第13章 – 借金返済のためのギルド行き。背後に迫るラベンダーの香り(ストーカー)
レントはアルヴィア亭の門から慎重に足を踏み出した。
目は左右に警戒して動き、まるで警察の追跡から逃れる逃亡者のように辺りをスキャンする。右隣の建物の二階の窓――ルナ・マナーを見上げた。 固く閉ざされている。カーテンも揺れていない。
正面の通りを見る。露出度の高い服を着た紫色の髪の少女の気配はない。
「よし、安全だ」レントは安堵の息を漏らした。「まだ寝ているか、美容の儀式にでも忙しくしてるんだろう」
彼はジャケットの襟を少し立て、ルメリアの街の朝の人混みに紛れ込もうとした。
「どっちだ、モロ?」レントが囁く。
『中央広場に向かって真っ直ぐです、ご主人様! 黄金の剣の紋章がある一番大きな建物です!』
レントは歩き出し、人の波に溶け込んだ。商人、冒険者、そして普通の市民が行き交っている。レントはこの匿名性の中に少しの居心地の良さを感じていた。誰も自分を知らない。誰も自分を邪魔しない。
しかし、彼は知らなかった。
彼の約二十メートル後ろ。リンゴ売りの荷車の影。街灯の柱の陰。 一対のアメジストの瞳が、彼のすべての一歩を監視していることを。
カエンシスタ・サイチは寝てなどいなかった。彼女は今、ハンター(狩猟)モードだったのだ。
「ほぉ……」カエンシスタは、パン屋のテントの影に隠れ、クロワッサンを片手に静かに呟いた。
「青白い鏡さんは、どこかへお出かけかしら?」
彼女はパンをかじる。――サクッ。 その唇には悪戯っぽい薄い笑みが刻まれていた。
「私を誘わないなんて。なんて失礼な奴。私たちには、50銅貨という『神聖な借金の絆』があるのに」
レントは歩き続け、時折立ち止まっては掲示板の街の地図を見たり、通り過ぎる馬車を避けたりした。 レントが立ち止まるたびに、カエンシスタも立ち止まる。その動きはしなやかで、人混みに完全に溶け込み、まるで人間たちの間を踊る紫色の影のようだった。
誰かに見られているような気がしてレントが振り返ると……――スッ! カエンシスタはすでに巨体のオークの背中へと素早く姿を隠していた。
「モロ」石橋を渡りながら、レントは静かに呼んだ。「気のせいか? それとも俺の背中を刺すような冷気があるのか?」
横を飛んでいたモロが回転し、後方をスキャンする。(想像上の)鼻をクンクンと嗅ぎ回った。
――クンクン。
『ふむ……異常を検知しました、ご主人様!』モロが報告する。『強烈なラベンダーの香りに、焼きたてのパンの匂いが混ざった痕跡があります! 半径30メートル以内でシグナルが点滅しています!』
レントは眉をひそめた。「ラベンダー?」
彼はもう一度振り返った。そこには見知らぬ人々の群れがあるだけだ。紫色の髪はない。突き出たアホ毛もない。
「ああ、もういい」レントは手を振ってパラノイアを振り払った。「ただの香水売りの行商人だろう。お前は少しパラノイアすぎるぞ、毛玉。俺を怖がらせるな」
『でもご主人様、僕のセンサーは滅多に外れ——』
「黙れ。もうすぐ着く」
レントは再び歩き出し、通りの突き当たりに見え始めた壮大な建物に向かって足早に進んだ。
遠くから、ターゲットが歩調を速めるのを見て、カエンシスタは楽しげに微笑んだ。
「走れ、走れ、鏡さん」彼女は目を輝かせながら囁いた。「逃げれば逃げるほど、追いかけたくなるのよ」
彼女は隠れ家から足を踏み出し、剣と盾の紋章が掲げられたその巨大な建物へとレントの跡を追った。
「冒険者ギルドね? 退屈で汗臭い場所だけど。あなたがいるなら……少しはマシな暇つぶしになるかもね」




