第11章 – 50銅貨の借金と、私の名前を『宿す』鏡さん
「断る」 レントはスプーン一杯のチャーハンを口に運びながら答えた。「お前のその馬鹿げた予言を信じる気はない」
レントは咀嚼したものを飲み込み、目の前の少女を鋭く睨んだ。 「それに、これ以上俺に関わらないでくれ。これが最後の出会いだったってことにしておこう、カエンシスタ嬢」
カエンシスタはスプーンを少しの間置き、面白そうに鼻で笑った。 「ちょっと、鏡さん。誰があなたなんかに関わりたいって言うのよ? ハァ……これもあの『古い哲学者』のせいだから、仕方なくよ。少なくとも今はね」
「ハァ……勝手にしろ。とにかく、その馬鹿げた予言に俺を巻き込むな」
二人の人間の口論の傍らで。 レントの隣の席では、毛玉のモロが食べ物の存在を消し去る作業(食事)を行っていた。宙に浮いたスプーンでチャーハンをすくい、口へと運ぶ。しかし、基本的にモロには口が見えず、顔の作りものっぺらぼうであるため、宙に浮いたチャーハンは丸い体の奥へとスッと消えていくように見えた。
『モグモグ! 無料のセットにしてはなかなかイケますね!』 モロは頬(?)に食べ物をつけながら言った。
レントは横目でモロをチラリと見た。チャーハンがその丸い体に触れた瞬間、跡形もなく消え去るのを確認する。 (この生き物……どこから食べてるんだ? 食べ物が近づくたびに、跡形もなく消えるだと?) レントは心の内で呟きながら、モロを横目で見続けた。
しかし、レントはすぐに首を横に振った。彼の論理的な脳に、これ以上非論理的なものを処理させる気はなかった。
十五分後……。
「お会計だよ、兄ちゃん!」 屋台の店主――油まみれのエプロンを着けた中年男――が、エプロンで手を拭きながら突然彼らのテーブルに近づいてきた。
「クーポンが使えるのは普通のチャーハンだけだからな。それにクーポンには『二人前まで』って書いてあるだろう。このお嬢ちゃんが注文した飲み物と特大の特盛り肉追加分で……合計50銅貨だ」
沈黙。 涼しい朝の風が、突然レントの首を絞めつけるように感じられた。
レントは店主を見つめた。次に、一切の残りかすもなくピカピカに磨き上げられたカエンシスタの空の皿を見つめる。そして、カエンシスタを見た。
少女は顔を背け、テントの天井の模様がまるで名画であるかのように見上げながら、無邪気に口笛を吹いていた。
レントのこめかみが少しピクつき、彼は再び目の前の店主を見た。
「に……二人前?」レントはかすれた声で尋ねた。 「そうだ、兄ちゃん。あんたのペットも食ったから、全部で三人前だ」
レントはモロをチラリと見て、同じく何の痕跡もなくピカピカになっているその毛玉の皿を見た。 レントはズボンのポケットに手を入れた。空っぽだ。あるのは糸くずと貧困の埃だけ。
トウモロコシの粒ほどの大きさの冷や汗が、レントのこめかみを伝い落ち始めた。
(くそっ。終わった。異世界に来てまだ一日目だぞ。チャーハンのせいで犯罪者になるなんて)
「えへん」レントは咳払いし、心臓が激しく鼓動しているにもかかわらず、冷静を保とうとした。「あのですね、店主さん……。現在、私の金融資産の管理に少々技術的な問題が発生しておりまして……」
店主は目を細め、腰に下げた大きな肉切り包丁の近くへと手をやった。 「つまり……金がないってことか?」店主のこめかみもピクついた。
「技術的に言えば、その通りです」レントは無表情のまま正直に答えた。「先ほど、アライグマの泥棒に財布を盗まれまして」
――ブフォッ!
カエンシスタの肩が激しく震えた。少女は両手で自分の口を塞いだ。 その馬鹿げたアリバイ。つい五分前、静かな路地で彼女自身が使ったのと同じ言い訳だ。
自分と同じように、無実のゴミ漁りのアライグマをスケープゴートにしたのだ。
「ププッ……アライグマって……私の言い訳をパクってる……」カエンは指の隙間から呟き、笑いをこらえて涙目になっていた。「素人のパクリ野郎……」
「ハァ?!」店主が目をひんむいた。「金がないのに肉の特盛りを頼んだのか?! 詐欺か?!」
「俺が頼んだんじゃありません」レントは親指でカエンシスタを指差した。「その主犯格が頼んだんです」
「ちょっと!」カエンシスタは納得いかないように睨みつけた。「鏡さん! 責任逃れする気?!」
空気が殺気立った。他の何人かの冒険者もこちらを振り向き始める。皿洗いの刑に処される前に、この場を収めなければならないとレントは悟った。
「払います。でも今すぐではありません」レントは早口で言った。「昨日この街に着いたばかりで、まだ仕事がないんです。時間をください」
店主は鼻息を荒くした。「よくある言い訳だな。なら、担保を置いていきな!」
「担保?」レントは困惑した。高価なものなど何も持っていない。
「身分証だよ! ルメリア・パスだ!」店主が怒鳴った。「貸せ、ツケの台帳にお前のID番号を記録しておく! 三日以内に払わなけりゃ、ギルドに突き出すからな!」
レントは諦めのため息をついた。「……分かった」 レントはゆっくりと内ポケットを探り、昨日手に入れたばかりの小さな銀のプレートを取り出した。
『ルメリア・パス』
彼はそれをベタつく木のテーブルの上に置いた。 朝の太陽の光が、そこに刻まれた名前をはっきりと反射した。
最初から気にしていないふりをしていたカエンシスタが、横目でチラリとそれを見た。最初はただ、この「鏡さん」のステータスがどれほど悲惨なのかを知りたかっただけだ。
しかし、そのカードの文字の羅列を捉えた瞬間、彼女の目は見開かれた。
名前:レント・カエンダ
身分:異境の冒険者
カエンシスタは言葉を失った。口が少し開いている。 「カ……エン……ダ?」少女はゆっくりとスペルを読んだ。
レントが顔を向ける。「なんだ?」
カエンシスタは、何とも形容しがたい表情でレントを見つめた。驚き? 面白さ? それとも感嘆?
「あなたの名前……」カエンは震える指でそのカードを指差した。「レント……カエンダ?」
「ああ、俺の名前だ。何か問題でも?」レントはぶっきらぼうに答えた。
突然、カエンシスタの口角がピクピクと動いた。少女は笑いをこらえきれず、肩を揺らした。
「プッ……アハハハハ!」 彼女の笑い声が再び弾けた。今度は先ほどよりもずっと大きく。
「カエンダ? マジで? カエン・ダ?!」 カエンシスタはお腹を押さえながら笑った。「やだもう! バカみたい! 宇宙でさえ、まともな名前を付けるのをサボったのね!」
レントは眉をひそめ、なぜ彼女が笑っているのか理解できなかった。 「何が可笑しい?」
「気付かないの?」カエンシスタは目尻の涙を拭った。彼女は身を乗り出し、満面の笑みでレントを見つめた。
「私の名前はカエンシスタ。あなたの名前はカエンダ」 彼女は自分の胸を指差し、次にレントの胸を指差した。
「私の名前が……あなたの苗字の中に『入ってる』じゃない、鏡さん」
レントは沈黙した。脳がその情報を処理する。カエン……カエンダ。 「あ……」レントはようやく気付いた。
カエンシスタは、今世紀最大の秘密を発見したかのように、勝ち誇った笑みを浮かべた。 「ほらね? 私が言った通りでしょ? あなたは私のものなのよ。名前でさえ、すでに私を『宿してる』んだから」
レントの顔が瞬時に熱くなった。怒りからではない。その言葉の響きが、あまりにも……エロチックに聞こえたからだ。
「た、ただの音声的な偶然だ、馬鹿!」 レントは言い返し、記録を終えた店主の手からカードをひったくった。
「記録したな? 行くぞ」 レントは立ち上がり、耳を真っ赤にして早足で屋台を出て行った。
彼の背後で、カエンシスタはまだクスクスと笑いながら、機嫌よく軽い足取りで彼を追いかけていた。頭の上のアホ毛が嬉しそうに揺れている。
「待ってよぉ〜、カエン・ダさ〜ん!」
ルメリアの街はますます賑やかになっていた。晴れ渡る朝、多くの商人や子供たちが走り回っている。 しかし……。
本来なら清々しいはずの朝が、レントにとっては正反対だった。 白い服を着た青年は人混みの中を歩いていた。その目は、まるでギャンブルで全財産をすったばかりの敗者のように虚ろに前を見つめている。彼はたった今、自分の人生のリストに「借金」という項目を追加してしまったのだ。
本来なら自分が背負うべきではない負債を。 だが、宇宙(運命)は再びレントの運命を弄んでいた。
ずっとレントの横を飛んでいたモロが振り返る。まるで目的のない無言の生ける屍のような主人の姿を見て。 『ええと……レント様?』
レントはピクリともせず、ただ真っ直ぐ歩き続ける。 『もしもーし? ご主人様、まだ……ここにいますよね?』 モロは丸い体でレントの頬を軽くつついた。それでようやくレントは我に返った。
「なんだ、毛玉」レントは横目で見ながら答えた。 『何をボーッとしてたんですか? てっきり……魂が肉体を抜け出して天国に行っちゃったのかと思いましたよ』
レントは少し立ち止まり、深くため息をついた。 「できることなら、ここに着いた最初からそうしたかったよ、モロ」と皮肉る。
彼は再び歩き出した。しかし……。 彼の耳が、すぐ後ろから別の誰かの声を捉えた。
――フン〜フン〜フン〜フン〜♪
少女の鼻歌だ。彼にこの世界で初めての借金を背負わせた、あの少女の声。 振り返らなくても、その声の主が誰かは分かっている。 たった今、他人に50銅貨の借金を背負わせた直後に、こんなに陽気に鼻歌を歌える人間なんて、この世界に――いや、全次元を探してもただ一人しかいない。
レントは歩くスピードを速めた。 ――タッタッタッ。 後ろの足音も速くなる。鼻歌も大きくなった。
レントは歩みを遅める。 ――スッ……。 後ろの足音も遅くなる。鼻歌はリラックスした口笛に変わった。
レントはピタリと立ち止まった。沈黙。後ろの音も完全に止まった。
レントのこめかみに怒りの青筋が浮かぶ。彼は180度踵を返し、自分の人生の元凶と真正面から向き合った。
「なぜ……」レントは紫色の髪の少女を鋭く睨みつけた。「……まだ俺についてくるんだ?」
カエンシスタは彼の約二メートル後ろに立っていた。両手を後ろでゆったりと組み、少し前傾姿勢になって、わざとらしく無邪気なポーズをとっている。
「ついていく?」 カエンは首を傾げた。頭の上のアホ毛も一緒に傾き、まるで人を小馬鹿にしたような疑問符の形になる。 「自意識過剰じゃないの、鏡さん。この道はルメリアのメインストリートよ。たまたま私の帰り道もこっちなだけ」
「たまたま、だと?」レントは目を細めた。「この街にある無数の道の中で、お前は未練がましい幽霊みたいに俺の背中に張り付かなきゃならないとでも言うのか?」
「未練がましい幽霊?」カエンシスタは小さく笑った。軽やかだが、最高に腹立たしい笑い声だ。「ちょっと言わせてもらうけど。幽霊はこんなに美人じゃないわ。それに、幽霊はたった今、特大チャーハンを完食したりしないのよ」
少女は一歩前に踏み出し、レントの横を通り過ぎようとした。肩がすれ違う瞬間、カエンは薄い笑みを浮かべて横目で彼を見た。
「それに……誰かさんが借金の計算をするのに助けが必要かもしれないでしょ? あなた、数学が苦手みたいだから」
レントはズボンのポケットの中で拳を握りしめた。 (落ち着け、レント。別次元の自分自身を殺すことは、殺人になるのか、それとも自殺になるのか?)
「モロ」レントは静かに呼んだ。 『はい、ご主人様?』 「後で耳栓を買うのを忘れないようにメモしておいてくれ」
レントは再び歩き出した。今度はわざと、少女の後ろを五歩離れて歩く。少なくとも、耳元で彼女の無駄話を聞くより、彼女の背中を見ている方がマシだった。
パン屋を通り過ぎる。少女はまだそこにいる。 鍛冶屋を通り過ぎる。少女はまだ同じ方向へ進む。 宿泊区の入り口、アルヴィア亭の門を曲がる。少女も同じように曲がった。
レントの中で、悪い予感が火災報知器のように鳴り響き始めた。
「待て」 レントが呟き、アルヴィア亭の木製ゲートの前で足が止まる。
彼の前で、カエンシスタは立ち止まらなかった。少女はそのまま真っ直ぐ歩き続け、アルヴィア亭のゲートを通り過ぎ、そのすぐ隣にある赤レンガの建物へと曲がって入っていった。
『ルナ・マナー』
レントは固まった。少女が隣の建物のドアの向こうに消えていくのを見て、二度瞬きをした。
『あの人……隣に住んでるんですか?』モロが小さく声を上げる。
レントの肩から一気に力が抜け、安堵が広がった。酸素が再び彼の肺に流れ込んでくる。
「よかった……」レントは長くため息をついた。「ただの別の建物の隣人か。経営も別。壁も別だ」
彼はルナ・マナーの入り口を勝利の眼差しで見つめた。
「少なくとも、この建物間の分厚い壁は、俺の人生からあいつの存在をブロックするのに十分な厚さがあるな」
【作者より】
今回はレントの借金生活とカエンシスタの食欲が止まらず、予定よりも文字数がドカンと増えてしまいました(笑)。
スクロールで親指を酷使させてしまったスマホ読者の皆様、本当に申し訳ありません!
次回からはもう少し親指と胃に優しい「通常盛り」でお届けする……予定です!(たぶん)
引き続き、二人のドタバタな日常を楽しんでいただければ幸いです!




