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第38話:朝の脱衣と紫色の気遣い ~世話焼きな半身~

「あんたの服はどこ? 昨日のチキンスープの借りの約束通り、私が洗濯してあげるわ――」


 カエンの小言が突然ピタリと止まった。彼女はレントの顔をじっと見つめた。普段は傲慢さを放っている紫色の瞳が、今は探るように細められている。青年の目の下にうっすらと浮かぶクマを見逃さなかったのだ。それは肉体的な疲労からくるものではなく、眠れぬ夜を過ごした痕跡だった。


 なぜか、カエンの胸の奥で奇妙な衝動が湧き起こった。目の前の青年が死に物狂いで隠している絶望の残滓を、彼女の潜在意識が感じ取っているかのような、微かな不快感。何しろ、彼らは一つの魂を映し出す二枚の鏡なのだから。


「あんた……よく眠れなかったの?」


 カエンは静かに尋ねた。その一瞬だけ、彼女の態度のデカさが消え失せていた。


 レントは無表情に見つめ返した。「お前には関係ない。ここで待ってろ」


 レントは踵を返し、ハンガーラックへ向かった。そして、あの薄汚れた茶色の上着――巨大ドブネズミや上位エリートスライムとの死闘を無言で見届けてきた上着を手に取った。なんの合図もなく、彼はそれをカエンの顔面にめがけて投げつけた。


 バサッ!


「きゃあっ!? なにこの匂い!?」


 カエンはパニックになり、慌ててそれを顔から引き剥がした。泥、酸性の粘液の残りカス、そして汗の匂いが混ざり合って漂ってくる。「レント! あんたの服、死体の匂いがするわよ! 私に汚い雑巾を洗わせる気!?」


「俺の服を洗うと言ったのはお前だ。文句を言うな」レントは平坦な声で返した。


「うぅっ! わかったわよ、他には!? 汚れたシャツはどこ!? 全部出しなさい、一気に片付けてやるから!」


 カエンは指二本で茶色の上着をつまみ、鼻から遠ざけながら文句を言った。


「シャツ? ああ」


 レントは今自分が着ている長袖の白いシャツを見下ろした。昨日一日中着ていたのと同じシャツだ。


 彼は意図的に時間をかけるように、ゆっくりとした動作でシャツのボタンを一つずつ外し始めた。襟元から胸へと下り、はっきりと割れた腹筋があらわになる。そして肩からシャツを引き抜き、上半身を完全に露出させた。


 カエンは固まった。早朝から突然始まった脱衣を目の当たりにし、彼女の目はこれ以上ないほど見開かれた。目の前にある引き締まった胸板の光景を脳が処理するのに、きっちり三秒の時間を要した。


 レントは、信じられないほど誇らしげで腹立たしい薄笑いを浮かべながら、そのシャツをカエンに差し出した。「ほらよ。綺麗に洗え、メイドさん」


 ボッ!


 カエンの顔は瞬時に、熟れたチェリートマトのように真っ赤に染まった。頭頂部から再び架空の湯気が噴き出している。彼女は慌てて、レントの臭い服で自分の顔を覆い隠した。


「あ、あんた! この露出狂! 脱ぐならせめて部屋の中で脱ぎなさいよ、このバカ!」


 汚れた服越しにカエンが叫んだ。声はくぐもっていたが、そのパニックぶりは本物だった。


 レントは彼女の慌てふためく反応を見て、面白そうに鼻で笑った。彼は背を向け、着替えを取るために自分の部屋へ戻ろうとした。


 しかし、彼の手がドアノブに触れたまさにその時、再びカエンの声が聞こえた。今度は叫び声ではなかった。とても小さく、少し震えていて、ぎこちない声だった。


「ねえ……」


 レントは足を止め、肩越しに少しだけ振り返った。


 カエンは顔を隠していた服を少しだけ下げた。頬の赤みはまだ引いておらず、レントの目を見るのを避けるように、廊下の床へと視線を逸らしている。彼女の手は、レントの白いシャツを落ち着かない様子で握りしめていた。


「もし、あんたが……何か問題を抱えてるなら……」


 カエンは呟くように、ほとんど囁きに近い声で言った。


「……一人で無理に抱え込まないでよ、バカ。私に……そうね……話すくらいなら、いつでも聞いてあげるから」


 ドクン。


 レントの紫色の瞳がわずかに見開かれた。その言葉は、悪夢の後に必死に築き上げた精神の防壁の隙間に、正確に突き刺さった。お喋りな自分の半身が、心の中の混沌を読み取ることができると知り、レントの胸の奥で何かが温かくなった。


 レントは数秒間、沈黙した。そして小さく咳払いをし、上がりそうになった口角と、熱を持ち始めた耳を隠すために顔を前に向けた。


「……うるさい。さっさと洗ってこい」


 レントはぶっきらぼうに返し、すぐに部屋に入ってドアをピシャリと閉めた。


 外では、カエンが激しく鳴る胸を押さえていた。彼女は下唇を噛み、突然あんな優しい言葉を口走ってしまった自分の口を呪った。茹でダコのように真っ赤な顔のまま、汚れた服の山を抱え、カエンは足音を荒立てながら足早に廊下を去っていった。


 一方、再び静寂を取り戻した304号室の中……。


 レントは上半身裸のまま、木のドアに背中を預けていた。彼は目をきつく閉じた。ほんの一瞬、夢で見た青いシルエットと緑の木の残像が忘れ去られ、真っ赤になった紫色の少女の顔に塗り替えられていた。


 青年は長く息を吐き出し、肩に乗っていた目に見えない重荷の残骸を手放した。


「ハァ……世話焼きめ」


 レントは小さく呟いた。しかし今度の声は、いつものように平坦ではなかった。そこには、ごくわずかな安堵の色が混ざっていた。

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