EP86 真面目でふざけた話
このご馳走は、時間がかかっても味が落ちず、輝きを保っている。
にしても美味すぎる。
三ツ星レストランのような味だ。
行ったことないから分からんが。
「私もうお腹いっぱいーだけど食べる!」
「ユズ。やめとけ。腹壊すか動けなくなるぞ」
「大丈夫!若いから!」
「そういう問題なのか?」
フィエールが呟く。ほんとその通りだ。
「ユズ.......太るぞ」
その瞬間。ユズは咳き込む、むせたのだろう。
「和人。デリカシーないの?」
俺は間違ったことは言ってない。ああそうだ。何も間違ってない。
「デリカシーないけど、デリバリーーならあるぞ」
適当に返事をし、サラダを食い尽くした。
にしてもこの体。
いくら食っても腹が満たされない。空腹も感じない。最高だ。いくらでも上手いもんが食える。
その後、少し歩きながら話を聞いた。
さっき居たのは大学だそうで、村、そしてこの周りの数個の地区で最も有名な大学らしい。
その旧校舎がよく客人を招くのに使われ、今回俺らも同じだった。
多くの和風建築が建ち並ぶ中、向こうに薄っすらと見える山の手前には西洋風の館、そして城が見える。
大学院の学生棟を背に、俺らはただ話していた。
まだ夕日とは言えない夕日を眺め。一本の木の下で。
「えーっと......ユズ?さんと和人はどうやって出会ったの?」
「どうやって......か」
「和人が空から降ってきた!」
「......は?」
「は?」
ミライとフィエールはほぼ同時に反応した。
いや当然の反応か?
女の子でもあるまいし、空から降ってくるなんてそうそうないだろう。あるとしたらスカイダイビングぐらいだ。
「まあ色々あってな。空から落ちて、建物突き破って、んでこいつに助けてもらったんだ」
今。彼女に。
終焉が俺によるものであることを言ったらどうなるのか。
怖い。少し怖い。
言葉が詰まって、何も言えずに居た。
表情に出ていたのかは分からない。けど、ユズはそれに気づいていた。俺が何を思ったのかも。
「ほんと大変だったんだよー。血だらけで倒れてたくせに起きたら直ぐに『行かないと』とかいうんだから」
小さな笑いを浮かべながら、ユズは言った。
風に少し丈の長いスカートが揺られ、ボディラインが顕になる。
気持ちの良い風。あまり気にしていなかったが、今は何月になったのだろう。
少なくともこの世界では秋。紅葉が映える山と、その前の池を包み込むような村に、和風の建築が多く建っている。
そう言えば、過去に似たような文明を見たような、そんな感覚だ。
......「不確定文明」としよう。
クリアは移動型高度文明だな。
窓から光が差し込んでいる。
カーテンが揺れている。
鳥が飛んでいる。
カップルが数組歩いて止まって、座っている。
この地に、物語が存在した。
「......そうか」
「どうしたの?」
ユズが心配そうに下から覗き込む。
「いいや。大丈夫。気にするな」
小さくうなずいて、ユズはミライと話し出した。
汚れたスニーカーが光に照らされて、ユズの髪が靡いて、良い匂いがする。
「そうだ、和人。話。しようか」
ミライは下を向く俺に、笑顔で言った。
俺はこの感情を隠して、返事をした。
"話"というものを、今ここでしなければならない。
「ああ。そう言えばそうか。で、話って?」
ミライとユズはすっかり仲良くなって、目を合わせた後、ユズは少しはなれていった。
俺とミライの二人きり。そんなものを、ユズは許した。
「そう。話、それはね———」
ミライは続けた。
この世界の。"終焉"について。
なんとなく理解していた。
この世界にも、どの世界にも、終焉が訪れる可能性はある。
俺が来たから終焉が訪れたのか、はたまたその逆か。
俺には分からない。
でも、終焉は、自然の産物だ。
自然の多いところに現れれば強くなる。
でも、終焉は、人間の産物だ。
人口の多いところに現れれば強くなる。
それだけはどうしても揺るぎない事実。
でも言えなかった。
言おうとしたが、それを俺の心とミライの言葉が封印した。
ミライは、終焉によって父、祖父母、そして四人いた兄弟を全て無くした。
かろうじて生きていた母も、余命宣告を受け、今や植物人間だ。
ただ存在するのみ。
人間という活動を根本から断ち切っている。
そして、ミライの口は止まらず、当然ながらそれが辛いこと、それが他の人にも共通するが、認められないこと。そして何より、神なんぞいなかった。つまり、終焉が、もう訪れていることを教えてくれた。
ごめん。俺のせいで......
神なんて信じなかった。
神を信じた彼らも、神を信じなくなった。
もう俺は神と同等、もしくはそれ以上であるが、それだけは否定できず、受け止めるしかなかった。
それが正しいから、それがそれであって良いからハンコを押した訳じゃない。
たった一回の、たった一人の過ちが。世界を滅ぼした。
自然と泣けた。涙を拭った。
「———和人。あんたには特殊な何かを感じるの。それこそ、終焉に対抗するような。そんなものを。だからさ、一緒に頑張ろ。私たちはずっと一緒。もちろん、ユズちゃんもフィエールさんも」
笑顔で小指を差し出した彼女に釣られ、小指を重ねた。
ふざけた真面目な話を、今ここで交わした。
戦うしかないのだ。
あの瞳に。




