EP 8 思い出せ過ちを、歩き出せ世界のために。
あれから2ヶ月がたった。その2ヶ月間、ユズに魔法を教えていた。
聖天地から、下を見下ろす。東京を中心に重力の崩壊が進行している。今日までで何人の方が犠牲になったのだろうか。少なくとも億は行っているはずだ、遠くの方で光が見える。おそらく避難所だ。まだ顔を出したばかりの朝日の方を向く。
[出来るだけ多くの人が、救われますように]
俺は、声に出して心の底から願った。
「.....そうね、多くの人が助かるといいね」
「ユズ、起きたか」
「うん、おはよう」
「おはよう、そろそろ、始めないとだ」
「うん、昨日みたいにしてたらだめだよね....」
「........」
ユズの瞳が輝きを失っていく。
「でも....」
「仕方ないこと.....なんだよね?」
「そう....だ」
「.....出来るだけ早く終わらせれば良いんだ」
風が吹く。草が踊る。光が差し込む。
何もせず、ただ向き合って時間が流れていく。
何も言えない。また、ユズを悲しませてしまうかもしれないから。
「ユズ.....前を向こう。きっと大丈夫だ」
「うん、きっと大丈夫だよね.....」
俺は黙って頷いた。
「じゃあそろそろはじめよっか。この世界を守ろう、そして、一緒に幸せになろう」
「.....そうだな」
この世界が受け入れてくれたら....いいんだがな。
一緒に..か、今までできないかったことを出来るようにする。それはとても簡単なことじゃない。けど、可能性があるのなら、たとえどれだけ苦しんでも、俺はそれを掴もう。大丈夫、俺は一人じゃない、昔みたいに。
「ねえ、和人」
「どうした?」
「私ね、思ったの。和人と過ごして、今日で2ヶ月たったけど」
ああ、もう2ヶ月か、早いな刻の流れって。あの日
から、ユズに魔法を教えていた、それで気づいた。ユズには魔法の才能がある、だから希望が見出せる。
「和人.....私、私ね、和人のことが好き」
ユズはそう言って俺を抱きしめてきた。俺は、驚いて動けなかった。こんなのは初めてだ、だから最初は信じられなかった。けど、嘘じゃない。だってユズが言うんだから。
「和人のこと、すーっごく大好き!」
「......」
俺は、愛されていいのだろうか。こんな世界で、俺が幸せになっていいのだろうか。俺のせいで世界が終焉を迎えたのに。そんな疑問が頭を飛び交う。
「ユズは.....俺でいいのか?......」
「いいの、和人なら一緒にいるだけで幸せになるから」
視界がぼやける。泣いてんのかな?俺。脳裏に染み付いた傷跡が鮮明に見えてくる。
―和人の記憶―
「もう.....どうでもいい....」
全てが嫌だ。もう諦めよう。
「お兄ちゃん!やめてよ!」
ただひたすらに首を切る。切って切って切って、切りまくる。
「明里、ごめんな、こんな兄ちゃんで」
「お兄ちゃんは悪くないよ!どうしてお兄ちゃんがそんなことしなくちゃいけないの!」
血まみれになった手で、明里を抱きしめる。
「いいや、俺が悪いんだ、生まれてきてしまった俺が悪いんだ」
「お兄......ちゃん......」
俺は最後の力を振り絞って、包丁で首を切る。大量の血が周囲に飛び散る。
これで良かった。そう思っていた。それなのにただ苦しいだけ、意識が残ってる。おかしい首を切り落としたはずなのに。
俺は、自分の死なんかで終焉を招いたことを償えると思っていない。けど、死以外では到底足りない。どうやって俺が終焉を招いたのかは、覚えていない。終焉を招いた理由も、もう遠い過去の話だ。俺に生きる資格なんてない。
「....に...........して....」
明里の声が遠くなっていく。ああやっと死ねるのか。
何と言ったのだろう....?
視界が暗闇に包まれ、やがてまた何かが見えてくる。
さっきいた場所だ。少し時間がやって気づいた。
俺は、死ぬことすら許されないのだと。
誰にも愛されて来なかった。それなのに妹は、止めようとしてくれた。お礼をしに行こう。そう思って立ち上がった。傷がもうない。首を切ったはずなのに、繋がっている。歩き出す、妹は部屋にいるだろう。でも....
「......これって.........」
自分の部屋から出た瞬間、その目に映ったのは、完全に崩壊した世界だった。
言葉も出なかった。あの刻俺は全てを失った。
けど、今は違う。
「ユズ.....俺も、君が大好きだ」
「ありがとう!」
「さあ、前を向こう、そして世界を救おう。もちろん、一緒にな」
俺はもう一人じゃない。ユズももう一人じゃない。
俺なんかが生きていていいのか。そんな疑問はもう捨てよう。俺は世界のために、ユズのために生きるのだから。
もう大丈夫。