火のある部屋で
この国では、人は「血」で測られる。
血液型によって能力が定まり、能力によって命の重さが決まる。
《血質分類》──それはこの国家の根幹だ。
A型──制御と精神の力。物体を操る念動力を持つ者が多く、精密な制御や防衛任務に長ける。人口の約24%。
B型──五感を極限まで研ぎ澄まし、動きを先読みする直感力を持つ。人口の約18%。
O型──純粋な肉体強化。筋力や再生能力に優れ、前線の兵士や処刑人として起用される。人口の約32%。
AB型──複数能力の融合者。極めて稀少で訓練により特殊な能力を備える事がある。王族の側近や特殊任務部隊に属する。人口の1%以下。
無血者──血質を持たぬ者。公式記録では全人口に占める割合は約25%とされるが、実態はさらに多いとも言われる。
その“持たざる者”たちの多くが、都市の最下層、第七スラム地区で生きている。
そして、そこに一つの火のある部屋があった。
風で軋む金属板の壁の内側。石炭の代わりに油を燃やした簡素なランプが、5人の顔をぼんやりと照らしていた。
古いブーツを履いて、焦げ茶のジャケットの襟を立てて座っているのが、5人をまとめるリーダーのカイ。
自らの年齢はわからないが、身体の成長具合から16歳前後と思っている。
額には浅い裂傷跡。目元は鋭く、誰もが無視できない雰囲気を纏っているが、彼の血液検査結果にはこう記されていた──「血質未発現:ブラッドレス」。
彼は無血者。力を持たぬ者。
それでも5人の中心であり、誰より先に戦う覚悟を持っていた。
その隣に、小さな影がひとつ。
ティナ。まだ10歳の少女だが、スラム中の抜け道と警備兵の巡回パターンを把握している。
栗色の髪はボサボサに跳ね、いつも袖が長すぎる上着を羽織っていた。
彼女の血型はB型。
最近は、物音や視線の“先”を読むような勘が働くと話していた。
「カイ兄、血統騎士団の狩り部隊……南区まで来てたって。」
「……もうじき、ここにも来そうだな。」
カイは静かに答えた。
「俺は、ここが潰れるまで守るって決めてる。」
太い声を返したのはロウ。
年齢はカイと同じくらいだが、体格はふた回りほど大きい。短く刈られた黒髪に、まるで石を削ったような顔立ち。
血液型はO型。
体格が良いので戦えば強いが、少し冷静さに欠けるというのが、周りからの評価だった。
「脳筋だなぁ。」
目の奥で炎を映しながら呟いたのは、13歳のエリオ。
灰色の瞳と細身の体、肩にかけた白いスカーフだけが妙に目立っている。
彼はA型だが、能力は未発現。
街の構造を正確に記憶する彼は、みなが逃げ道を見失わぬよう、日々地図を描いていた。
そして、5人目の存在。
銀の髪。蒼い目。どこか異質な静けさを湛えた少女──ゼニス。
毛布を身体に巻きながら、遠くを見ていた。
血型不明。記録もなく、過去も曖昧。
しかし、誰より“深く物を見る”目をしている。まるで、来る未来を既に知っているかのように。
「狩りは近い。……わたしのところまで来る。」
ゼニスが、ぽつりと言った。
その言葉に、部屋の空気が変わった。
皆が彼女の視線を辿った先には、煤けた窓の外に月のない夜が、音もなく広がっていた。