ラッキーナンバー
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(イラスト作成*ChatGPT)
3 5 9 11 …
流石に上段のロッカーは人気がある。空きは残り少ない。
えーっと、今日のラッキナンバーは確か
スマホで見た星座占いの内容を思い浮かべながら ロッカーに差し込まれた鍵の数字と睨み合う。
13 … あった!
「痛!」
「あ、悪ぃ」
と言いつつも 悪びれた様子はない。
「眼鏡クン、元気?」
地味眼鏡の早藤月彦を小馬鹿にして、バスケ部仲間と盛り上がるのが此の男の日課だ。
長身で引き締まった体に、威風堂々とした面構え 宮原怜勇と「自分」はサバンナの肉食獣と草食獣と言った趣き。
別に僻む気もないが 何故、何時も直ぐ隣のロッカーを使うのだ。
教室の後に在るロッカーは鍵付で、生徒が私物を持ち込まない様 毎回違う場所 ― 空いている場所を使うのだが 此の時間なら、空きはまだ幾らもある。
唯でさえデカい図体が邪魔だと言うのに 登校時間まで合わさって、毎朝嫌がらせの鞄をぶつけられては敵わない。
「おはっス~!ヒコ」
クラスの男勝りな女子、戸川結が元気よく声を掛けて来た。
「やめろ、其の呼び方」
「え~、月彦とか呼びにくいじゃん」
「姓で呼べば良いだろ」
「ヤーダね~」
古風な名前を恥ずかしく思っている事を知っていて、結は態と下の名前で呼ぶ。
「…」
異様に膨らんだ手提げ鞄をロッカーに押し込んだ結は、不意に其の姿勢で止まった。
「何?どうかした?」
「良いよね~。ヒコは」
「何が?」
「毎朝スキンシップはかっちゃってさ~」
「… 眼鏡でもかければ?」
二つの意味で必要だろう。陰気な眼鏡キャラを弄るのが好きな級友の悪行を、はっきりと見て貰いたいものだ。
「アホ。そう言う事じゃないでしょーが」
卑屈になっている結に、月彦の皮肉は通じない。
既に宮原怜勇と其の級友の周りは、派手やかな別世界になっている。取り巻きの女子連中は、一切の侵入を許さない鉄壁の防御を築いていた。
結は羨望と嘲りの入り交じった溜息を吐いて、切り揃えられた前髪を吹き上げた。
其の日は 朝からの炎天下で、体力を余分に消耗し 軟弱な肉体が時間に追い付かなかった。予鈴と共に息を切らして滑り込み、汗だくのロッカー攻防戦もなく平和裏に終わったが ロッカーの空きは下段のみで、選択の余地もないと言う敗北感を味わわさせられた。
午後の体育の授業を終え、しゃがみ込んで下段のロッカーに体操服を詰める。
下の奥って見えにくいんだよな
「痛!」
「悪い」
と思っている顔ではない、明らかに。唯
ええ?何で?
何故 此の巨人、宮原怜勇が下段のロッカーなど使うのだ。其れも直ぐ隣の ―
「あー?!おい、怜勇!何、人のロッカー勝手に開けてんだよ!!
「俺が先に使ってたんだぞ」
「鍵かけてねーじゃん」
「いやいや、意味分かんねー。つか 出すな!」
宮原怜勇はロッカーの中身を放り出し、自分の荷物とすげ替えるのに勤しんでいる。
「だって此処、俺のラッキーナンバーだから」
え
向けられた笑みを理解するまで時間を要し 「自分」がナンバーを気にしている事を馬鹿にされたのか ― そうじゃないなら 何なんだ