決戦
海上を浮かぶミクリアの姿が撮影される。
撮影を行うのは、一機の無人機。遠隔操作されるそれは高度一キロの位置を飛んでいる。この高さならば遥か百二十キロ彼方まで見通す事が出来、搭載されたカメラの性能もあって海上のものをくっきり映し出す。
本来ならもっと高い、数キロ地点からの撮影も可能だ。しかしミクリアの周囲には、排出された蒸気によって出来た雨雲がある。気象条件次第だが、高度二千〜三千メートルの付近に浮かんでいる事が多い。このため無人機は一キロという低空を飛ばねば、雨雲に遮られてミクリアの撮影が出来ない
そして五十〜六十キロ圏内まで接近すると、ミクリアからの『射撃』により撃ち落とされてしまう。今回の映像も、ぶつりと途絶えた。
「……やはりこれ以上の接近は困難です」
「でしょうね。まぁ、健康状態が分かっただけ良しとしましょうか」
「ああ。普段と変わりないという情報も重要だからな」
大型モニターを操作していた自衛隊員の言葉に、由紀と勇也は特段落胆もせず納得する。
由紀達は今、自衛隊が運用する護衛艦の一室にいた。
そこはミクリアから三百キロは離れた位置であり、現状では『安全』とされている距離を取っている。とはいえミクリアがその気になれば、必ずしも安全とは言えない。心の奥底で、由紀はもやもやとした不安を覚えてしまう。
「そういえば、ミクリアの発射するものの正体について発表があったな。どうやら高分子ポリマーの一種で固められた水の塊らしい。速度から算出した有効射程は三百キロ程度あるとか……そこまで離れていると水平線に隠れているため、直接狙われる事はないだろうがな」
「ポリマーの生成コスト次第ですけど、弾切れは期待出来ませんね」
高分子ポリマーといえども、成分的には酸素や炭素などの塊だ。海水を取り込めばいくらでも原材料は補給出来、無尽蔵のエネルギーによって絶え間なく生成可能だろう。何千何万と撃っても、恐らくミクリアは消耗せず、人類が弾切れを起こす方が早い。
世界中の核弾頭を集めても、勝機がないと証明されたのだ。一部の国では敗北主義者の戯言という反論も出たが、感情論に過ぎない言葉に科学的価値はない。そもそも『現実』を受け止める事こそ勝利に必要なのに、それを放棄しているのだから本末転倒である。
現に、理性的で現実的な各国政府と軍はこの作戦――――ミクリア熱暴走駆除作戦に参加してくれた。
「う、ううぅ……」
尤も、その作戦を立案した若い研究員はガタガタ震えていたが。
「ちょっとちょっと。なんでアンタがへこたれてんのよ。しゃんとなさい」
「す、すみません! その、いざ自分の論文通りに作戦が行われると思うと、緊張して……」
由紀が喝を入れれば、研究員はそんな弱音を吐く。
気持ちとしては理解する。この作戦には日本以外にも多くの国が参加しており、必要な物資の生産や運搬で多くの費用を投じた。当然多くの時間……一ヶ月もの準備期間を費やしており、ミクリアの体内にいるであろう次世代が成長する猶予も与えている。
そして場合によってはこの作戦でも戦闘が発生し、数多くの死者が出るだろう。
失敗すれば人類は取り返しのつかない損害を被る。それどころかミクリアの繁殖を止めるための余力を失いかねない。これを恐れるな、という方が無理だろう。
「大丈夫よ。いざとなれば責任は負うから」
だからその心配は、上に立つ者が背負えば良い。
「……宇津宮さん達とかがね!」
「おい。お前もこの作戦に全面的に同意しただろうが」
軽くボケれば、勇也からツッコミが入る。それで多少は緊張が緩んだのか、研究員に笑みが戻った。
研究員一人が元気になっても、大局に影響はないだろう。しかしその一人が、予期せぬトラブルが起きた際に名案を閃くかも知れない。
万全を期しておくに越した事はない。
「……間もなく作戦開始時刻です」
丁度良く、時間も訪れた。
由紀は緩んだ気持ちを引き締める。由紀達研究員は口を閉ざし、後は『軍』に任せる。
やがてぶつぶつと、艦内放送の入る音が響き。
【これより、ミクリア熱暴走駆除作戦を実施する】
艦長から淡々と、作戦開始の合図が告げられた。
無人機が撃墜された事で切れていたモニターに、一瞬のノイズの後新たな映像が複数表示される。
一部のものは海上にいるミクリアの姿を映す。新たに発進した無人機が撮影しているのだろう。そして他に、海中の映像も映し出された。浅い場所を進んでいるようで、比較的明るい景色が見える。周りには数隻の『潜水艦』の姿があり、映像を撮影しているのも潜水艦の一つだと予想出来た。
作戦の第一段階は、高分子タンパク質の散布だ。
各国から派遣された潜水艦が、ミクリアのいる近海に展開。ミクリアが海水を吸引するタイミングで高分子タンパク質を放出し、ミクリアに吸い込ませる。
幸いと言うべきか、これまでの攻撃作戦で潜水艦は使われていない。このため潜水艦が攻撃対象となる可能性は低いと考えられている。だが安全とは必ずしも言えない。ミクリアの周りにはバリア、そのバリアを発動させるセンサーの電磁波が展開されている。電子機器が片っ端から壊れるほど強力な電磁波だ。
軍事兵器の多くは、こういった電磁波攻撃への対策を施している。だが、それは完璧なものではない。想定以上に強力なものを受ければ、対抗措置を破られて電子機器は破壊される。
潜水艦も例外ではない。
「! 中国人民解放軍の潜水艦が一隻、機能を停止」
部屋にいる自衛隊員が、淡々と『被害』を報告する。
恐らく接近し過ぎたのだ。作戦自体はとても単純で、ミクリアに高分子タンパク質を吸い込ませればそれで終わりなのだが……適当に海に放っても、ミクリアが吸い込む量は然程多くない。膨大な海水に溶けて、拡散してしまうからだ。
効果的な打撃を与えるには、可能な限りミクリアの近くで物資の放出を行わねばならない。されど接近し過ぎれば、ミクリアの展開する電磁波に晒され、全ての機械が破壊されてしまう。
無論破壊されるのはあくまでも機械。潜水艦内部の酸素などがゼロになる訳ではない。だが生命維持機能が停止した中で、長く人間が生きていく事も不可能。急いで救助しなければ、潜水艦内の軍人達は全滅する。
「(命じるのは、あくまで軍だけど……)」
そうは思えど、由紀達は科学者だ。発言権があるのは作戦の推移に関してだけで、隊員の救助等々は全て軍に任せねばならない。
潜水艦の数などに余力がなければ、救助を諦める事もあり得るだろう。そもそも機能停止した潜水艦の乗組員を救助可能なのか、という問題もある。
機能停止した潜水艦が助けられたかどうかは分からぬまま。だが機能停止した潜水艦が一隻出た事で、危険な範囲が明確になる。それは論文で予測されていた範囲よりも、やや狭いものだった。
狭ければより近くで高分子タンパク質を放出出来る。即ち、高濃度の物質をミクリアに吸わせられる筈だ。潜水艦に搭載されている高分子タンパク質は、最低限必要とされる計算量の数百倍は積んできた。海水の流れや、先程のように機能停止する潜水艦が多数出る可能性、そして想像以上にミクリアの耐熱性が高かった時に備えるためである。
存分に放出された高分子タンパク質がある事など、ミクリアは知らないだろう。
ミクリアは伸ばした肉質の管から、どんどん海水を吸い込んでいく。冷却のためか、微量元素補給のためか。何百キロどころか何千キロにもなる海水を一気に飲み干した。無論、潜水艦乗り達が命懸けで散布した、大量の高分子タンパク質と共に。
「さぁ、どうなる……?」
ミクリアが海水を吸い込む事数十秒。恐らく十トン近い海水を吸い込んでから、ミクリアは正六面体の身体の下部から伸ばしていた管をしまう。
それから一分後は、大きな変化もない。身体中から出る蒸気量も変化がないように見える。
二分後。やはり目に見える変化はない。由紀達のチームメンバーである研究員がAIによる画像解析を並行して行っているが、そちらでも特段結果は出ていないようだ。
「う、く……」
論文を出した若い研究員が呻く。自衛隊員達の顔も、少し険しさを増していく。
しかしこのぐらいの時間は、由紀達からすれば想定内。人間の薬だって、飲んでから一分二分でたちまち効くようなものではないのだ。
むしろ三分後に『変化』が起きて、少し驚いた。
「ミクリアの体表面から噴出する蒸気量が増加しています。作戦開始前と比べて、三十パーセントの増加です」
AIによる画像解析をしていた研究員が、そのように報告する。
三割分も変化があれば、肉眼でも確認可能だ。モニターに映し出されるミクリア、その身体から噴出される蒸気の量は明らかに増加していた。
ミクリアは自身の身体に何が起きたか、まだ分かっていないのだろう。精々「なんか暑いなー」ぐらいかも知れない。そうでなければ暢気に、また身体の下部から管を伸ばし、吸水する筈がないのだから。
二回目の吸水により、更に大量の高分子タンパク質がミクリアの体内に入っただろう。
「ミクリアからの蒸気噴出量、作戦開始前よりも五十二パーセント増加。以降増加は見られません」
「排熱が安定したか?」
「いえ、恐らく逆です。排熱が間に合ってない……これが限界と思われます」
若い研究員の言葉は、的中していた。
無人機により撮影されるミクリアは、大量の蒸気を噴出させながら右往左往し始めていた。時折湧いたヤカンのように蒸気を勢いよく噴射していたが、それを何度も繰り返すのは、冷却が上手くいっていない証だと思われる。
そして水分不足に陥っているのか、頻繁に海からの吸水を行う。
明らかに動揺している状態で、自分の身体の異変に戸惑っているのだろう。即ち、何故ここまで体温が高くなっているのか分からないのだ。
「(ここまでは想定通り)」
ミクリアの『種族』が高分子タンパク質に対し、即座に対応出来ない事は由紀達科学者にとって予測通りの反応だ。
何故ならこの宇宙に、高分子タンパク質のような巨大分子は早々ないのだから。
まず自然環境下で、タンパク質のような巨大分子が合成される可能性は殆どない。アミノ酸のような小さな分子ならば、電気や熱によって合成される可能性は低くないが……タンパク質はそのアミノ酸が少なくとも何百と集まって出来たもの。この時点で奇跡のような出来事なのに、出来たものは紫外線などで簡単に壊れてしまう。
生物がいれば大きなタンパク質も合成されるが、そもそも生物の誕生には自然由来のタンパク質が必要だと考えられている。偶然にも復数のタンパク質が集まり、生命体となる確率が如何に低いかは……現時点で地球以外に生命体が発見されていない事から察せられる。そして意図的に大量の高分子タンパク質を生産出来る文明の存在は、地球という星の長い歴史の中でもごく僅かな期間のものでしかない。
ミクリアの種族が如何に宇宙で繁栄していても、文明や生物との接触は稀だった筈。高分子タンパク質を大量摂取する経験など、殆どなかっただろう。経験がなければ対抗策が進化する事もない。
このまま何も出来ないまま、ミクリアは焼け死ぬ。
……それぐらい想定通りに事態が進めば良かったが。しかしミクリア側も完全に対抗策を失った訳ではなかった。
【キィィィキャァァァァァ!】
ミクリアが鳴いた。
続いて正六面体の身体が下側から花のように開き、生々しい肉の身体を露出させる。
それは人間達の多国籍艦隊が攻撃した時に見せた姿だ。以前は戦闘形態ではないかと予測されていたが、現在は『高排熱形態』と考えられている。高温化した内部を外気に晒しつつ、より大量の蒸気を排出。これにより急速な冷却を行う。
しかし今回の熱は、その排熱に必要な蒸気を生み出す、海水に原因がある。蒸気排出量を増やす形態は逆効果だ。
事実、高排熱形態に変化したミクリアは落ち着くどころか、更に苦しそうに暴れる。無数の触手を四方八方に伸ばし、藻掻き苦しむような様相を見せた。
【キャアアッ!】
そして悲鳴染みた声を上げて落下。
一瞬、自衛隊員達に笑みが浮かぶ。ミクリアの墜落を、力尽きた結果と思ったのだろう。
だが由紀達にとって、それは最悪の行動だった。
「海水で直に身体を冷やすつもりね……!」
排熱について考えた場合、大気中よりも水中の方がより多くの熱を外に逃がせる。理屈は簡単で、空気よりも水中の方が分子が高密度であるため、接触する分子の数も多く、それ故に素早く熱が伝わるからだ。
この方法ならば、空気中の何十倍もの速さで冷却が可能だろう。更にいくら水中に高分子タンパク質が漂っていても、体内に吸い込まなければ意味がない。この方法ならば流石にミクリアの身体は冷えてしまう。
――――だが、それぐらいは人類側も予測済みだ。
そして対策も考えた。そもそも何故ミクリアは海上に浮かんでいたのか。単純な排熱云々の問題だけで考えれば、海中にずっと潜んでいれば良い。海水から栄養分を摂取しているのだから、食事の面でも海の中に留まっていても問題ないだろう。蒸気の排出にしても、勢いよく噴出すれば海水を押し退ける事は可能だ。
つまりそれ以外の理由がある。例えば……身を守るのに苦労する、などのような。
【!】
潜水艦が撮影した映像に移る、海水で冷却中のミクリアが、びくりとその身体を強張らせる。
他の潜水艦が撮影している映像に、無数のミサイルが映っていた。
対潜ミサイルだ。今回の作戦のため、米軍が急ピッチで開発(というより改造)した新兵器である。有効射程九十キロを誇り、ミクリアの反応圏外から攻撃を行う。
その目論見は成功し、無事発射に成功した。ミクリアは無数にある触手を向け、迎撃を試みる。
だが、その触手が何かを発射する事はない。
ミクリアの触手の発射物は、高分子ポリマーと水である。水をどんどん吸収してしまう性質があるため、水中で発射しても無駄に肥大化。抵抗の大きさから殆ど前に進まなくなってしまうのだ。
更に水中ではバリアも展開出来ない。大出力の電磁波により展開されるそれは、発動に膨大な電力を使うと思われる。ところが水は電気をよく通す。そんな水中に身体を浸していたら、折角生み出した電気も外に逃げてしまう。
このため水中ではバリアの展開が困難となる。宇宙では地球ほど『安定』した環境は少なく、例えば金星では時速四百キロ相当の暴風が吹き荒れ、木星では地球を丸呑みにするほどの巨大台風が何百年も存在し続けている。このように劣悪な宇宙環境で身を守るための仕組みがバリアであり、ミクリアは『不安定』な事が多い宇宙環境で安全を確保するため、本能的にバリアが何時でも使える海上を浮遊し続けているのではないか――――あくまでも推論に過ぎなかったが、中国から発表された論文がこの作戦の成功を保証した。
そして論文は正しかった。
【キ、キキュゥウウウウウウ!】
ミクリアはバリアも張らず、触手を身体の前方に構えたのだ。
防御態勢である。対潜ミサイルはミクリアの触手を直撃し、大爆発を起こす。頑丈な潜水艦の装甲を破壊する一撃は、ミクリアにも少なくないダメージを与えた。
構えた触手を数本、切断したのだ。
【キュゥウイィイイイ!】
切れた触手の断面から、赤黒い体液が噴き出す。触手は何百とあるため、決して重症ではないだろう。
だが人類の手で、ついにミクリアにダメージを与えたのだ。
そして対潜ミサイルはまだ幾つもある。世界一の生産力を誇る米国が、いくら急ごしらえとはいえ高々数本しか用意していないなどあり得ない。
第二陣として二十発もの対潜ミサイルが、ミクリアに向かって飛んでいく。
【キ、キキキキキキィイイイイイイ!】
ミクリアは叫んだ。画面越しからも伝わる、激しい怒りの咆哮だった。
しかしその後の行動は、急速な浮上。
水中で対潜ミサイルを受けるのではなく、安全な海上へと避難したのだ。無論海上では排熱効率が著しく低下するため、今のミクリアはどんどん体温が上がっていく。
更に人類側は、ここで追い打ちを行う。
世界各国から集められ、海上空母にて待機していた数千もの無人機が一斉に発進。ミクリアへのミサイル攻撃を行うために突撃する!
【ッ!? ギィィィ!】
飛翔してきた無人機を認識し、即座に射撃攻撃を行うミクリア。
攻撃は極めて正確で、次々と無人機は落とされていく。だが前回と違い、今回の撃墜は織り込み済み。多少の撃墜は気にせず、圧倒的な数で押し込む。
そして十分近付いたところで、一斉にミサイルを発射する!
ミクリアは触手からの攻撃を止めた。それはバリアを展開するための動き。前回の戦闘で、バリア展開中は蒸気が外に出ていかなかった。触手による射撃攻撃も同様であり、バリアを張れば攻撃は中断しなければならない。
攻撃出来ないという対価と引き換えではあるが、バリアの性能は絶大だ。何千発ものミサイルがミクリアを直撃したが、その全てがバリアに阻まれる。立て続けに第二攻撃も行われたが、バリアはビクともしない。
【ギ、キ、ギ、ギ】
この守りは鉄壁だ。そう言いたげなミクリアだが、生憎それさえも人類は織り込み済みである。
一度に何千という数の無人機が発進したが、それが用意された全ての無人機ではない。
未だ待機している無人機が、少しずつ発進していた。これもまた作戦の一つ。ミクリアが展開するバリアの強度は未知数であるが、一斉攻撃で破る事は恐らく出来ない。
だがバリア展開中は攻撃が行えず、更に内部に蒸気が溜まっていく。
最初は大きな問題もないだろう。だが外に漏れない蒸気は、バリア内でどんどん密度を増していく。ボイル・シャルルの法則により、密度が上がるほど温度も上がっていく。百度の蒸気が二百度、三百度と上がっていくのだ。
そうなればミクリアがいくら高排熱形態になっても、熱は外に逃げない。排熱というのは、外が内より冷たいから可能なのだ。高密度蒸気の中では排熱は出来ず、どんどん体温が上がっていく。そもそも外が高圧になれば、蒸気の排出自体が上手く出来なくなる。
【キ、キュ、キ、キィィィィ……!?】
ミクリアも今になって、自分の置かれた状況に気付いたようだ。
だがもう遅い。バリア内部は既に排出された蒸気でいっぱいになり、内部の様子が見えない。尚且つ無数のミサイルが絶え間なく撃ち込まれ、バリアの解除を阻む。
前回はバリア解除時の『風圧』で広範囲を攻撃してきたが、それを警戒して無人機は広範囲に拡散している。例えバリア解除による蒸気で幾つかの無人機が破壊されても、後方に控えている機体が即座に反撃を行う。バリアを失ったミクリアに直撃されせれば、致命的な打撃を与えられるだろう。
仮に大多数の無人機が落ちても、その時は遠方に待機している艦隊からのミサイル攻撃がある。バリア解除を確認次第、即座に長距離ミサイルによる断続的攻撃を実施するのだ。少なくない数のミサイルが迎撃されるだろうが、戦闘を行えばその分ミクリアは多量の熱を生み出し、死へと近付く。
「いける……これなら……!」
「ああ。追い込めているぞ……!」
映像を見ていた由紀達は手応えを感じた。ミクリアがあとどれだけ耐えるかは分からないが、確実に追い込んでいる。作戦は成功しつつある。
――――由紀達の予感は全く以て正しい。
ミクリアは追い込まれていた。星々を渡る超生命体が、隣の衛星にすらろくに降り立てない文明によって危機に瀕している。それは知性の力であり、文明の強さを活かした結果だ。
このままであれば、ミクリアは間違いなく倒せた。
ミクリアが、このままやられるのであれば。
突如、由紀達の乗る船を襲う衝撃。
それが本当の『決戦』の始まりだと、この時の人類は誰一人として知らなかった。




