ルシアーノとの出会い③
◆
ティーナが帰ろうと小屋の前を歩いていたとき、後ろから声をかけられた。
「ごめんなさいね、お嬢さん」
「ロゼッタ、追いかけてきてくれたの?」
ロゼッタは頷くと、ルシアーノの秘密をそっとティーナに教えてくれる。
「ルシアーノにも悪気はないのよ。ただ、彼は人嫌いだから」
「人嫌い…?」
「ルシアーノは、妖精のことを小さいころから見ることができた。だから人から差別されて、気味が悪いと言われていろいろ辛い目にあったの」
ロゼッタはそう言うと、少し哀しげな顔をする。
そして、ぱっと明るい顔になって続けた。
「でも、私が『見える』のは、ルシアーノ以外であなたが初めてよ!だから、あなたならルシアーノともうまくやれるかもしれない」
「そうなんだ…」
「あなたのこと、覚えておくわね。また会いたいわ、ティーナ」
ティーナはその言葉を聞くと、もう一度工房へ向かってみよう、という決意を固めた。
そして、工房を去って、明日また出直すため、ひとまず宿へと向かった。
◆
次の日、ガラスを吹き寄せているルシアーノは背後に気配を感じた。
「こんにちは、ルシアーノさん」
ルシアーノはガラスに口で空気を送り、炉へとガラスを突っ込む。
ガラスは真っ赤な色をして発光し、柔らかく加工しやすい温度になっていく。
それをなんどか繰り返して、丸いグラスを膨らませていく。
ルシアーノは迷惑そうな口調で言った。
「…なんでまた来たんだ」
ルシアーノの周りを飛んでいたロゼッタが声を上げる。
「ティーナ!また会えたわね、嬉しいわあ」
「よかった、ロゼッタ。…私、ルシアーノさんの元で弟子入りさせてもらうまで、諦めません」
ティーナの真剣な声にルシアーノが面食らう。
「はぁ?ロゼもなんでこいつを歓迎するんだ。何か余計なことを言ったんじゃないだろうな?」
「しーらないっ」
とルシアーノに責められたロゼッタがそっぽを向く。
「今日が駄目なら明日、明日が駄目なら明後日も来ます。絶対、ここで働きたいんです」
ティーナが熱意を持ってルシアーノに詰め寄った。
「そんなことをされても同じことだ。迷惑だからもう来るな」
「いえ、明日も来ます。今日はこれで失礼します」
ティーナは頭を下げると、工房を後にした。
「あいつ…何を勝手なことを」
仏頂面をさらに険しくさせたルシアーノに、ロゼッタが言う。
「いいじゃない、好きにさせてあげなさい。あなたみたいな偏屈なおじさんのところで働きたいなんて、稀有な子よ」
「偏屈なおじさんってなんだ、ロゼ」
ルシアーノは不機嫌そうにそう言うと、グラスをペンチで叩いて棒から取り外し始めた。