ラッキースター
「何でって聞くのは何でですか?
「居たらいけないんですか?」
学校帰りに偶々立ち寄った小さな本屋で、戦いて立ち竦み 本から目を離せずに食って掛かる。
真横に立って「自分」の顔を覗き込んで来る相手の顔を直視出来ないからだが
「あれー?眼鏡クン 何で此処に居んの?」と言う問いかけに答える義理はない。
瓶底眼鏡ってあるよな。
あれを何層にも重ねたら 心を映した目は相手に見えず 又 「自分」も相手の目が見えないので、余計な気を回す必要も無くなるだろう 等と、脳は早速現実逃避を試みている。
「何でって、別に
「居ても良いけど、何してんのかなーって思って
「眼鏡クン 占い好きなんだ」
宮原怜勇の言葉に どっと変な汗が噴き出した。
「… え?いや?全然 …」
手に取った雑誌を立ち読みしていたら 自然 占いのページに来ただけで、何もやましい事は ―
「ふーん?」
からかい甲斐がありそうだ とも聞こえる様な声音で返され、心拍数が跳ね上がった。
其処へ
「おーい、怜勇ー?欲しかったモンあったのかー?」
「あっつーい。もうヤダー。此処全然クーラー効いてないしー。早く出よーよぉ」
「次何処行くー?」
低い本棚に挟まれた通路に居る派手やかな級友達から 暑さを凌げる行き先の提案が騒々しく持ち上がり
「うん。あった
「そんでさー、ちょい相談なんだけど
宮原怜勇は早藤月彦の傍から歩き去って行った。
待望の静寂が再び戻って来たのに 安堵する反面、心の何処かで感じている寂しさを一喝する為に罵倒する。
何でこんな所に来るんだよ
場違いも甚だしい上に、迷惑でしかねーわ!
そうして ふと 宮原怜勇は何座だろうかと言う探究心が芽生えた。
態度も図体もデカい此の男は ― 牡牛 か 意表を突いて乙女座かも知れない。女装したバスケ部の少年を思い浮かべて噴き出す。
待てよ
怜勇、か レオ … ライオン 獅子座
「そうそう、獅子座の怜勇くん」
指で獅子座の項目を差す月彦の人差し指に 一回り大きな人差し指が並んだ。
「まだ居んのかよ!!」
一人芝居を見られた恥ずかしさは、どれだけ穴を掘っても埋め尽くせない。
「うん。居る。居たら悪い?」
「ぐっ …!!」
先程の自分の言葉が、ブーメランになって攻撃して来た。斯くなる上は ―
赤面した顔を雑誌で覆い隠して 無に徹する。
「無」だ。「無」になれ。お前は石像だ。
占いで、普段行かない様な場所にツキありって出てたから
そう言って、宮原怜勇は無造作に店内を見回す。
「本屋に来てみたら 眼鏡の《《ツキ》》彦クンが居たってワケ」
くそお 改名してぇ!
「ははは …」
ツキと月をかけた怜勇の言葉を乾いた声が笑い飛ばす。
「何でそんな占い好きなの?」
「…」
「何時もロッカーの番号めっちゃ見てるよな。あれってラッキーナン
おいコラあ!やめろやめろ!!
「あ、姉が!!姉が居るんで!!」
思いがけず 陰気な眼鏡の少年が声を荒げたので 遮られた怜勇の言葉は其の儘、消失した。
「姉が … 昔っから、何でも強引に決めるから
「いつも言いなりで
「何か、自分で物事を決められなくなったってゆーか」
何で 此奴にこんな話
「そーなんだ
「じゃあ何処行く?」
「… は?」
宮原怜勇から突拍子もない台詞が出て来た。
「腹減ったしさー、何か食べに行こ?」
「え、いや 何其の無茶振り」
「行き先。眼鏡クンが決めて?」
ヤバ過ぎる笑みを見せられた月彦は動転しながらも
今日のラッキーフードは確か
占いの記憶を必死に手繰り寄せていた。