロは素早く飛び、レントのすぐ隣でピタリと止まった。レントの歩調に合わせる。
『分かりました、さっきの話の代わりに、この世界の奇跡について説明しますね!』
「はぁ……またか」
レントは前だけを見据えた。絶え間なく続く毛玉のおしゃべりを完全に無視して。
その頃……。
彼らの歩む道の背後。石の道から十メートルほど離れた道端の茂み。
あの見覚えのあるオレンジ色の両目が再び現れた。レントと、その横を飛ぶ毛玉の足取りをじっと見つめている。
草原の谷の最初の風景が徐々に変わり始めた。
二人は鋭い岩が転がる道へと入り込んでいく。
左右の谷には、ヨガボールほどの大きさの巨大な岩があちこちに転がっていた。そこにはいくつかのアニマルが住み着いている。アライグマや白ウサギ(さっきのヤツではない)のような動物たちが家を作り、今は岩陰から様子を窺っていた。
一人の青年とうるさい毛玉が、自分たちの生息地を通り過ぎていくのを。
『さて、ご主人様。現在僕たちは西のルート、岩の谷にいます。ここには歴史があるんですよ!』
「ふむ」
レントは頷いた。
『えへん。静かすぎないように少し説明しますね! 実は、この地域にはかつて石柱があったんです。こんなただの岩場じゃなくて、高さ七フィートほどの石像がずらりと並んでいて……たぶん? 細かいことは忘れちゃいましたが、とにかくここで地震があったんです。だから今残っているのは、ただの瓦礫の山ってわけです』
「ふむ」
レントは相槌を打つ。彼の視線は前方にだけ向けられ、周囲を少しも見回そうとはしなかった。
『ご主人様! ここには白ウサギもたくさん住んでるんですよ! 普通、冒険者たちは一匹か二匹拾っていくんです!』
「モロ……」
レントのかすれた声が響いた。
『はい、ご主人様?』
「少し黙ってくれないか? 俺はこの場所の歴史にも、ここに住んでる奴らにも全く興味はない。特に……」
レントはモロを真っ直ぐに見つめた。
「二度と『ウサギ』という言葉を口にするな。分かったな?」
その瞬間、毛玉はブルッと震え上がった。
(想像上の)冷や汗が毛を少し濡らす。
『了解です! 分かりました! すみません、ご主人様!』
「よし」
レントはモロから視線を外し、再び前を向いた。
「それより教えてくれ。お前の言うその文明のある場所まで、あとどれくらいかかるんだ?」
『うーん……そんなにかからないはずです。ここからその街までは、あと三十分くらいでしょうか』
「はぁ。分かった。俺の哀れな足のために、あと三十分だな」
レントとモロの会話の裏側で。
オレンジ色の目をした生き物が、再び岩陰から監視していた。その生き物を見つめる白ウサギたちは、ただ首を傾げることしかできない。もし彼らが話せたなら、きっと『遠い親戚のウサギかな』と言ったことだろう。
その生き物が、次の岩へ飛び移ろうとしたちょうどその時。
足元が滑り、足場が崩れ……。
――ガラガラッ! ドスッ!
レントとモロは反射的に後ろを振り向いた。
「誰だそこにいるのは?」
レントは警戒して声を上げた。
「怖くはないぞ。今すぐ出てこないと、この辺の石を投げつけるからな」
彼はさらに警戒を強める。
石畳の道の端で立ち込めていた土煙が、ゆっくりと晴れていく。
そして、奇妙な光景が姿を現した。
ドーナツ型の岩の隙間に頭が挟まり、身動きが取れなくなっている炎のウサギの姿が。
レントの顔から再び血の気が引いた。
「また……お前か? なんでこんな所にいるんだ?」
一方、モロは再びパニックになって震え始めた。
『ご、ご主人様! あいつ……あいつ……あいつ……』
「あいつがどうした?」レントが素早く返す。
『僕たちを食べる気です!!』
モロが再びヒステリックに叫んだ。
『逃げましょう、ご主人様! 早くここから離れないと!』
モロは自分の体をレントの背中に押し当て、遠ざけようとする。
「待て、モロ」
レントはその毛玉を手で払いのけた。
「あいつ……動けないじゃないか。あのバカウサギ。さっきと同じことをやってるぞ」
『あっ! なら、今がチャンスです、ご主人様! 炎のウサギが罠にかかっている間に!』
モロが再び甲高く叫ぶ。
レントは腕を組んだ。ウサギをじっと見つめる。
「ふむ。お前の言う通りだな」
彼はゆっくりと前に歩み出た。炎のウサギを鋭く見つめたまま。
『ご、ご主人様!? なんでまた近づいてるんですか!?』
モロがフラストレーションを爆発させる。
レントは答えない。彼は罠にかかった炎のウサギの真上に立ち、獲物を狙う鷹のように下から見下ろした。
ファイア・バンは即座に再び唸り声を上げた。だが今回は、炎が燃え上がることはない。
「はぁ……お前、本当に失敗から学ばない奴だな。このバカウサギ」
『グルルルゥゥ……!!』
ファイア・バンの低い唸り声が、レントの嘲笑に答えるように響く。
「チッ。世話の焼ける奴だ」
レントはしゃがみ込んだ。安全な距離を保ちながら、石を一つ一つどかし始める。徐々にファイア・バンの体が動かせるようになっていく。
「お前……本当は何が目的なんだ? 俺の弁当じゃ足りなかったのか? 根っからの強欲ウサギだな、お前は」
レントは残りの石を拾い上げながらぶつぶつと文句を言った。
モロが近づいてくる。
『ご主人様、気をつけた方がいいですよ。油断した瞬間に、さっきみたいに一瞬で黒焦げにされるかもしれません!』
「ああ、分かってるよ。どけ。お前が視界の邪魔だ」
すべての石が取り除かれ、ファイア・バンの首に引っかかっているドーナツ型の岩だけが残った。ウサギの頭が岩の穴から突き出している。相変わらず唸り声を上げたままで。
「お前、動くなよ。今からこの首の石を外してやるからな、バカウサギ」
レントの両手が、ファイア・バンの首の岩を掴む。
3、2、1の合図で。
――スポッ!
ついにファイア・バンの首が自由になった。
「よし、終わったぞ。さっさと行け。もう食い物は持ってない。他の奴らみたいにそこら辺の草でも食ってろ(白ウサギたちを指差す)。分かったか?」
レントはそっけなく言った。
ファイア・バンは聞いていなかった。ただレントを見つめている。
徐々に、その鋭い視線が変化していく。ゆっくりと和らいでいく。
まるで違う目で見ているかのように、レントを見つめていた。
レントは片眉を上げた。
「なんだ? まだ分からないのか、このバカウサギ?」
ファイア・バンはただ首を傾げるだけだった。レントをじっと見つめたまま。
レントは居心地の悪さを感じ始めた。
(なんで……こいつは行かないんだ? それに……なんでこの視線、こんなにゾクゾクするんだ?)
「おい! 聞こえてないのか?」
レントはこめかみを揉んだ。
「はぁ……俺が馬鹿だった。動物の形をしたモンスターに話しかけるなんて」
モロが顔の高さまで近づいてきた。
『待ってください、ご主人様。何かおかしいです』
モロはファイア・バンを上から下まで観察した。
『どうやら……あいつ……』モロがレントを振り返る。
『懐きましたね』
沈黙。
「は?」
レントの口から思わず声が漏れた。
『今はもう懐いてますよ、ご主人様。ご主人様に対する態度の変化で分かります!』
「お前……冗談だろ?」
レントは再びファイア・バンに目を向けた。その丸い目と視線が合う。さっきのような鋭さは全くない。
「俺はこいつを信じないぞ、モロ。それに……」
彼は震える指で指差した。
「俺が油断した瞬間に頭をかじり取れるように、今、演技してるに違いない」
『落ち着いてください、ご主人様!』
モロが素早く返す。
『心配無用です! 僕が根っこの部分までしっかり調べましたから! えへん……ご主人様、さっき僕が言った、生き物との「共鳴」について覚えてますか?』
「いや」
レントは短く答えた。
『大丈夫です、要点だけ説明しますね。ええと……スピリット・エレメンタルのような存在は、他の生き物の魂と共鳴することができるんです。つまり……ご主人様はファイア・バンと共鳴の絆(契約)を結んだということです!』
「はあ!? いつからだ!? お前……さも良いことみたいに言うな!」
レントが叫ぶ。
『ご主人様がファイア・バンにパンをあげた時からですよ! あの時、あいつはご主人様から強い感情的な繋がりを感じ取ったんです。ファイア・バンのようなエレメンタルは、生き物の感情に対して強い本能を持っていますから』
『まあ、最初はご主人様を丸焼きにしようとしてましたけど、少なくとも対処できたじゃないですか! だから、おめでとうございます、ご主人様! これで正式にファイア・バンと契約成立です!』
レントは再びこめかみを揉んだ。
「うっ……つまり。この生き物はずっとついてくるってことか? 永遠に?」
『ええと、そういうことになりますね! 大丈夫ですよ! これは素晴らしいことですから、ご主人様!』
モロは熱狂的に答えた。
レントは青空を見上げた。
「どうやら……俺の人生はますます面倒なことになりそうだ」
彼は再びファイア・バンに視線を落とす。その目は再び疲労の色を帯びていた。
「そして俺はたった今、自分の人生に奇妙な生き物をもう一匹追加しちまったらしい」
「ピュウ?」
ウサギの口から、小さな鳴き声が漏れた。




