灯火たちの夜
スラムに夜が訪れるのは、音もなく静かだ。
だがこの小さな隠れ家の中には、光と笑い声があった。
灯油の切れかけたランプが揺れ、五人の影を壁に映し出している。
「それ、もうちょっと右! ほら、倒れるって!」
エリオが大声を上げ、手作りのタワーのてっぺんをロウが慎重に調整する。
紙くずと空き缶で作った“塔”は、この日の勝負の中心だった。
「絶対おれらのチームが勝つ! ティナ、集中しろ!」
カイも今日の勝負には熱くなっていた。
「ちょ、味方なら大きな声出さないでよ!」
ティナの細い指が震えながら、缶からその指を完全に離そうとバランスを探る。
室内から音が消えた。
全員があまりにも注目しているのが可笑しくて、勝負に参加していないゼニスがくすっと笑った。
「あぁぁぁぁぁ!」
カイとティナの塔がゆっくりと傾き、そのまま崩れて床を鳴らした。
「ゼニスー!!」
ティナはゼニスの笑いで集中が途切れたという主張を語気に含めた。
「ごめん、ごめん!」
ゼニスは笑いながら手を合わせて、プンプンしているティナに謝った。
カイはそれを見て、思わず笑みがこぼれた。
こんな時間がいつまでも続いて欲しい。
いつまでもというのは無理でも、せめて長く続いて欲しいと、カイはそう思った。
「さて、もう遅いし寝るか!」
「そうだね!」
カイは両膝を両手で打って立ち上がり、全員を就寝へ誘導しティナもそれに便乗した。
「待て、カイ。ティナ。……さっきの勝負、負けた方が皿洗いだったろ。もちろん今日のうちにやるよな?」
ロウは敗者の2人を逃さず、エリオはニヤニヤしながら勝者の余裕を見せる。
……敗者達は仕方なく、やるべき事に取りかかった。
この小さな空間には“家族”があった。
血ではなく、絆で結び付いた家族が。