灰の朝 3
──時は少し遡る。
早い時間にカイとゼニスが物資の調達に出かけた事に気付いていたティナだったが、2人が出かけてからしばらく経っても、未だ毛布から出られずにいた。
いつも自分を起こすゼニスは今いない。
この機会に、自分の睡眠欲をしっかり満たそう等と考えていた。
だが、勢いよくティナは身体を起こす。
何となくだが、いつもと違う気がする。
目をつぶって、昨日までより冴えた自らの五感に集中した。
「……おかしい。風が……音が違う。」
ティナが目を見開いた。
「近い……“血”の気配。たくさんの……それも、強いのが──」
まだ制御しきれない感覚が、体中を突き刺すように走った。
いくつか感じる気配の中でも、気分が悪くなる程の禍々しい気配を一つ感じたのだ。
彼女のB型の血が、全力で警鐘を鳴らしていた。
「血統騎士団……こっちに向かって来てる!」
「なっ、ゼニスたちは?!」
ティナの口調から、真偽を確かめる必要がない事を感じ取ったエリオが焦った様子で叫ぶ。
「カイとゼニスは朝一で食料と燃料を取りに出てる!」
ロウが歯を食いしばり、窓の外を睨む。
「……すぐ逃げるぞ!こんなとこで捕まるわけにはいかねえ!」
3人は家を飛び出し、裏路地を駆け抜ける。
ティナが走りながら目をつぶった。
視覚を捨てるで、他の感覚が研ぎ澄まされるのを感じた。
「南と西はもう囲まれてる……東に抜け道が──!」
その瞬間、瓦礫の向こうから鋭い気配が弾けた。
「見つけた。」
ぬるりと姿を現したのは、血統騎士団の女騎士。
彼女の動きは無音。だがティナには、全ての拳動がはっきりと“読めて”いた。
「……読める。だけど……避けられない……!」
自分の能力を活かす身体能力が、ティナには未だなかった。
ティナは女騎士に首を掴まれてしまい、そのまま持ち上げられて足が地面から離れた。
その様子を見たロウは激昂し、女騎士に全力で体当たりした。
不意を突かれた女騎士は、2メートルほど勢いよく吹っ飛び、女騎士による拘束から解かれたティナは自由に動けるようになった。
「お前らは先に逃げろ!」
O型の肉体強化の力がロウの身体を走る。
拳が風を裂き、騎士の肩をかすめるが、直後に背後から鎖がロウの足を絡め取り、そのまま拘束される。
「エリオ、ティナ、走れっ!!逃げろ!!」
せめて2人には生きて逃げて欲しい。
そう願いながら必死で叫んだ。
エリオがティナの手を引くが、別方向から次々と騎士が現れ、逃げ場を潰していく。
「包囲済み。B型戦術班、感知網展開完了。」
敵の組織力の方が、何枚も上手だった。
「エリオ!!」
ティナが察知するも、避ける事はできない一瞬の閃光。
「ぎいゃあぁあぁぁがあぁぁぁっ!!」
直後に聞いた事のないエリオの大きな悲鳴にティナが驚き、何が起こったのか彼の姿を確認する。
エリオが膝上の辺りから足を切断され、立っていられず地面へ倒れるところだった。
ティナは自らが片足を失ったような思いを感じながら、溢れる涙を拭く事なく必死で止血作業を進めた。
だがティナは背後から衝撃を感じたと思った直後、何故か視界が暗くなり意識が遠のいていった。
ロウの怒号とエリオの悲鳴が耳に届いていたが、すぐにそれも聞こえなくなり、ティナはその場で完全に意識を失った。