表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/39

第31章:精神を削る霧の森(俺の精神じゃないが)

囁きのウィスパリング・フォレストの『霧の地帯ミスティ・ゾーン』への道のりは、予想以上に時間がかかった。奥へ進むにつれ、青葉の木々は、まるでドライアイスの煙のように渦巻く分厚い白霧にゆっくりと覆い隠されていった。視界は急激に狭まり、目の前わずか2メートルしか見えなくなっていた。


『れ、レント様……』レントの肩越しから、モロの震える声が聞こえた。青い毛玉は体の半分を隠している。『僕の魔法センサーがめちゃくちゃです! この霧、危険信号をブロックしています。まるで目隠しして歩いているみたいですよ!』


「落ち着け、毛玉」レントは平坦に返し、湿った地面を安定した足取りで進み続けた。「この光る苔を辿っていけば、洞窟は見つかる」


レントの後ろでは、カエンシスタはもはや傲慢な態度で歩いてはいなかった。彼女の両手はレントのシャツの裾をきつく握りしめている。顔面は蒼白で、その目は霧の向こうの微かな影を警戒して激しく動いていた。


――シューゥッ……。 森の風が吹き抜け、奇妙な囁き声を彼らの頭の中に直接響かせた。


『カエン……お前の姿を見ろ……』しわがれた不気味な声が少女の耳元で囁く。


霧の向こうから、顔の崩れた背の高い黒い影が現れた。その化け物は四角い物体――体重計――を持ちながら、フワフワと近づいてくる。


『体重計は嘘をつかないぞ、カエン……お前は5キロ太った……そのお腹の脂肪のたるみ……ヒヒヒ……』


カエンの目は恐怖で見開かれた。不気味な幽霊の幻影だけでも心臓が止まりそうだったが、『5キロ太った』という言葉は、彼女の精神を完全に破壊する致命的な一撃だった。


「き、キャアアアアッ! いやあああ! 私、厳格なダイエット中なのよ! あっち行け、このクソ脂肪お化け!!」


もはや見栄もプライドも投げ捨て、カエンは前に飛び出し、レントの右腕に全力でしがみついた。少女は激しく震えながら、後ろを振り返ることを拒絶し、青年の肩に顔をうずめた。彼女の柔らかい胸がレントの腕に密着し強く押し付けられていたが、パニック状態の彼女はそれどころではなかった。


レントは足を止めた。怯えたコアラのように自分にしがみつくカエンを見下ろし、それから前を向いた。彼の前の霧もまた濃くなり、一つのシルエットを形成し始めていた。


幽霊でも、モンスターでもない。汚れたエプロンを身につけた、筋骨隆々の中年男性の姿――あのチャーハン屋の親父だ。男は片手に肉切り包丁を持ち、もう片方の手には地面に届くほど長い巻物を持っていた。


『レント・カエンダ……』チャーハン屋の幻影は反響する声で語りかけた。『お前の借金は滞納している……利子は1000%に跳ね上がった……お前の借金は100万銅貨だ……世界の終わりまで皿洗いをしてもらうぞ……!』


レントはその恐ろしい幻影を無言で見つめた。冷たい風が吹き抜け、彼の平坦な顔を撫でる。パニックもなければ、悲鳴もない。そこにあるのは、底知れぬ深い疲労の色だけだった。


「100万銅貨?」レントはシニカルに鼻を鳴らした。「あんたの財務報告書はでっち上げだ、親父。その利子とやらは、俺を一生無給でタダ働きさせるための口実だろ? だいたい、100万銅貨はおろか、俺は50銅貨すら持ってないんだ。それでチャラになるなら、さっさと俺を殺して腎臓でも持っていけ」


レントの絶対的で異常なまでの絶望と論理性を前にして、チャーハン屋の幻影は困惑したようだった。霧は震え、そして空中に砕け散って消え去った。まるで、最初から完全にぶっ壊れている貧困者のメンタルに直面し、幻影のほうが降参したかのように。


「どけ」レントは左手で霧を払いながら平坦に言った。右腕にカエンをきつくしがみつかせたまま、再びのんびりと歩き出す。「あんたの幽霊は馬鹿だな、利子の計算もできないのか」


馬鹿げた幻覚を抜けながら数分歩くと、彼らはついに明るい青い光を放つ岩壁の裂け目を見つけた。反響の結晶エコー・クリスタルの洞窟だ。


洞窟の中には霧が入り込めなかった。静寂に包まれ、岩だらけの鍾乳石が垂れ下がっている。その最奥、高さ3メートルの天井に、青く輝く握りこぶし大の結晶の塊が突き刺さっていた。


「よし、俺たちの100銅貨だ」レントは言った。彼は腕にしがみついているカエンの頭を軽くポンポンと叩いた。「離れろ。幻影はもう消えた。お前の仕事の番だぞ」


カエンはゆっくりと目を開けた。安全な洞窟を見て、彼女は慌ててレントの腕から離れた。自分がどれほど彼に密着していたかに気づき、顔を真っ赤にする。 「こ、コホン! もちろん分かってるわよ!」カエンは気まずそうに咳払いしながらシャツを整えた。天井を見上げる。「でも、あれ高すぎるわ。私のジャンプでも届かない」


「俺の肩に乗れ」レントは片膝をついてしゃがんだ。「お前の方が軽い。さっさと結晶を引っこ抜いて帰るぞ」


カエンはゴクリと唾を飲んだ。「ほ、本当に? 変なところ触ったら承知しないからね!」 「お前の細い太ももなんかより、俺の経済的自由の方がずっと魅力的だ。早く乗れ」レントは嘲笑った。


カエンは恐る恐るレントの肩に跨った。青年はゆっくりと立ち上がり、彼女がバランスを崩さないようにカエンの両ふくらはぎを掴んだ。ふくらはぎの肌に伝わるレントの手の温もりに、カエンの顔は再び紅潮した。今、彼女が下を向けば、レントの顔はすぐ目の前にある。


(私の心臓……なんでこんなにうるさいのよ?! これはただのアイテム回収のフォーメーションじゃない!)カエンはパニックになりながらも、結晶に向かって手を伸ばすことに集中しようとした。


その時、洞窟の床を歩いていたファイア・バンがその光景を見上げた。ウサギの赤い目が細められる。鼻が高速でヒクヒクと動いた。自分のマスターの手が紫の女のふくらはぎを握り、その女が顔を赤らめているのを見たのだ。


「ピュウウウッ!!」(脅威オーラを検知! マスターは俺のものだ!)


何の合図もなく、ファイアは小さな口を開いた。ビー玉ほどの小さな火球が上に向かって一直線に飛び出し、カエンシスタのプリーツスカートの裾を正確に狙い撃った。


――ボウッ! ジュッ!


「キャアアアアッ! 熱っ!」 カエンのスカートの裾が少し燃えた。少女は死ぬほど驚き、反射的にスカートを振り払おうとした。その瞬間、彼女のバランスは完全に崩れた。体が後ろに傾き、レントの上に真っ逆さまに落下した。


――ドンッ!


二人は硬い洞窟の床を転がった。カエンがレントの胸の上に覆いかぶさり、青年の手は岩の衝撃から彼女を守るため、反射的にカエンの腰に回されていた。二人の息が交じり合い、顔の距離はほんの数インチしかなかった。


レントは背中の痛みに顔をしかめた。目を開け、カエンを怒鳴りつけようとしたが、真っ赤に染まり、潤んだ瞳で自分を見つめるカエンの顔を見て、言葉が喉に詰まった。


「あ……あんた……大丈夫?」カエンは消え入るような小さな声で呟いた。


レントは一瞬沈黙し、それから主犯の方へと鋭く首を向けた。ファイア・バンは前足をペロペロと舐めながら座り込み、何もなかったかのように振る舞っている。


「この強欲クソウサギが!」レントはこめかみに青筋を立てて怒鳴った。ウサギの嫉妬心には全く気づいていない。「空腹を我慢しろ! このクエストが終わる前に俺のパートナーを丸焼きにしようとするな! こいつが焼け死んだら、誰が俺の借金返済を手伝ってくれるんだ?!」


ほんの一瞬、そのロマンチックな雰囲気に胸を高鳴らせていたカエンは、即座に不機嫌な顔になった。『誰が借金返済を手伝ってくれるんだ』という一言で、そのロマンスは木端微塵に打ち砕かれたのだ。


少女は慌てて立ち上がり、レントのすねを軽く蹴り飛ばした。「この鈍感男! さっさと死ねばいいのよ!」


しかし、二人がそれ以上口論を続ける間もなく、洞窟の天井から轟音が響き渡った。先ほどカエンが引っ張った結晶が、自然の警報装置を作動させたのだ。洞窟の天井の暗闇の中から、赤く光る無数の目が一斉に開いた。


『ご、ご主人様!』洞窟の外からモロが悲鳴を上げた。『その結晶は、毒霧コウモリの群れに守られています! 奴らが起きました!』


レントは、何百もの鋭い赤い目に埋め尽くされた洞窟の暗闇へとゆっくりと顔を向けた。


「……最悪だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ