EP9 過去は忘れて今を見ろ
朝日が第2の地平線を超え、世界を照らす。
幼い頃に見た、初日の出を思い出す。でももう、あの時の幸せは絶対に戻らない。そう思い、ただ朝日を見つめる。
「.....綺麗だね」
「ああ」
「和人、もっと和人のこと、教えて」
「俺のこと....過去のこと..か....」
「うん」
過去のこと“あの時”はもう戻ってこない、だって俺が.....
「過去....」
「ごめんね、辛いかもしれないのは分かってる。けど、どうしても知りたいの」
「分かった。全てを話すよ。覚えている限りの、全てのことを」
俺が小学5年生の頃、いじめにあった。その内容は覚えていない。ただ、その相手に対する感情と、何もできなかった自分への恨みはいつまでも覚えている。
「も、もうやめてよ!」
(ああ、俺の居場所って....ないのかな...)
苦しみ、悲しさ、憎しみ......感情が混ざり合う。
「もう.....やめて....」
「やめるわけねえだろw貧乏人w」
「やめなよーw」
そのいじめは、中学卒業まで、5年間続いた。誰か助けて、そんなことを思っていたが、俺がいじめられていれば、他の人がいじめられなくてすむ。そう思うこともあった。だがある日、溜まっていた何かが爆発した。当時、俺は、中級魔法までしか扱えなかった。
あの時、終焉に手を触れるまでは。
「終焉.....これなら」
学校の図書室、そこで見つけたのは、終焉に関する調査結果の載った本だった。終焉という存在があるのではないか?終焉はダークエネルギーや魔力などの力なのではないか?そんなことしか書いてなく、全てがただの憶測に過ぎなかった。そこから俺は、必死に終焉に関する情報を集めた。そして高3になったある日、計画が完成し、実行した。復讐、たったそれだけのために。世界を犠牲にした。
【全てに終焉を】
呪文を唱えた瞬間気を失う。そして目が覚めた時には自宅にいた。
「お兄ちゃん!」
「明里...どうして俺はここに?」
体を起こして明里に確認した。あの後、謎の輝きが一瞬にして生まれ、消滅したのだと言う。
「そうか、明里、ありがとう、それにごめんな」
立ち上がり、キッチンにある包丁を手にとる。
「それだけはやめて!」
明里のその声、確かに聞こえた。そして俺は、とんでもない痛みの中、体中を刺しまくる。明里が何かを言っている、でも体が言うことを聞かず、全身を出し続ける。やがて、その手は、首を切った。
何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。暗闇に囚われた俺は、人生の反省会をしていた。気づくと目の前には小さな輝きがあった。その輝きは、小さくも美しく、どこか暖かかった。今頃世界はどうなっているのかという考えも輝きの前では考えなかった。
ずっと輝きに見惚れていた。そして目が覚めた。
「.....ここは?」
上手く物を認識できない。そんなに長く眠っていたのだろうか。視界が戻ってきて、ここは自分の家だと分かった。....妙に静かだ。外の様子が気になったし、明里たちが心配なので、部屋から出ることにした。
ドアを開ける。誰もいない。本当に誰もいない。そこにあったのは瓦礫以外なかった。少し外に出て空を見上げる。空が暗い。明らかにおかしい、だってさっき見た輝きがそこにあるのだから。
「終焉....来たのか.....」
そう、終焉がこの世界を滅ぼしたのだ。でも、終焉はとても弱っている。今なら終焉を消せるかもしれない
【終焉に終焉を。】
視界が真っ白になった、そして、終焉は消え去った。
....いや、完全には消えてないのか。終焉のエネルギーは消えなかった。
そこからはほとんど記憶がない。
「俺の過去...こんな感じだ」
「そっか...辛かったね....」
「....さてと、朝ご飯は食ったか?」
「まだ食べてない」
「そうか、じゃあ朝ご飯にしようか」
笑いながら俺は言う。でも、ユズは違かった。
「和人、もうやめて」
「...え?やめるって何を?」
ユズの急な言葉に少し驚いた。
「もう作り笑いするのはやめて...お願いだから」
「....ごめん」
また、作り笑いをしていたことに、気づかなかった。偽物の笑顔で、誰かが幸せになるのなら、俺はそれでいい。たとえ自分が苦しくても、相手が幸せならそれでいい。そんな、ただの綺麗事でしか語れない理由だ。
「和人...亡くなったお父さんが言ってたの、『過去は忘れて、今を見ろ』って、だから、もう過去のことで悩まないで」
「....いい....のかな?」
「いいんだよ、それで」
「分かった。ありがとう」
過去は忘れて、今を見ろ。か、いい言葉だ。
前を向くしかないよな。でも過去を忘れないとできないよな。
前を向こう、歩き出そう。