灰の朝 2
カイは途中、ふと立ち止まった。
「……静かすぎる。」
「え?」
「いや……スラムって、朝には必ず音があるだろ?薪を割る音とか、子どもが走る足音とか……」
言われてみれば、確かに。
丘を越えて見下ろすスラム街は、あまりに無音だった。
「おかしい……急ごう!」
カイの声に、ゼニスも頷く。二人は駆け出した。
坂を下るごとに、胸がざわついていく。何かが決定的に違う。徐々に不安は大きくなり、今日を生きるための物資も荷車ごと捨てて駆けた。
「ゼニス! 見ろ……!」
崩れかけた石壁の向こう。
市場広場に人影がない。焚き火跡は掻き消され、路地の端には、燃えかけの木箱が崩れていた。
「誰も……いない?」
「いる……いや、いたんだ。争った跡がある。」
「まさか!」
再び駆け出す。息を切らせながら、焼けた段ボールの匂いを突き抜けて走る。
ゼニスも後に続く。
走りながら、カイは大丈夫だと自分に言い聞かせる。
ただ、もしかしたら…もしかしたら3人に何か…。
いや、きっと大丈夫だ。ロウもいる。
でも…。
嫌な予感の方が、どうしても大きくなっていく。
そして、曲がり角の先、壁に血の跡が飛び散っているのを見つけた。
スラムのどこかで起こった何かが、もう取り返しのつかない事態となっていることを、カイは本能で悟っていた。
そして――
見覚えのある服の切れ端を見つけた。
エリオが纏っていたそれは血で汚れており、スラムで暮らしてきた“家族”が、壊されたという報せだった。