何って何?
「…
言葉を失った射馬爽の目は 左を見 右を見る。
薄情な男を成敗し、其の醜態を楽しんだ誰かが、「ドッキリでした」と書かれたプラカードを掲げて現われる ―
いや、何で男だよ
其れなら、とびっきりの美少女を用意するべきだ。其れとも、奇をてらって此の薄幸の美少年なのか。
緊張の面持ちで構えるも 月夜は静かに過ぎてゆくばかりで
「… あの?」
不思議そうな顔で爽を見る少年の声に我に返った。
「何だよ?ウッセーな」
狼狽えた自分が恥ずかしくなり 言葉は更に突っ慳貪になる。
「あの、ですから」
「好きって何かって?知るか」
「駄目です!ちゃんと答えて下さい!」
真面目で素直そうな姿其の儘に 少年は正義感の強い学級委員口調で追い込んで来た。
「はあ?何ソレ。つか、オマエマジで誰?」
「僕ですか? 僕は … そんな事はどうだって良いんです!」
「ああ?きったねーぞ。テメーこそ答えろよ!」
「先に質問したのは僕なんです!だから貴方が先に答えるべきです!」
確かにそうだ。
「ウッゼ。さっさと家に帰れ、ガキが」
とは言え 「好き」とは何か、と言う議題で 夜更けに見知らぬ他人と論じ合いたくもない。
「答えてくれるまで帰りません!」
「あっそ。じゃ、公園と同化してろ」
鞄を肩にかけ直して、歩き出した所で
「帰らないで下さい!!」
華奢な見掛けに因らない馬鹿力で鞄の紐を引っ張られ 後に倒されそうになった。
「バカ!!危ねーだろが!」
「質問に答えて下さい」
「あのな!!だから … !!」
真っ直ぐな純情に 自身の汚れた「心」は是れ以上耐えられそうになかったが 爽が答える迄、此の少年は決して諦めない不屈の精神を持っている。
「余り時間がないんで、手っ取り早くお願いします」
「…」
何と勝手な言い草か。手短に済ませて貰いたいのは此方の方だ。
「… ああークソ!!マジでウゼぇ!!
「分かったよ!!好きってのは ―
― 爽の事、好きだよ 好き だけど
「… 旨いとか、おもしれーとか 後は」
「違います。僕が言ってるのは、恋愛的な事です」
だけど、何?
「…
分かっている。最初から 此の少年の質問の意味は分かっていた。
だが
何故 こんな質問に答えなければならない?言葉にした所で 何の意味もない。
「好き」 なんて言葉は 何処にでも溢れていて 誰にでも言える ―
― 「だけ男」なんだよね
顔だけ
「… ずっと見ていたい、離れたくない、声を聞きたい 思うだけで心が切なくなる 相手の事をもっと知りたいと思う … えーっと
スマホで検索しながら 爽が淡々と答えるのを
少年は成程、成程と頷きながら真剣に聞いている。そうして
「分かりました」
「そ。良かったな」
「はい!」
星の煌めきにも似た笑顔の果てに
「僕 貴方が好きです!」