遙かな星の下で
入場の順番が来た時だった。
「はい、次の方~!あ、中学生の方は無料で大丈夫ですよ~」
入場ゲートのスタッフがにこやかに対応してくれたが
「中学生じゃありません!高校生です!」
友人にキャラクターショーに誘われて来た 榛名遙音はムキになって声を荒げた。
「馬鹿だなー、黙ってりゃタダで入れたのに
「オマエ小っこいし、ぜってーバレねーから」
「るっさい!将宗の癖に!」
「はいはい、ゴメンね~。武将から付けられた名前で」
少しばかり低めの身長と、細くて頼りない体付き 純心を抱いて成長が止まったあどけない顔 ― 子供どころか、女子に間違われる事すらある。
件のキャラクタショーは、巷で人気のキャラとあって 同年代の学生から正真正銘の子供、大人まで幅広く来場していた。
「うわあ~!!スッゲー!」
「ほら、見ろよアレ
其のキャラクターショーに澄んだ目を輝かせ、感嘆の声を上げては人の服の袖を引っ張る級友が 子供じゃない、とは迚も思えない。
初夏の朝陽が降り注ぐ通学路。自転車に乗った学生達が二人の脇を通り抜け はしゃぐ声は、流れる様に過ぎ去ってゆく。
「ソレ昨日買ったヤツ?」
「うん。そう♪」
遙音の鞄に、昨日のキャラクターショーで販売されていたストラップが付いている。其の嬉しそうな顔がまた子供らしい。
「何付けてんの~?はるたん」
「あ、可愛い!!」
「星の子LOVERSだー」
クラスの女子が顔を覗かせに来る。遙音は完全に「男」と見なされていないのか、可愛い弟的存在なのか 女子達とは普通に仲が良い。
「お」
LINEの着信音に、ポケットからスマホを取り出す。
「カノジョから?」
「うん。今日の放課後映画行こうってさ」
「いいなぁ。映画デート
「俺もカノジョ欲しい」
「え … いや、まあ うん」
「何だよ!」
異議を唱えられても、遙音の恋人になる女性を頭に思い描けないのだから仕方無い。
「俺も可愛いカノジョが欲しい!」
そうやって力説する姿の方が余程可愛らしいが。
「可愛いってどんな?具体的には?」
「んー。背は低めで
遙音より低いとなると 嘸 初々しいカップルが出来上がる。
「髪は短い方が好きかな
其処へ
突然辺りがざわついた。
学生達の賑やかな声は通学路の端に追いやられ 忌まわしい者の通り道が開ける。
「あれ、二年の南 天河じゃね?」
去年の夏休み 友人らとツーリングの最中に事故に遭い、其の儘植物人間になったと聞いていたが ―
「えー、治ったんだ」
「噓だろ。超人かアイツ」
素行不良で度々停学になる様なワルだった。悪い噂は何時でも此の少年に付きまとっている。
コソコソと囁かれる声に、歓迎のムードはない。
「お菓子とか作るの好きで 言うなら犬系女子
遙音は振り向きもせず 好みを挙げ連ねて、歩いて行く。外見に似合わず豪胆なのだ。
「遙音!」
其の遙音に天河が後から抱きついた所為で ざわめきは「運命がドアを叩く音」に乗って、より一層盛り上がった。
事故の噂話で存在は知っている。其れだけの筈だったから
「わーーー!!?何?!
「え?犬?
遙音の絶叫は最もだと思った。