プロローグ②
プロローグ②と題しました。ここから本格的なファンタジーへと突入して行きます。
グラビアスはスマホの着信音に目を覚ました。昼時の強い日差しが目に染みる。ゆっくりと上半身を起こすと目の前の草原では大学生達が草野球ならぬ草サッカーをしていた。グラビアスはスマホを取り出す。シリウスからだった。最近、やたらと電話を掛けてくる。いつもならシカトするところだが、あまりに無下にするのも心苦しい。グラビアスは電話に出る事にする。
「コラー!グラビアス!何でいつも電話にでないのよ!」
耳を劈く鋭い罵声に思わずスマホを耳から遠ざけた。
「うるさいな。そんなに怒鳴らなくても聞こえてるよ。それに人間界ではスマホでも川藤と呼べといつも言ってるだろ、佐藤。」
「あぁ。そうだったわね。それはゴメン。」
シリウスは素直に謝る。グラビアスは本来の名前であって人間界では川藤努と名乗っていた。ちなみにシリウスは佐藤楓と名乗っている。
「それはそうと、何でいつも電話にでないのよ。」
「そんなの、話したくないからに決まってるじゃん」
「なっ!…」
思わず絶句するシリウスにグラビアスは更に畳み掛ける。
「それに、別に俺から報告するような事は何も起きてないからね。」
「…あなたに話す事はなくても私にはあるのよ」
力なくシリウスは言う。どうやら怒りを通り越して呆れているようだ。
「それは悪うござんした。して、話したい事とはなんざんしょ?」
グラビアスは鼻をほじくりながら、ひょうきんな口調で答えた。
「…あなた、私を馬鹿にしてるでしょ?」
「いやいや、滅相もございません。」
スマホの向こうでシリウスのため息が聞こえた。
「まぁ、いいわ。話したい事っていうのはね、私達のこれからの方針についてよ。」
「方針?」
「そう、方針。私達の目的はチルドレンを全部で三人探すことよね?。そして、あわよければターゲットも。」
「…まぁ、簡単に言えばそうだね。」
「なのに遣わされたのは私とあなた含めて、たったの五人って、どう考えても少ないわよ。完全な労働力不足。大体、日本に何人いると思ってるんですか?って話よ。一億人よ、一億人。」
グラビアスはため息をついた。
「…俺たちがこっちに来て、もう20年経つから何を今更って気はするけど。まぁ、いいや。続けて。」
「うん。それでね、やっぱりテンショウ様にもう少し人数を増やして貰おうと思うのよ」
グラビアスは再びのため息。
「…ねぇ、それ何回目なのよ?」
「…50、いや、65回目ぐらい。でもね、今度は私やあなた、他の皆も全員で、それこそ土下座せんばかりに頼めば…」
グラビアスはシリウスの話を途中で遮る。
「無駄だね。何回頼めど、全員で頼めど、土下座しようとテンショウ様は承知しないよ。」
「…。」
シリウスは黙り込む。どうやら、シリウスもそれは百も承知のようだった。
「佐藤も分かってると思うけどテンショウ様が人間界に派遣する人数を俺たち五人に絞ったのは…」
今度はシリウスが話を遮る。
「人間界への鑑賞を最低限に抑える為。だから普段もってる能力も与えられず、まっさらな生身の肉体で人間界に遣わされた、でしょ。分かってるわよ、そんな事。」
「ちゃんと分かってんじゃん。だから俺たち五人だけで何とかしなかゃなんないんだよ」
シリウスは渋々頷いたが、何処か浮かない顔つきだ。
「でも、20年よ。20年この国では子供がうまれてないの。このままじゃ、これからこの国はどうなるか…。」
「…まっ、何とかなんじゃね。」
シリウスはグラビアスのあっけらかんとした物言いに辟易した。全くこいつは。
「あなたって、本当にやる気ないのね。それに、変人だし。あなたぐらいのものよ。赤ちゃんから人生始めてるのは。」
「せっかく人間になるんだ。そっちの方が面白いからね」
「何を呑気な。」
「それに、チルドレンもまだ子供だったわけだし、一所懸命に探したところでどうせ見つかりゃしないし。」
シリウスはグラビアスの言葉に怪訝な表情を浮かべる。
「それどういう意味よ?。あなた、まさかチルドレン探しの何かあてでもあるの?」
グラビアスは片方の口角を上げた。
「まぁね。それはおいおい教えたげるよ。それと俺もバイトだけのお気楽なフリーター生活は卒業して、そろそろ就職でもするよ。」
「就職?なんの仕事よ?」
「調査会社。」
シリウスは再び怪訝な表情を浮かべる。
「調査会社?そんな仕事に就いてどうすんのよ。チルドレン探しには何の役にも立たないんじゃない。」
グラビアスはくっくっくと忍び笑いを洩らした。
「これだから、脳みそまでお硬い人は…。まぁ見てなって。これから事態は大きく動きだすから。」
グラビアスはシリウスの「えっ何?それってどういう事?」との問いには答えずスマホを切った。
グラビアスは再び、草原に寝転ぶ。目の前には雲一つない青空が広がっていた。