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プロローグ①

ファンタジーです。まだ途中ですが気長に見守って頂ければと思います。

なぜ、俺たちこんなんになっちまったんだろうな。遠藤憲一は目の前の妻、純子を見つめながら思う。純子は俯いて「うぅっ」と嗚咽を漏らしていた。また今夜も口論になってしまった。これでもう何度目になるのだろう。憲一が口論の末、罵声をあげ純子が涙を流すのは。口論の原因は明らかだった。それは二人の間に子供が出来ない事。憲一と純子が結婚したのは今から十年前の事。その間、幾度となく性交渉は行ってきた。憲一は現在40歳。純子は38歳。もうお互い若くはない。結婚してから五年間ほどの間は子供が欲しいとお互いに強く望みながらも、子は天からの授かりものと思い子供が出来ない事をさほど重く受け止めてはいなかった。だが、互いに年齢を重ねていくにつれ、そうも言っていられなくなった。女性は男性と違って出産適齢期があるからだ。女性の出産適齢期は概ね45歳と言われている。それ以降は子宮が閉鎖し、子供が欲しいといくら願ったところで絶対に子供が産めなくなる体になる。そう純子にはタイムリミットがあるのだ。

憲一と純子は結婚後、6年目の時に婦人科を受診した。不妊治療を行う為だ。だが不妊治療は当時思っていた以上に厳しいものだった。何よりメンタルがやられる。最初に婦人科の女性医師から提案された治療法は憲一から採取した精子を選別し一番状態の優れた精子を純子の卵巣に定着させるという、ごく一般的なものであったが、その為に憲一はクリニックの個室へと案内されクリニックが用意したアダルトビデオを観ながら自慰行為をせねばならない。子供をつくる為とはいえ、クリニックの一室で行う自慰行為には羞恥心を抱いた。アダルトビデオに集中せねばならないと思いながらも、なんで自分がこんな事をと憲一は情けなく思った。一方、純子は純子で憲一から採取、選別した精子を子宮にいれる為、医師の前で股を開く格好をとらなければならず、いかに医師が女性とはいえ、他人に股を開くその羞恥心はいかほどのものか憲一にも容易に想像が出来た。それと、同時並行で憲一の精子の状態の検査と純子の卵巣の状態の検査も行われた。いずれも異常は見受けられず、女医にも「これなら必ず成功しますよ」と太鼓判を押された。だが、それから3年が過ぎても妊娠に至らない。体外受精を試みても結果は同様だった。それ以外にも様々な方法を試みたが妊娠に至らない状況に「二人とも生殖能力に問題はないのですがねぇ」と婦人科女医も首を傾げる一方で純子の精神状態も不安定になっていった。やっぱり私の方に問題があるのではないかと塞ぎこんだり、憲一の喫煙が原因ではないかと熱り立ってみたり、あきらかに平常心を保てなくなっていった。だが憲一にもその気持ちは痛いほどよく分かった。不妊治療とはそれ程までに精神状態を削られていくものなのだと知ったからだ。

だから、もういいと憲一はいつからか思うようになった。子供はもう要らない。このまま、二人で幸せに生きていこう。それだけで充分だと。だからその想いを正直に話した。だが、今思うとそれが間違いの根源だった。もう、不妊治療はやめよう。子供なんて出来なくても、幸せに生きていけるよ。そう純子に伝えると純子はぐにゃりと顔を歪ませて一言「何で?」と言った。何でそんな事言えるの?今まで私がどんな思いで治療に耐えてきたか分からないの?貴方は良いわよ。嫌らしいビデオみてザーメン提供するだけだもの。私は、私は、私は私は私は…

それ以来、憲一と純子の間には一枚の壁が出来た。途方もなく分厚い壁だ。あの日を境に二人の間には諍いが絶えない。もう不妊治療は終わりにしたい憲一と絶対に子供は諦めたくない純子。


本当に何でこんな事になってしまったのだろう。憲一は目の前で脚からクズおれて咽び泣く純子を見ているのに耐えられなくなり、顔を逸らした。するとTVの画面が目に飛び込んでくる。くだらないトークバラエティを流していたTVはいつの間にかニュース番組に変わっていた。おそらく純子とそう歳の変わらない女性キャスターが「では次のニュースです。」と伝える。

「政府の調査機関の調べで、今年度の出産件数が0人である事が明らかになりました。これにより今年で20年連続で出産件数0人という事になります。政府側はこの事態を非常に重く受け止めており…」

あぁ、そうだったなぁと憲一は思う。俺たちだけじゃないんだ。子供が出来なくて苦しんでいる人達はと。それと同時にテレビ画面下に映る「今年で20年連続出産件数0人」というテロップに憲一の背中にゾクッと冷たいものが伝う。

え?何これ?20年間子供が生まれてきていない?憲一の住まう都市での話ではなく、この日本で?

明らかな異常事態。というか常識的に考えてまずあり得ない事態だ。

今まで憲一は日本で長年、子供が生まれていないという事にはニュースなどで見聞きして知ってはいた。だが、自分達の事だけで精一杯で冷静に考察した事はなかった。例えば新聞でそのニュースを読んでいたとしても、文字だけを認識してその意味までは認識出来ていなかったに違いない。だが、今は違う。咽び泣く純子とニュース画面とを見比べながら、改めてその事実を考察してみる。一億人の人が住まうこの日本で20年もの長きに渡り、子供が生まれてきていない理由。若年層の異性への興味の低下が叫ばれ始めたのが、丁度今から20年前だったように感じるが…。いや違う。それだけでは説明がつかない。憲一と純子と同じように不妊治療を行っている夫婦は多いはずだ。それでも子供が出来ない理由。それは…。

一瞬、憲一の脳裏を一つの考えが過ぎった。いや、そんな筈はないと思う。そして、また考察に戻るが、どんなに思考を巡らせても結局は同じ答えに舞い戻ってしまう。

この日本で何か得体のしれない大きな力が働いていると…。




誤字脱字はご了承下さい。

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