EP90 未来のために。
空を切り、龍との距離はゼロに近い。
弾き飛ばされても、俺はその体を目指した。
届くことはなかった。
体が熱い。
どうやら住宅街で火災が発生したようだ。
煙を吸う。喉を掻き切るような痛みと、当然の咳。
咳は止まらない。でも咳をすれば、悪化する。
『ただいまより、ラシュトール聖者決定戦を開始する』
その発言が、一足先に飛び出た俺に届くほどの士気を上げる。
民は武器を取り出した。
一斉にこちらへやってくる。
飛べるのだろうか、という心配は要らないほど、当然のように飛ぶものが多数いた。しかし、やはりそれでも多くの民は飛べないようで、地面に倒れた仲間の治療や、じわじわと近づく魔物の集団への対抗をしている。
「ちょ、それはまず———」
一回転した龍の尻尾に野球ボールかのように飛ばされた。
大聖堂への衝突寸前で止まることができた。
流石にこの真っ白な大聖堂を破壊するわけにはいかない。しかし、こう近くで見るとかなり汚れが目立つ。
ふと下を見ると、ミライや皇女がいた。
ミライは皇女の魔法の支援。つまり結界を張っている。皇女は、結界と同時に、加護魔法の付与を行っているようだ。
でもここにいたら、きっと大聖堂どころか、この街ごと吹き飛ぶ。
「ミライ!皇女たちを連れて逃げろ!」
そう叫んだ。
「和人?!なんで?!そんなことしたら、聖堂が!」
「るっせえ!いいから逃げろ!」
何度も説得した。
街の一部は壊滅的、他も火事や倒壊、道路の破損が起きている。悲鳴や号哭が後を絶えず、魔法の爆発音なども混じり、まるで、というよりか、本当に戦争が起きているようだった。
現代戦、近代戦ではないから銃声は少ない。
しかし、もうすでに多くの人が倒れている。
このままでは勝てない。
「......ミライ。どっかで会おう。それまで生きてろ」
「え?うん!もちろん!」
俺とミライは拳を交わし、もう一度前線へ戻った。
「......ミライ村長」
「は、はい」
「彼は誰だ?そして大丈夫なのか?」
「陛下。ご心配なさらず......彼の名は和人。放浪者ですが、ラシュトールの誰よりも強いかと。それに――」
「それに?」
「彼は。きっと"あの人"ですので」
「ほう......理解した」
数十メートル上空を飛んでいると、治療をしているユズを見つけた。
「ユズ!」
「あ、和人。私は治療中で、フィエールさんはすぐそこで安全の確保しているよ。ちょっと間に合わないかもだから、後でね」
颯爽に治療へ戻った。
フィエールは、ゴブリンや鬼、オーク程度であれば剣の角や、面で殴り倒している。さすがは元勇者パーティ。一発であの威力とは。
にしても、その度に白い煙のようなものと爆音がなっている。音速でも超えているのだろうか。
確かに、目で追えないような速さだが。
「じゃあここは任せた。他の奴らも、ありがとな!」
『大丈夫です!』
『任せな。兄ちゃん』
『頑張ってください、大丈夫です、治りますから』
『痛いそこ痛い』
鍛冶屋のおっさんのようなイケオジから、街のお姉さんまで、全員が協力して治療、回復へ尽力している。
こっちの世界じゃ考えられないことだ。
「和人、先に龍を殺れ!」
「任せろ!!」
建物はもう崩れ、その面影すら残さない。
龍の道中にいる魔物.......ゴブリンやオーク。魔族たちを蹴散らしながら、龍へ向かう。
軍と、皇女からの支援を受け、対等な力を得ており、戦線は若干前後する程度で収められている。
しかしながら、当然のように死傷者は出るばかり、ここじゃ高火力魔法も、人を巻き込む為に撃つこと難しい。
このままでは勝てない。
それだけは明白である。
【地よ轟け】
地面を破壊して、操作。魔物を殺し、道を作る魔法だ。
その割れ目はかなり有効で、知能の低い魔物はそこを通ることができない。
その特性を利用し、戦線と市街地の境目を割った。
ある程度は防げるだろう。
聖者決定戦。と言いながらアナウンスも何もなく、目先の金に踊らされる人間たちと、勇敢なものたち、どちらも代わりなく命を削り戦っている。
おそらく、聖者決定戦というのは士気を上げるためだけだ。クソ。
龍は疲れたのか、少し後退し、座って戦場を眺めている。
ポツポツと、雨が降ってきた。
血を洗い流す血だ。
遅れて、爆発音と衝撃波が到達。龍を正面に左側。北東の方だ。
「魔法......じゃない......?」
戦闘機のような音。
上を見上げれば、飛行船が北東からやってきている。
人間のものだ。つまり味方側。あの飛行船も、軍事用に開発されたみたいだ。
「おいガキ!ぼーっとしてねえで戦え!」
「あ、悪い......」
民に怒鳴られた。これでも七百万は生きているのだが。
「はあ......よっこらせっと!」
もう一度、今度は更に上空へ一っ飛び。
その後、放物線を描いて龍の首を貫く。
はずだった。
上空で見えた。最悪のもの。
やはり、それは......
――終焉だ。




