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第2章 – 贖罪の契約

その姿は……。


色あせたシルエットが、空っぽの部屋に響くこだまのように、レントの頭の中で渦巻いていた。

曖昧で、見知らぬもの。だがなぜか……ひどく身近に感じられる。


目の前にいる存在の光が薄れ始め、おぼろげな姿を現す――顔もなく、形もない。ただ光る霧のように流れるシルエット。


『汝は、己の一部と共に旅を始めるのだ。より正確に言えば……別の宇宙で生きている、汝の魂の一部と共にな』


レントは眉をひそめた。


「別の宇宙……? 別のバージョン……? 何の話をしてるんだ?」

「あんたの言うことは、一言も理解できない」


『人間はそう呼ぶ。だが現実はより複雑だ。魂とは分割不可能なエネルギーの流れだが、多くの形で反射し得るのだ』

『そして汝の中には……最も強い反射がある。正反対でありながら、一つであるもの』

『彼女は命を持っているが、汝と同じように、その傷は癒やしを必要としている』

『同類にしか理解し得ない傷だ』


レントは唾を飲み込んだ。すべてが、疲れ果てた哲学者の悪夢のように聞こえる。


「待て……俺に別の『俺』と会えって言うのか? 違う宇宙で生きてるっていう?

頼むから、そのふざけた戯言の意味をはっきり説明してくれ!」

「俺はただ死ぬはずだったんだろ? なんでわざわざ生き返らせたりするんだ!」


声が割れた。

胸が苦しい。すべての重圧、憎悪、そして絶望が突然溢れ出した。

彼はシルエットを睨みつけ、声を震わせた。


「俺はもう生きる資格なんてない! 自分のことすら誇れないんだ! 生きることへの勇気すら持てずに……最後には……ただの馬鹿な真似をしただけだ」

「ククッ……(彼は自嘲気味に笑った)本当に馬鹿げてる。もし俺があんな行動を起こさなければ、ここであんたと会うこともなかったんだからな」


沈黙。

返事はない。後悔と憎悪の奔流は、すべて吐き出してしまった。


存在は答えない。ただ静かに彼を見つめている。

だが、レントは感じていた……温かさを。裁くわけでもなく、慰めるわけでもない。

ただ……そこに『いる』という感覚を。


やがて、その声は告げた。


『だからこそ、汝が選ばれたのだ、レント・カエンダよ』

『汝は完璧な魂ではない。だが、その脆い魂を虚無に委ねることを拒んだ』

『一生の偽りよりも、一瞬の勇気の方が純粋だからだ。

死を望みながらも、それでも他者を救うことを選んだからだ。

魂がひび割れていようとも、汝はまだ愛することができるからだ……

……たとえ、それが自分自身に対してでなくとも』


レントは目を閉じた。

まだその言葉のすべてを否定したかった。

叫んで拒絶したかったが、できなかった。


ただ、温かい静寂だけを感じていた。

自分が微かに震えていることすら気づかなかった。

これが魂の反応なのか、死の夢なのかは分からない。だが、痛みはリアルだった。


「あんたが誰だろうと知ったことか。でも……なんでだ? なんで俺なんかのことを気にかける?

俺はただの愚か者だぞ!」

「それに……(手のひらを見つめながら)なぜか……何かが間違っている気がするんだ」


『正しいも間違いもない。あるのは汝の信念だけだ、レント・カエンダ』

『耐え抜く信念。歩み続ける信念。そして、前を見据える信念』

『これまで汝を動かしてきたのは、誰でもなく、何でもない。純粋に汝自身の中から生まれたものだ』

『それが『意志』だ、レント・カエンダ。汝の中にある小さな残り火……それこそが汝自身の意志なのだ』


「残り火……? 意志? 俺は……うっ」


『今はまだ完全には理解できないだろう。だがいつか、その残り火は再び燃え上がる』

『ゆっくりと完全な姿を取り戻し、汝自身の空虚を満たすだろう』

『そして、失われたものを汝の元へと返すのだ、レント・カエンダ』


存在からの温かい声のこだまが、沈黙を心地よい温もりへと変えていく。

ほんの一瞬だが、心に平穏と安らぎをもたらすには十分だった。


『汝は再び学び、己の命の意味を理解するだろう。そしてその場所が、汝を導くはずだ』


レントは顔を上げ、白いシルエットの奥深くを見つめた。

「場所? 何の場所だ?」


光がレントを包み込み始めた。体が温かくなる。冷たい虚無感が消え去り、代わりに重み……そして重力の感覚が蘇ってくる。


『汝は別の世界へと送られる。奇跡に満ちた世界へ』

『魔法と神秘、そして未知の傷に満ちた世界へ。

かつての世界とは大きく異なるその場所で、汝は探し求めている答えを見つけるだろう』


『そこで、汝は彼女と出会う。もう一人の自分に』


『だが覚えておきなさい。

彼女はただの鏡ではない。

彼女もまた、傷ついているのだ。

そして彼女もまた、愛することを学ぶだろう……汝を』


『これは世界を救う物語ではない。

汝らが、互いを救い合う物語なのだ』


静寂が深まる。

レントの目の前で、存在の光がゆっくりと明滅し始めた――弱まっているのではない。最後のメッセージを伝え終え、消えようとするロウソクの炎のように。


虚無の空間が微かに震える。置き去りにされる世界の、最後の吐息のように。

存在は少しだけ輝きを増し、目も顔もないまま、レントの魂の奥底を真っ直ぐに見つめているようだった。


『すべてが変わる』

『だが、汝の奥底にあるものは変わらない。その傷は汝と共にあり続けるだろう。汝自身がそれを癒やすと決めるその時まで』


レントは俯いた。

心はまだ恐怖で満ちている。だが今、ほんの少しの……小さな信念が芽生え始めていた。たとえその理由が分からなくとも。


存在が震えた。まるで声を出さずに微笑んでいるかのように。


『ならば……新しき世界を汝に託そう。これは誕生だ……忘れるためではなく、理解するための』


レントの周囲の光が渦を作り始めた。

方向を持たなかった白い壁に亀裂が走る。

虚無から風が吹き込む。まるで、この静寂の宇宙が新たな息吹を吐き出し始めたかのように。


レントの体がゆっくりと浮かび上がった。

宇宙の子宮の中を漂っているような感覚――ただ場所を移動するだけでなく、存在の意味そのものが移行していくような。


『己を探しなさい』

『彼女を見つけなさい。汝と同じように傷ついた彼女を』

『そして……自分が何者であるかを忘れてはならない。汝自身について。やり残したすべてのことについて……

汝はそれを成し遂げるのだ』


『異邦の魂、レント・カエンダよ。さらばだ』


自分の手が透け……そして変化していくのが見えた。

服が消え去る。恐怖が込み上げた――だがすぐに、好奇心に飲み込まれた。


「別の世界……新しい命……」

意識が遠のき始める中、レントは呟いた。

「まだ怖いさ。でも……くそっ。こうなっちまったら、もう選択肢なんてないんだろ?」

「やり残したこと……あぁ、もうどうでもいい。自分の運命なんざ、とっくにどうでもよくなってるんだからな」


光が爆発した。白が痛いほどの眩しさに変わり、そして……落下した。


――ヒュウウウッ!


風が顔に叩きつける。白い光が消え、突き刺すような青に変わる。レントは高空から自由落下し、そして……


――ドスッ!


彼は草地に激しく着地した。だが、痛くない。体はまるでクッションのように柔らかく受け止められ、軽く、以前よりもずっと清々しかった。


目を開ける。

空が……青い。信じられないほど青い。今まで見たどんな空よりも。

雲は奇妙な形に固まり、まるでおとぎ話の絵画のようだ。

色鮮やかな紫色の奇妙な鳥たちが、二層の翼を羽ばたかせて飛んでいる。


周囲の空気は全く違っていた。

甘く、澄んでいて、温かい。


レントは数秒間黙り込み、脳に流れ込む視覚データを処理した。


この世界は……美しい。圧倒的に美しい。だが同時に、ひどく見知らぬ場所だ。


周囲には広大な草原が広がり、青緑色の花々が咲き乱れている。

遠くには、城ほどの高さがある巨大な木々がそびえる森。反対側には、空に向かってそびえ立つ白い石の塔のシルエットが見えた。


レントはゆっくりと立ち上がった。胸を探る――ナイフの刺し傷はない。

血もない。息苦しさもない。


彼は生き返ったのだ。自分のものとは違う世界で。


「おいおい……冗談だろ」

彼の呟きははっきりと響いた。

「なんであの神様はあんなに頑固なんだ? 俺はただ消えたかっただけなのに」


彼は周囲を見渡し、全く見知らぬ異世界で目覚めた自分自身を客観視した。


「はぁ……」

レントは長くため息をついた。彼の昔の癖が、再び戻ってきたのだ。

「少なくともここは……色に溢れてる。目がチカチカするくらい明るい色にな」


柔らかな風が吹き抜け、彼の黒髪と、頭頂部にある一本の『アホ毛』を揺らした。


生きることを諦めかけて以来初めて、レントの口元に薄い――ごくわずかな笑みが浮かんだ。

それは怒りでも喜びでもない……ただ、これが運命の新たな悪ふざけなのだと感じたからだ。


「変な神様だぜ……ふん」

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