プロローグ
光を反射し、周囲のものを映し出す輝き。
まったくの濁りもなく透き通り、凹凸のない滑らかな美しさ。
造形はまるで実物のごとくリアルで、真に迫っている。
だが、その美しさはどこか人を寄せ付けない冷たさをはらんだ、孤高のものである。
例えるなら、鋭く尖って、触れればひやりとする氷のかけらようなもの。
――――彼の追い求める芸術は、ガラス細工は、そういうものだった。
今日も、彼は工房にこもり、自身の思い描く世界を形にする。
その背中には冬の朝のような冷え切った寂しさが宿っている。
◆
ティーナの8歳の誕生日の日。
ケーキを食べ終えたティーナは、食卓の椅子に座り、はやる気持ちを抑えきれない。
母親がクローゼットの中から、大切なものを扱うようにリボンのかかった包みを持ってくるのをそわそわと待った。
ようやく母親が包みをもってきたとき、ティーナは両手を上げて喜んだ。
「はい、どうぞ。ママが選んだプレゼント。期待してて?すっごく素敵なものよ。ティーナ」
「やったー!ありがとう!」
ティーナが胸をときめかせながら、興奮を押さえ切れない様子で包みを開ける。
袋を開けるのも、もどかしく、ティーナはびりびりと袋を破いて箱を開けた。
「壊れものだから、ゆっくり開けるのよ」
と母親がティーナをたしなめる。
それは、ティーナの人生を決定づけるほどの大きなプレゼントだった。
「わぁ…!」
そこに入っていたのは、30センチくらいのガラスの天馬の置物だった。
光を放って涼やかに輝くガラスの天馬の中には、小さな星空が閉じ込められている。
星空はビーズや蝋で出来た作り物ではない。
夜空を小さく縮めて、ガラスの中に封をしているのだ。
人にはできない技…魔法でも使わないとこんな作品は作れない。
濃紺の夜空に光る星が天馬の体の中でぴかぴかとまたたいて、まるで夢の国からやってきた王子の乗り物のようにティーナには見えた。
ティーナは、触れれば壊れそうなその精巧な置物をそっと机に載せて、何度も飽きることなく眺めた。
ティーナは自分の部屋の枕もとにそれを飾り、夜になる度に眠る前にその置物を見るのが毎日の楽しみになった。
それほどまでに、この天馬に魅了されたのだ。
それから、10年…。