幸運少年
「ヤバ。死ぬ」
柳木高晶は自転車を駐輪場に停めると ギラギラと光る太陽を見上げ 冷房の効いた複合施設の中に入って行った。
特に用は無い。熱中症になる前に涼みに来ただけだ。
袖で顔の汗を拭き 前立てを掴んで、体に貼り付いたシャツを引き剥がす。
自然 様々な暑さ対策グッズを目立つ位置に並べた均一ショップに目が留まった。
足は引き寄せられる様に向かって行く。
其の儘、ぶらぶらと物色して回り キャラクター商品の棚の前に出た。充実した品揃えに感心しきり ふと ポケットから家の鍵を取り出す。
鍵に付けているキーホルダーもそろそろ寿命だ。来た序でに買っておこう。
興味のないアニメキャラでも 絵柄があると目に付きやすいので重宝する。
どうせなら当たりが欲しい所だが 適当に上から取る。
深読みすれば、自ら作り上げた迷路に入り込んで疲弊するばかりか 悩み抜いた挙句、結果にガッカリさせられるのも茶飯事。
人間関係と同じだ。
上辺だけで十分。深入りしなければ、傷つく事も無い。心を開く気もないし 心を開いてくれなくて結構。
薄情者、と言われる位の軽傷で済む方がまだマシなのだから。
ゲームのキャラクターか
赤に青、黄色と派手目の絵柄は選択として悪くない。
手を伸ばしかけて 下に人が座って居る事に気が付いた。
金髪に黒ジャージ。如何にも、な感じなのに アニメに興味があるのかと内心驚いた。
下段の棚の上にトレーディング系のグッズを並べて一心に吟味している。
ガン見じゃん
商品を選ぶ振りをしつつ、さり気なく顔を盗み見た。キャラグッズに何も其処まで本気にならなくとも ―
強い思いを秘めて 真っ直ぐに見る
黒い眸の中に在る 透き通った心
そんな目で見つめられたなら
「… !!
視線に気が付いた金髪の少年が、不意に顔を上げ ―
「何此のヲタグッズ」
「… 知らん」
「知らんもんをこんな買って来るって何」
授業が始まる前の 怠惰な時間。
射刺す様な夏の白光を浴びた机の上には キャラクターのアクリルストラップがばら撒かれている。
「メインキャラばっかだし
「オマエ、当たり引くの上手いよな
「宝くじでも買えよ」
「そー言うのは当たんねーんだよ」
本当に欲しいものは いつだって 手に入らない ―