EP87 ミライ
あの瞳が。この世界にも存在する。
それは確定した。
ならどうするか。今回はエールのように、平面世界ではない。となると星の人々ごと転移は出来なさそうだ。
それに、サイズによっては、地球より困難になる可能性だってある。
本当に。悩むものだ。
夕日は半分沈み、静かに輝きを失う。
かつて、あれが道標となっていたのに。
「和人、もう行こう。宿を紹介するよ」
「ありがとう」
涙を拭い、立ち上がる。
芝生の踏まれる良い音が、珍しく苦しみに聞こえた。
下を向いていても、何も変わらない。前を向け。
そうやって自分に言い聞かせた。
そういえば、フィエールはどこへ?
「ユズ、フィエールは?」
「......あれ?確かに、ミライちゃん、フィエールさん見てない?」
「見てないよ」
誰も知らない。
そんなはずはない。と言いたいところだが、実際そうだ。何も誰も知らない。
「探してみよう。少し待て。魔力探知でなんとか.......」
魔力探知。それは魔力で魔力を探すもの。
索敵スキルとしての利用はもちろん、水中、空中問わずどんなところにいても使え、最初期護身用魔法や、社会生活併用魔法にも含まれるほど簡単な魔法で、軍事用途でも発展魔法が使われるほどだ。
フィエールほどの強さなら、おそらく建物十数階建てに匹敵する大きさになるので、とても良い手段だ。
「和人、どう?」
ユズが心配そうに聞く。
「......それらしい気配は感じない。魔力を抑えているか、あるいはかなり遠い場所にいるかだ」
「和人!あれ!」
お次はミライが指を指す。人に指を指すなと言いたいが、そもそも文化が違いすぎるのでやめた。
その方向に目をやると、確かにフィエールが。
トコトコと川の流れを見つめながら歩いている。
こちらに向かっている。
少し疲れた様子で、鎧の一部が消滅している。
「よかった......!」
ユズが目を輝かせて言った。
ただ同時に、安堵と不安が重なった。
数分後、フィエールはこちらへやってきた。
「何かあったの?どこ行ってたの?」
ものすごく心配そうで母性の溢れるミライの声。
「いや、ただ散歩行ってただけだ」
嘘を吐くフィエール。騙される二人。
「そうか散歩か。で、どこに行ってたんだ?」
俺はただフィエールに聞いた。
嘘である事、そして、何かがあった事。俺はすでに気づいている。
「......だから何も」
「なるほど。で、何が?」
「.......」
多少の沈黙の間。風が隙間を通り抜ける。
その後フィエールは仕方なさそうに答えた。
その表情は、さすが和人。嘘を見破った。と言わんばかり。あまりフィエールが見せない顔だ。つまり、事態がかなり深刻か、あるいはそれ以外の何かがあったことを示す。
「......村の外に。魔物がいた。それも———」
「———終焉の。魔物だ」
やはりな。
「もうこんなとこまで来たか。そいつの特徴は?」
「魔力コアのようで、核はあの瞳のようだった」
フィエールはしっかりと詳細を話してくれた。
ただ、また不可解な。
ここの村は、外壁に囲まれて居る。
高さはざっと三十メートルを超え、到底ここからじゃ外を見ることは出来ない。
見えるのは、夕日の沈む海の方だけ。
つまり、街の中に出てきたということ。
「なるほど。ありがとう。とりあえず今日は宿に行こう。今の情報だけでは断定できない」
「わ、わかった。じゃあ急ごう。こっちだよ!」
ミライは走り出した。
少しフィエールは悲しそうだ。
「鎧がなくなったんだろ。胸当てと、腕のが」
「よく気づいたな。和人」
そう話しかけると、フィエールは少し嬉しそうだ。よかった。
フィエールは、なぜか鎧を脱ぐことを嫌がる。
俺の前では良いらしいが、みんなの前、特にユズの前では。
尚。今は魔力を練って作った仮初の鎧がそこにある。
ちょっとふにゃふにゃして居るが。
冷たい空気が体を包む中、俺らはミライの案内の下、宿へ入った。もうこんなところまで俺らの名が知れ渡って居るようだ。情報って怖い。
宿はかなりよく、ベッドもふわふわしている。
木製の柱と、レンガ?らしきものに石膏のようなものを塗った壁は、冷たくも暖かさを感じさせる。
部屋も広いし、設備も充実。
さすが観光名所。と言いたいところだが。
なぜベッドが一つなのだ。なぜダブルベッドなのだ。
フィエールはミライと泊まるそうで、そっちはシングルベッドが二つ。ミライにまんまとハメられた......
ユズは、というと。
「和人ー。早くー早く入ってきてよー」
と、ダブルベッドを良い事に、何かを企んでいる様子だ。
『この宿、結構防音できるんだー。......ね、和人?』
と言ったミライを恨むとしよう。
良い部屋ではあるが、ソファと布団はなく。おまけに地面は冷たいタイル。
「分かったから。ユズ、そういうのは。そういう雰囲気になってからだ」
「うん。やっと二人になれたね!」
話を聞いていないようだ。
今夜は寝れるだろうか......




